わたしとズワイガニ


いつものように

机に向かい

わたしが詩を書いていると

ズワイガニがわたしの足元までやって来て

飛び出したその眼球で

靴下の辺りをじっと眺めるのです

わたしは

詩を書く手を一旦、休め

(このズワイガニは一体、何を考えているのか………)

想像を巡らすことにしました

ですが所詮ズワイガニではないわたしには

その心の内まではわかりませんでした

試しに言葉を投げ掛けてみました

「パン、買って来な」

ズワイガニは隣りの部屋へと移動しました

そして夕日が沈む頃に母に拾われてお味噌汁の具と成り果てました

「………あれ、ここにいたズワイガニは?」

「今ちょうどお風呂に入ってるわよ」

煮え立つ鍋に放り込まれたズワイガニはその旨味成分を存分に抽出されていたのです

この世界が狂っている瞬間でした


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