コンビニエンスストア


おれは壊れた時計を凝視した

そこに何かしらの意味を見出そうとしていた

だがしばらくして飽きると

おれは近くのコンビニエンスストアへと向かった

「いらっしゃいませ」

店員がおれの肩にぽむと手を置いて言った

「ねえニュース観たあ? おれ感動のあまり涙がとめど無く溢れてきちゃったんだけど」

どうやらサッカーの大会についての感想を述べているらしい

おれは店員を無視し棚に置いてあったスニッカーズを手に取り眺めた

「お」

店員が口をすぼめて言った

「それってスニッカーズじゃんかよ」

そうだよ

おれは思った

これはスニッカーズだよ

ちらりと店員の方を見た

そして再びスニッカーズに視線を戻した

店員はおれを無視して言った

「懐かしいなあ、まだこんなのうちの店に置いてあったんだ」

そうだよ置いてあったんだよ

おれは三年前の冬からそのことに気付いていた

この店には絶えずスニッカーズが置いてあるということを

それについて当時、無職で時間が有り余っていたこともあり実に様々な憶測を巡らせたものだ

ここのコンビニの店長が狂信的にスニッカーズを崇拝しているだとか

だがそんな思考もいつしかやめてしまった

おれは働き始めたのだ

働く

働くと余計なことなんて全て削ぎ落とされてしまう

しかしおれは再び無職へと返り咲いた

おれは手に持っていたスニッカーズを軽く上下に揺らしてみた

店員にはその動作の真意がわかった

「ナッツぎっしり確かな満足って言うけど本当だね、これだけの重量感を他のお菓子ではなかなかお目にかかれないよ」

それだけ言うと店員はフロアにごろんと横になった

心臓発作で死んだのだ

おれはスニッカーズをレジへと持って行った

店員が来ない

「………」

おれの後ろでまだ寝っ転がっているつもりなのかあいつは?


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