第十六節:鏡面世界からの帰還

 ソイツは腕を大きく振ってしまい、レイスタッチは空振りに終わりそのまま身を斬られブルブル震えていた。


 おこったりいかったりしているわけではなく、自身の存在を維持するために必死にコアを制御しようとしているのだ。


 それだけしぶとかったともいえる。




 まさにあと一息といったところだった。



 ココ一番である。


 切札を斬ることにした。


 本来はまだ難しい、高等魔法に手を伸ばしたのだ。


 声は掠れてほとんど出なかったが、詠唱を読み上げるだけならかすれ声でも十分だった。


「カミノ……イキツムマニ……ホトバシレ……カミノイブキヨ……テラスマッシャー」そこまでは声が出たのだ。


 その直後自身の眼前からエネルギーの奔流が走りソイツを飲み込み押し潰した、その周囲にあったものすべてを削り切る程のエネルギーが垂れ流されたのであった。


 呼吸は荒々しく、声はほとんど出ない状態まで消耗し尽くしたのである。


 肩を大きく上下させ呼吸を確保する、そういう羽目に陥ったのである。





 そして空間が、きしむ音がした。


 次の瞬間、異界がはじけた。








 私は宿屋の前の大通りの真ん中に立ち尽くしていた。


 倒れてはいない。


 ステートパーセプションを唱え、自身の状態を確認する。


 最後のあれはランク以上のすべを使ったためすべて唱えないといけなくなっただけで、ランク以内のものについては本来詠唱そのものが必要なくなるのだ。


 自身の様子は大分ボロボロだった。


 精神力は疲労の極限まで、使い切りかけていた。


 体力のほうはまだだいぶ残っていたが、意識を失う寸前までいったのである。


 足元がおぼつかない状態で、宿に入ったところまではしっかりと覚えていた。


 そして何とか、部屋にまではたどりついた。


 そこからの記憶はあまりはっきりしなかった。











 気を取り戻すのはみんなが戻ってからだった。


 それまでは鎧もそのままに、ベッドに突っ伏して寝ていたのであった。











 最初に発見したのは『セリア』だった。


 偶々、予備の呪符を取りにお昼に宿の部屋に戻ったのである。


 その際私を発見したので、皆に戻っているという文を符のフクロウで届けたのであった。


 その後『セリア』は他の男性メンバーが戻る前に、私から鎧やかぶとを外しちゃんと疲れが取れるようにしてもらえたのであった。


 そのおかげか、ぐっすりと眠れたのであった。


 私が帰り着いたのは、昼前の十一時半頃だったらしい。

 宿屋のフロントの証言だった。


 私が起きたのは夕方の十九時頃であった。



「『ウィオラ』ちゃん起きたわよ」と『セリア』の声が聞こえた。


「大丈夫そうか?」とは『ウィーゼル』の声だ。


「大分疲労の色が濃かったからな」とは『ゲルハート』の声である。



 逆に聞いた「みんなのほうは無事ですか?」と開口一番私はいった。



「俺たちのほうは特に何か起きたわけじゃないんだ」と『ゲルハート』が答えた。


「『ウィオラ』は無理してないか? 大丈夫か?」と『ウィーゼル』がいう。


「無理はランクでバレるからね」とは『セリア』の弁であった。


 事実気になるランクの方は私だけが二十九、『ゲルハート』、『ウィーゼル』が二十五、『セリア』は二十四のままだった。


「どんだけ無理したの?」とは『セリア』の言葉である。


「まあ今日はよく食べて寝る事ね」ともいってくれたのである。



「ますます差が開くな」とは『ゲルハート』の言であり、「確かに、どれだけ倒したらそうなるんだ?」とは『ウィーゼル』の言であった。


「流石に連戦はこたえました」とは私の答えであった。



「連戦か、どんなのが出たんだ?」と『ゲルハート』が興味津々で聞いて来てくれた。


 それに答える形で質疑応答が始まり夕食までに今回相手したヤツラのことが話せたのであった。


 夕食もルームサービスという形で取り、「明日は念のためもう一日休んで……」という『ウィーゼル』の話しも加わって、明日立つはずだった話が浮いたりしたのであった。



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