2.うずたかく積まれたゴミ山の中では視界が悪い

「どこに落ちたんだよアレ!!」


 カラカラと何かが転がる音がする。狛の足元には木や鉄などの廃材が絡み合って落ちていて注意しないとケガをしてしまうだろう。

 彼はゴミ捨て山の廃棄物ゴミ処理場で、落ちたロケットを探していた。

 反重力力場に入り込んだロケットはゴミ捨て山に近づくにつれてどんどん落下速度を落とされて、音もなく着地した。もう長いこと廃棄物が落とされていくのを見ている狛は、いつも通りに山の麓からそれを確認したわけだが。


「この辺りに落ちたはずなのに、全然見つからねー!」


 ――いまからあそこに向かえば、おばあちゃんと丁度よく会えそうだなと思ったのは失敗だったかも。おばあちゃん全然見つからないし。

 ゴミ捨て山は宇宙からやってきた廃棄物ゴミの山だ。主に木や鉄などの廃材がまとめて雑多に捨てられるが、たまにロケットや宇宙船そして人工衛星などが落ちてくる。それらは中身が入っていない時もあれば、入っている時もある。いま狛が心配しているのはまさにそれで、つまりは予定外の違法投棄であるあのロケットの中に危険物があるかないかということである。

 また実際にゴミ捨て場になっているのは山の半分で、残りの半分には元の山肌が緑と一緒になって残っている。

 ゴミは処理が間に合っておらず年々折り重なってうずたかく積まれている。形そのままのロケットや宇宙船そして人工衛星などももちろんだ。このままのペースで高くなっていくとしたら、狛が大人になっても遠くを見渡せないに違いない。

 いまみたいに狛の身長より高く積まれて、地面ももっと見えなくなるだろう。そうなれば山の全てがゴミ捨て場として開拓されることになる。


「あーーっもう!! おばあちゃーーん! いるなら返事してーー!」

「プモプモ」

「ッハァ!?」


 変な声がした。鼻から空気が抜けたような。

 ――ロケットに乗せられてきた地球外生命体か?

 狛が背中にひんやりと汗が流れるのを感じながら恐る恐る声のした方に振り返ると、そこではつぶらな瞳に白くてふわふわの綿毛を生やした膝丈くらいの大きさの生き物が鉄くずの山の上から彼を見ていた。


「お……ただのうさぎかよ。脅かせやがって」

「――ただのうさぎじゃない」

「ッハァ!?」


 ――うさぎがシャベッタ!?

 その可愛らしい生き物は首を傾げて言葉を続けた。


「とてもキュートな白うさぎだ。そこらのやつと一緒にしないでもらいたい」

「そこかよ!?」

「重要な事だ。僕はそう作られている」

「……あー、なるほど。お前ロボットか」


 今の時代、動物に模したロボットは珍しくない。実際廃棄物として捨てられていたのを狛は見たことがある。

 ――でも人と話せる動物ロボットなんて初めて見た。

 普通の動物として扱いたいという人が多く、話す機能など付けたらロボット丸出しになるので嫌がられる。というのを狛は聞いたことがあった。

 ――どうせ飽きたら捨てるくせに、変なこだわりだけ持ってるんだ。……こいつも、愛されてたはずなのに。


「そっか。お前が落ちてきたロケットの中身か」

「そうだ。さっきからお前お前と失礼だな少年。僕には博士という立派な名があるんだ、そう呼べ」

「……偉そうなうさぎだな。いいかハカセ、俺も狛大地ってちゃんとした名前があんだ。そう呼べよな」

「こまだいち。うん、いい名だね」


 そう言うと、ハカセは鉄くずの上から降りて狛の近くに走ってきた。


「……ところで君は何でこんな所にいる? 迷子か?」


 そして両前足をあごに当てて狛を見上げる。どこか圧のある言葉に対してそれが可愛いのが彼を少しムカつかせた。

 それにしてもどうしてこんなに強気なのか。このうさぎは可愛さを笠に着て調子に乗ってるのかと狛は思う。それとも、もしかして捨てられたのを分かっていないのか。


「迷子じゃねーよ! 俺はこのゴミ処理場の管理人の孫なんだ」

「……孫? それは実質無関係の人物では? あぁ、勝手に入りこんでゴミあさりか。それはダメだよ狛少年」

「ちげーよここは俺んちの裏山でもあんだ。ハカセの乗ってきたロケットを探しに来たんだよ。それに、おばあちゃんの跡は俺が継ぐし、無関係じゃねーよ」

「そうか、お仕事のお手伝いをしていたんだね。そして管理人である祖母とはご家族一緒に暮らしている、と。――おや? 君が継ぐとしたらご両親は何を?」

「……。ゴミ処理業務はおばあちゃんの仕事だ。俺は安全を確認しに来ただけだから、呼んでくるよ」


 ――ロケットの中身は確認できた。この時間になってもこの場所におばあちゃんがやってこないってことは、ロケットが落ちてくる前に事務所に連絡があったのかもしれない。そうならおばあちゃんは家でのんびりしてるだろ。

 狛がこれ以上ここにいる理由はなかった。

 そうして元来た道へ戻ろうとする彼の背中にハカセが声をかける。


「まってくれ。君はいくつだ」

「12だけど、それがなんだよ」


 それを聞くとハカセはプモプモと鼻を鳴らし長い耳をピンと立てた。つぶらな瞳が狛を映し、その口元はモコモコ動く。

 真っ白でふわふわ柔らかそうな毛に包まれた両前足が胸の前に重ねられて、そしてハカセはお辞儀をするかのようにぺこりと頭を下げた。


「狛少年。どうかぜひ、僕の大事なに会ってくれないか」

「――ッハァ!」


 ――かわいい。

 狛は緩みきったニヤケ顔がおもてに浮かんで、しかしそれを自分で直せない。しかたなく手で顔を隠すも指の隙間からハカセをついつい覗き込んでしまう。


「うんやはり。君が僕の魅力にとりつかれているのが僕には感じ取れていたよ」

「あーくっそ! ――いいよ連れてけ!」


 ――冷静に考えたら、もう一体ロボットがいるならそっちも確認しないと。報告と違ったーなんて、おばあちゃんに後から怒られるのは嫌だ。


「顔が赤いよ狛少年。そんなに僕のことを気に入ってくれていたのか」

「うっせー! 早く連れてけよ!」


 そうして狛はハカセの後ろについてゴミ捨て山の奥、ロケットの落下地点へと向かうのだった。

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