どうしてギルドの仲間は人間じゃないとダメなんですか?

ちびまるフォイ

学ばせて学ぶ

ギルドを訪れた冒険者はそこに集う人間を見回した。


「今フリーの仲間っていませんか?

 これからいろんな場所に冒険しに行きたいんです」


「それはよかった。ちょうど今日入った新人がいるんですよ」

「キャバクラか」


ギルドの奥から新しい仲間がやってくる。

ガチョン、ときしむ金属音がする。


「新人のアイちゃんです」


「ドウモ、アイ、デス」


「どうみても機械じゃないですか!!」


「よくわかりましたね。人工皮膚に人工声帯。

 見た目は寸分たがわぬほどに人間なのに、

 どうしてロボットだとわかったんです?」


「モノアイだからですよ!!」


「でもアイちゃんはものすごく優秀なんです。

 魔法も使えるし、人間と違って食事も睡眠も不要。

 だからどんな危険な場所でも寝ずの番ができますよ」


「そりゃそうでしょうけど……」


「それとも人間でないといけない理由が?

 冒険などと称して単に異性といちゃいちゃしたいだけの

 スケベな下心でもあるんですか?」


「バッ……んなわけねーし! AIでいーし!!!」


冒険者は異世界史上はじめて人外を仲間にすることとなった。


見た目は人間なので街でも怪しまれることはないが、

逆に機械として荷物同然に扱うと周りの人がビビるので気を使う。


「ワタシハ、ニモツイレデ、イインデスヨ」


「人間を馬車の荷台に詰め込むのを見られたら

 誘拐と間違われるんだよ……」


「ソウナンデスネ、アイチャン、カシコクナリマシタ」


「大丈夫なのかぁ……」


アイはそんじょそこいらの木っ端冒険者とはわけが違う魔法性能。

その気になればチート勇者も「それチートだろ」と文句をつけるレベルの魔法を使えてしまった。


そのハイスペックさを見込んで同行させた冒険者だったが、

ハイスペックと使いこなせるかどうかは別問題ということに遅ればせながら気づかされた。


「アイチャン、インフェルノ!」

「ちょっ!! 逆!! 逆!!」


攻撃の方向は定まらない。


「アイちゃん! 回復してくれ!!」

「アイチャン、インフェルノ!!」


求められるタイミングで求めた魔法を使ってくれない。


「降参だ……この城も明け渡す。

 これまで人間に悪さして申し訳なかった……。

 これからは人間のために尽くすことにするゴン……」


「アイチャン、インフェルノ~~!!」

「アイちゃん!?!?」


降伏した相手も消し炭に変えたところで冒険者は我慢できなくなった。

アイちゃんをお姫様抱っこでギルドに持ち込んでブチ切れた。


「どうなってるんですか! こんなの使い物にならないですよ!」


「というと?」


「わけのわからないタイミングで魔法は放つから危なすぎるんです!

 もっと普通の、スタイルが良くて、頭の悪くて、いつも褒めちぎってくれる

 BOTみたいな女の子の仲間を呼んできてください!!」


「ははぁ、さては冒険者さん。アイちゃんの凄さをまだわかってないですね」


「ヤバさだけは痛感しましたよ。

 仲間に助けられるどころか、ピンチのシーンが増えましたから」


「アイちゃんは人工知能が内蔵されていて、

 これまでの戦いをビッグデータでストックされているんです。

 戦えば戦うほどに強く、賢くなっていくんです。キツいのは最初だけです」


「そうなんですか!?」


「嘘だと思うならアイちゃんに話しかけてみてください」


冒険者は疑り深い目でアイちゃんへ向き直り声をかける。


「アイちゃん、ちょっといい?」


「なんでしょうかご主人さま」


「な、なんかすごく言葉がうまくなっている!!」


「そうでございますよ、ご主人さま。

 私の人工知能がここの言語やご主人さまの反応を見て

 言葉を自動で最適化しているのです」


「な、なるほど……? なぜ"ご主人さま"なんだ?」


「そういう風に慕われるのが好みだと分析されました」

「やだ恥ずかしいっ」


ギルドの人はしたり顔で冒険者を眺めていた。


「いかがですか。これが人工知能ですよ。

 これからもっとどんどん賢く、あなたに適した仲間になるでしょう」


「俺に……適した……!?」


冒険者の脳内ではあられもない妄想が繰り広げられている。


「やっぱり仲間にしていきます!」

「そうでしょうそうでしょう」


「最初にちょっと失敗したからってダメなんじゃなく

 これからどんどん育てていくことが大事なんですね!

 失敗は誰にもでも! AIにでもあるのだから!!」


冒険者はギルドに入ってきたときとは真逆の心持ちで去っていった。


アイちゃんの人工知能による戦いの学習は本物で、

最初こそポンコツな失敗を重ねていたがその頻度はどんどん減っていく。


冒険者もアイちゃんとより協力できるように努力し、

いつの間にか戦いの技術も以前よりずっと向上。


その傍らにいるアイちゃんは

気づけば欠かせない存在となっていた。


「アイちゃん!」


「インフェルノ!!」


みなまで言わなくとも阿吽の呼吸で冒険者の指示に従う。

まさにパートナーというにふさわしい存在へとランクアップした。


「ご主人さま、危ない!!」


そんなとき、不意をついた攻撃にアイちゃんが盾となってしまった。

傷口からはバチバチと火花が散っている。


「アイちゃん! どうしてかばったりしたんだ!」


「私はロボット。壊れても問題ありません……カラ」


「アイちゃーーん!!」


アイちゃんの単眼から赤い光が消えてしまった。

冒険者は泣きながら抱きかかえてギルドへと駆け戻った。


「お願いです!! 助けてください!!」


「いったいどうしたっていうんです?」


「アイちゃんが壊れてしまったんです!

 俺が、俺がしっかりしていなかったばっかりに!!」


「大丈夫ですよ。これくらいなら治せます」


「でも治ったらまたデータが初期化されて

 カタカナで喋って、俺を忘れているんじゃないですか!?」


「アイちゃんの学習記録はちゃんとサーバーで保持されていますから

 初期化されていてもデータをインストールできますよ」


「じゃあ大丈夫ってことなんですね!」

「ええそうです」


「それじゃ早く治してください! 俺にはこの子が必要なんです!」


「え? まだ必要なんですか?」

「当たり前でしょう!」


冒険者たっての希望でアイちゃんの修理が施術された。


「はい、修理は終わりましたよ」


「ありがとうございます!!!」


「でもまだ使うんですね、十分だと思いますけど」

「何言ってるんですか!」


冒険者はかまわずアイちゃんの電源ボタンを押した。

ビコーン、という起動音とともに単眼に赤い光が灯った。



『冒険者教育用AI アイちゃん、起動しました。

 これより、ポンコツを装って冒険者の技術向上任務を開始します』

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