君のついた嘘なら
千波那智
プロローグ:一年記念日
「祐実。おはよ……」
俺、
彼女の名前は
初めての祐実とのお泊まりデートから一夜明けた。
「あれ、キッチンかな」
半分寝ぼけて手を伸ばすと誰もいなくて左手が空振っただけだった。
もう起きてるのかと部屋を出て一階のキッチンへと降りて行く。
しかし静寂がうるさく響くだけで、聞こえてくるのは時計の針が時を刻む音だけだ。
「待って。なんで祐実の荷物全部無くなってんの。もう帰ったの?」
一人でボケても当然ツッコミはなく「いや知らんがな」と一人でツッコんだ。
内心焦りながら部屋を見回すと、昨日持ってきていた着替えの服や鞄は既になかった。
幸せの記憶を一つ残らず拭い去るように何もかも綺麗に片付いていて、少しの不安が一気に膨れ上がる。
「おい、どこに行ったって言うんだよ」
とりあえずトイレ、洗面所、風呂桶の中。思いつく場所を片っ端から探すが、祐実は一向に出てこない。ここまで出てこないと悪ふざけでかくれんぼをしているのではないかとさえ思えてくる。
溜め息をつきながら自分の部屋に戻ると、付箋付きのメモ帳がテーブルの上に置いてある。
「は、ごめんなさいってなんだよ……」
頭をかきながら、ベッドに座り込む。
まだ微かに残る祐実の温もりを感じる。
「もうこの近辺にはいないんだろう。とりあえず祐実に電話しなきゃ」
「……おかけになった電話番号は──」
やはり呼出音が鳴る前に無機質なアナウンスが流れる。
「くそっ、着拒されてる……とりあえず孝に電話しよう」
祐実の幼馴染に電話をかけて、祐実がそっちにいないかと確認をしたが来ていないという。向こうも祐実を探してくれるそうだ。
このまま一生会えないかもしれないと思うと、あまりにも非現実的すぎて信じられない。
だけど失うのは怖くて携帯電話と残された手紙だけを握り締めて、宛てもなく家を出た。
「俺は祐実じゃなきゃダメなんだよ……」
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