第10話 きつこ、稲荷の神様より神使まみの情報を入手する
毎夜妖しい美女ウサコに変身して現れる、友人
彼女とぼく
きつこはぼくが得た手がかりをもとに、どのような打開策を立ててくれるのだろうか?
⌘ ⌘ ⌘
家に帰り着いてからも、先ほどの刺激的な出来事が脳裏からなかなか離れず、ぼくは眠りにつくまで時間がかなりかかった。
そんな寝不足の状態でぼくは朝を迎えたが、その日は珍しく、いつものきつこからのフライング・ボディ・アタックはなかった。
とゆーか、きつこはまったく姿を現さなかった。
さすがに未明の探偵活動、そして神様との打ち合わせで疲れ果てて、そんな余裕はなかったと見える。
そんなわけで、ぼくはかわりに自力で起き、学校に行く準備を始めた。
すると出かける三十分ほど前、きつこから〈
“おはよう、圭太。ボクだよ”
“ああ、おはよう。どうした?”
“あの後、神様のところで打ち合わせをしていたら予想以上に時間がかかっちゃって、ボクろくに寝ていないんだけど、出来ることならきょうの午前中にリサーチと下準備を済ませておきたいんで、学校の授業のほうは失礼するね”
“おいおい、きつこ。きょうは一日休むってことかい?”
“いや、まる一日休むつもりはないよ。
午後には行けると思う。なんたって、
“部活にゃ来るのかよ!”
思わずツッコミを入れたぼくだった。
“ああ、そのへんはうまく言い訳しといてと、さおりに頼んでおいたところだ。
栗田先生には『体調を崩したので午前中は休みますが、もし復調したら午後の授業は出ます』と伝えてもらえるはずだよ。
で、圭太に確認したいことがあるんだ”
“なんだい、それは?”
“さしあたって、昨日圭太が行ったという、マサルっちの家への道順を教えてくれないか”
きつこは今から、榛原の家に行く算段のようだった。
ぼくは、きつこにその道のりを説明してやった。
“じゃあ、行ってくるね。詳しいことは、いま話している暇はないから、学校に行ってから話すね”
そう言って、ぼくの返事も待たずにきつこの〈念〉は途絶えた。
このぼくにも、きつこの意図するところは、おおよそ読むことが出来た。
通学時間前に榛原の家に行って、昼間のミミコの顔を確認するのが一番目の狙いであろう。
そして二番目の狙いは、当然ながらミミコの親友、
おそらく彼女はミミコと一緒に通学しているだろうし、そうでなくともミミコにくっついて中学校に行けば、間違いなく彼女に会うことができるはずだ。
きつこは、そういう「当事者」たちのリサーチをしてから、有効な対抗策を練るつもりなのだろう。
もちろん、それは彼女たちに気が付かれぬよう、細心の注意を払って行わないといけない。
そんな所業は、榛原はもちろんだが、神使たるぼくにだってとても出来るものではない。
自分の気配を消したり、瞬時に場所を移動したりできるきつこにして初めて可能なのだ。
もしかしたら、別の人間あるいは動物などに
そう、狐と狸の化かし合いってヤツだ。
そういうことでぼくは、きつこ大明神の健闘を期待して、とりあえずは学校で吉報を待つことにした。
⌘ ⌘ ⌘
いつもより早めに学校に着いたら、
「おはよう、窓居くん。さっき、きつこさんから聞いたけど、昨夜はうまくいかなかったみたいね。
ともあれ、おつかれさま」
「ああ、残念ながらね。
でも、いくつかの重要な情報が得られたので、半歩前進ってところだ。
きつこががんばって、午前中になにがしかの方策を立ててくれると思うよ」
「そうね、たぶん。そのためには、ちょっとズルをしても仕方ないわね」
そう言って、高槻はぼくに上手にウインクをして見せた。
こんないたずらっぽい仕草、知り合った当初の高槻には考えられなかったことで、変われば変わるもんだなとぼくは思った。
それからほどなく、榛原も教室に入って来た。
ぼくから声をかけた。
「おはよう、榛原。昨日はおつかれ。
きつこには、引き続き調査に出てもらっているよ」
すると、榛原からこんな返事がかえってきた。
「ああ、さっき家で、俺の目の前にいきなり現れたんで驚いていたら、『突然でゴメン、道は圭太に聞いた。詳しいことは後で話すから」と言ってすぐにまた消えてしまった」
「そうか。ぼくが思うに、きつこのしようとしているのは、ミミコちゃんの身辺調査ってやつだろうな。
うまくいくことを祈ろうぜ」
榛原は、それに無言でうなずいた。
⌘ ⌘ ⌘
昼休みになった。ぼく、榛原、高槻、それに
先輩には、きつこが体調を崩して授業を欠席していること、でも午後には出てこれそうだということを話しておいた。
「いつも元気いっぱいな
でも、部活に出てくれるというのなら、まったく文句はないよ」
先輩としては、あと数か月と残り少ない吹部の日々を、高槻やきつこら美少女たちと過ごすのが何よりも楽しみなんだろう。
昼休みも残り半分となった頃、ふらりとひとりの人影が現れた。
睡眠不足のせいか、だいぶんやつれた表情のきつこだった。いつもの元気さは、さすがにない。
ぼくたち4人から、どよめきがわき起こった。
「おつかれ、きつこ。だいぶん消耗しているみたいだな。
まずは、保健室で休養を摂ったらどうだ?」
歩み寄ったぼくが気遣ってそう声をかけると、きつこは手を横に振って断った。
「いや、それは後で行くことにするから。
まずはボクの報告を済ませたいんだ」
そして、声を低く落としてこう付け加えた。
「マサルっちにはあまり聞かせたくないから、校舎の裏手に行こう」
「わかった。じゃ、そうしよう」
ぼくはその場にいる他の3人のほうを向いて、こう手短かに言った。
「みんな、ちょっと失礼するよ」
そうして、ぼくときつこは
⌘ ⌘ ⌘
「まずは、神様との相談内容について話そうかな」
きつこはそう切り出した。
「あの後、ぼくは稲荷神社まで移動して、われらが神様を呼び出して面会した。
例の『まみ』と名乗った女性について神様に調べてもらったんだが、神様にははっきりとした記憶がなかったので、さらに上役の神様にまで問い合わせてもらう羽目になった。
だから、予想以上に時間がかかったってわけさ。
お役所でも、出先の機関なら小回りが利くが、本局まで問い合わせをするとなると、返事がかえってくるまでけっこう時間がかかるだろ。あんな感じだよ。
で、わかったことは、もう5年以上前のことだが、となり町である
その名は、まみ。
正体はメスダヌキのあやかしだ。
まみは、おとなしく真面目な性格ではあったが、とても不器用なのが玉にキズだった。
人間や他の動物に化けようとしても、必ずどこかが化け切れていなくて、文字通りシッポを出してしまう、ドジな神使だったんだ。
ただ、まみはすべてのものに化けることが不得意なわけではなく、道具類のような無生物に化けるのは得意だったそうだ。
だが、それだけでは、神使の仕事をまっとうすることは難しかっただろうね。
仕えていた神様も、まみの気立てのよさを買ってその失敗を大目に見ていたのだが、役立たずのため見習のままにせざるを得なかった。
つまり、下働き的な仕事しか、与えられなかった。
そのうちまみ自身が『これ以上、この仕事を続けても神様に迷惑をかけるばかりだから』と思い詰めて、自分から役目をおりてしまったそうなんだ。
つまり、まみはその時点から、『はぐれもの』になってしまった。
まみのその後のことは、神様のほうの記録には何も残っていないそうだが、風のうわさとして、人間の世界に潜り込んで、女子生徒をやっているらしいことだけは伝わっているという。
これだけわかれば、ミミコっちの親友、絹田なにがしがそのまみというタヌキだということは間違いない。
神様も、ボクのその判断に同意してくれた。
そこでボクは神様に、どうしたらミミコっちの毎晩の変身を終わらせることが出来るのか、尋ねてみたんだ。
神様はしばらく考えていたが、こう答えてくれた。
『まみの気立てより判ずるに、みずからの
うーん、神様の古臭い言葉で言うとわかりにくいから今風に言い直しちゃうけど、要するにまみは優しい性格の子だから、自分自身の考えだけでミミコっちを変身させたんじゃなくて、ミミコっちがこうなりたいなぁと願っていたことを彼女に変わって実現した、そういうことなんだよ。
神様は、続けてこう言った。
『しかるに、ミミコみずからその願いを取り下げなば、おのずと
だから、ミミコっち自身、そういう大人の女に変身したいと思わなくなれば、まみもその気持ちにしたがって、ミミコを変身させなくなるってことだよ」
神様のその考え方には、ぼくもなるほどと思うところがあった。
ぼくのお姉ちゃんしかり、高槻姉妹しかり。
異変の
逆に心が変わることがなければ、解決しない。
それらの事例を思い出しながら、ぼくは深くうなずいた。
「その通りだと思うよ、きつこ。神様の判断で間違いない。
ミミコちゃんの持つ考えを変えることが出来れば、この問題はなんとか解決する」
「うん、ボクもそう思う。
で、問題の核心はこれからだ。
ボクがミミコっちのあとをつけて、中学校まで行ったときの話に移ろう。
ミミコっち、そしてまみが、学校でどんな会話をしていたか、話してあげよう」
そう言って、きつこはひと呼吸おいた。
ついに、ミミコの心の問題が明らかとなる。
期待か、あるいは
ぼくはきつこの次の言葉を、異常な昂揚感とともに待っていた。(続く)
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