新感覚乙女ゲームに飛び込んだら逆ハーレムにならないと現実世界に戻れない!
羽弦三千(うつる みせん)
第1話 いきなり死亡END回収
大学のオンライン授業のページを開けて、課題のファイルをドラッグ&ドロップし、送信ボタンを押した。パソコン画面右下とちらっと見たら、もう夜九時だ。
これが私の日常。
今年の春から二年生になった私は、原宿で友達とクレープを食べ歩きしたり、タピオカを飲んだりしているおしゃれでピッカピカの女子大生のはずだけど、ウィルスのせいで大学の授業を全部オンライン化して、外出自粛となったことで本日の私も絶賛引きこもり中だ。
課題をもう提出した。今からは楽しいゲームの時間だ。
幸いなことに、私にはゲームがある。外に出ることができない今頃は、ゲームをやるのにちょうどいい時間だ。
昔から乙女ゲームばかりしていた私は、もう目が肥えてきた。でも、VR×AI技術を用いて作られた新感覚な乙女ゲームが発売されたと聞いた時には、さすがの私もウキウキしてしまった。VR×AI技術は、ゲームの世界をまるで現実世界のように再現することができる。伝統的な選択肢会話ではなく、思うままに攻略対象たちと話せるのは、乙女ゲームファンにとっては夢のような技術だ。
さてと、そろそろ始めよう。じゃないとまた夜更かししちゃう。そう考えながら私は全身を覆うVRスーツに着替えた。
今からやるのは、「ロージー・レトロスペクション」という乙女ゲームなのだ。カタカナだらけのタイトルだけから見ると、ヨーロッパ風の世界観かもしれない。パッケージには攻略対象のイラストがあるはずだが、性急なのできちんと見なかった。確かに欧米系のイケメンが何人かいるといううろ覚えの記憶が残っている。
「はじめる」ボタンを押すと、ローディング画面が出てきた。
正直に言う。VRスーツを着るのは初めてだ。ちょっと不慣れで、姿勢を調整するのも難しい。なんでヘッドセットだけじゃだめなのかな。全身まで使う乙女ゲームなんて、想像するだけでヤバさを感じる。確かにこのゲームの年齢制限はR15だ。もしR18となってまたVRスーツだったら、つい変なことを期待しちゃう。
だめだ、もう無理。これ以上想像すると、きっとゲームに集中できなくなっちゃう。
そう思いながら、私は何気なく二回連続でボタンを押した。気を取り直すための動きだったが、これがすべての原因になったとは思えなかった。
ついに、読み込みが完了した。
目の前が急に明るくなった。そして、セリフ枠によると、今の私はオリヴィア・グラノジェルス。地位も財産もなく、ごく普通の家に生まれ育ちました。そんな私は、親譲りで魔力を持つことだけは取り柄だ。しかし、魔法が使えるのは父親の方だけで、母親は魔力を持たず、いわゆる普通の人間だ。
「ちょっと待ってこれ全然普通じゃない?どこが新感覚だよ」
と私は呟いた。平凡なヒロインが貴族学校に入学してお金持ちなボンボンたちと恋に落ちるのは全くありふれたストーリーにすぎない。
突然、ヘッドホンから謎の電子音が聞こえた。
「おっしゃる通りです。これから主人公の生い立ちを変えます」
戸惑いながら、私は新しいセリフ枠に視線を移した。
今回の私は、名前は前回と同じくオリヴィア・グラノジェルスだけど、グラノジェルス家の次期家主として家族を興すためにこの魔法学校に入った。
「うんうん、これこそ新感覚の乙女ゲームだよね。人に頼って甘えてばかりのヒロインなんてもう時代遅れだよ時代遅れ!」
とは言え、ヒロインのバックグラウンドまで変更できるゲームはすごいね。さすがAIだ。
セリフ枠を読んだら何となく理解した。このゲームの世界では、人が家系によって魔法使いと非魔法使いに分けられている。そう思った途端、セリフ枠から「遺伝子突然変異により非魔法使いの両親を持つ魔法使いの子どもが稀にいる。また、その逆の状態もある」と補足した。
そして、今日から私はこの魔法学園 -ヴェルディアナ学園に入学するのだ。
これは乙女ゲームあるあるというものだ。桜の季節で舞い降りるはなびらと共に新たな生活を始め、学校で出会った攻略対象と甘酸っぱい恋をするなんて……
残念ながらここは西洋だから桜はないらしい。
身だしなみを整え、私は学園の正門に向かう。向かうと言っても、道一本隔てるだけだ。
すると、遠くからガラガラと車の音が聞こえてくる。近くなる音に連れて私の記憶が蘇った。今までやっていた乙女ゲームの中で、こういうシーンは決して珍しくない。
車に轢かれそうになったヒロインは、突然現れた謎の男に助けられ、二人の恋愛が始まるきっかけになる。というのはパターンAだ。
パターンBは、轢かれる寸前に車は止まり、降りてきた運転手に散々罵倒されている途中に謎の男も車に降りてヒロインの窮状を打開し、二人の恋愛が始まるきっかけになる。
どのパターンでも、ヒロインが車に轢かれかけるというのが前提となる。つまり、もし自分がここで避けたら、何も起こらずに済むのだ。
そう思えば、私は道の真ん中で足を止める。ものすごく大音量のクラクション音が、私の耳に入ってくる。
疾走する車がようやく近くにやってきた。けれど、フロントガラス越しに、信じがたい光景を目にした。
『しかれども、思いもよらぬ、死ぬるなり』
なぜ五七五を作るのかわからない。というよりこの状況も理解できない。誰も助けてくれないのはさておき、確かに見たのだ、斜め後ろの席に座っている人。
でも顔にくるりくるりと回っているローディング中のマークが付いている!!
電気が走るように痛みが全身に広がってきた。そうは言っても、VRゲームだから電気は本物だ。ヒロインがゲームで経験したことが全て、この装具で我が身に伝導してくる。足を揉もうとしてもVRスーツを着ているから手が届かない。
目の前の黒幕にGAME OVERという白い文字が現れた。何故だろう。乙女ゲームの専門家とも言える自分は、キャラクターがまだロード中の故にいきなりゲームオーバー回収できたなんてありえない!
そう思いながらメニューを開こうとすると、確認ボタンを押したらまた一つのメッセージが出てきた。
「一周目クリアおめでとうございます。これからエタニティモードを解放いたします。本ゲームに自信をお持ちのプレイヤーさまにぜひ体験してみてください」
嘘。これで一周目?それにエタニティモードは何なの?永遠にプレイし続けるってことかな。ツッコミどころ多すぎてツッコめない。
改めてタイトル画面に戻ると、メニューが開いた。ボタンの設定から、今回の敗因を見つけた。
「ローディング中に確認ボタン連続二回押す=ローディングをスキップし、バックグラウンド読み込みに切り替える」
敗因が自分にあるのは信じがたい。焦らなくてよかったのに。
すでに原因がわかった。気を取り直して、私はもう一回スタートを押した。本番勝負はこれから!と思いつつ、エタニティモードでスタートした。
そして、エタニティモードでよろしいでしょうかという白い文字が出てくる確認ボタンを押そうとすると、フローリングが引き裂かれるように、私は真下に落ちていく。
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