第2話

 「ロタ!今日が試験だなんですっかり忘れてたよ!」



 朝、学校に来るなり横から声をかけてきたのは友人のカタラだった。



 「おはよう、カタラ。もう発表されてから一月も経つよ。三日前もそんな事言ってたじゃない!」



 カタラは試験の発表があってから何度も、こうして急に思い出したような素振りを見せていた。



 「どうしよう、なにも練習できていないよ。」



 「心配いらないさ、カタラの両親は立派な魔法使いだろ?自分にもその血が流れてるって散々言ってるじゃないか。」



 今日はヘレン魔法学校3学年の中間魔力テストが行われる日であった。



 「ロタはいいよな!勉強はできるし…魔法の実技だっていつも完璧じゃないか!」



 嘆いてみせるカタラの様子は少々気の毒であり、ロタも準備をしてこなかった彼を責める気にはなれなかった。



 「そんなに大きい声を出すなよ、みんなこの日のために練習してきてるんだから…」



 そう言いかけたロタを押し除けるようにして、大柄で恰幅のよい、とても3年生とは思えないような見た目の少年が割り込んできた。



 「おいロタ、今回の試験は負けないからな!前回は寝不足だったけど、今日は体調がいいんだ。借りを返してやるぜ!」



 大きな体に見合った大声でそう投げかけると、次にカタラをチラリと一瞥し、



 「カタラには負けようがないからな。せいぜい落第しないように頑張るこった。」



 そう言いながら大柄な少年はクラスを見回し、友達である別の少年のもとに踵を返して行った。



 「ちくしょう。モーリーのやつめ、あんな見た目で成績がいいなんて腹が立つよ!」



 カタラはクラスの真ん中で談笑している彼を恨めしそうに見ながら言った。



 「モーリーはああ見えて努力家だぜ、カタラも見習うべきなんじゃないかな。」



 ロタはモーリーとカタラを交互に見ながら答えた。



 「誰があんなやつを見習うって?あいつと出会った時なんて…」



 そう言いかけたカタラを遮るように始業を知らせるベルの音が鳴り、生徒はそれぞれの机に向かい始めた。



 「続きは後だ、それよりもモーリーに負けたくなければ少しでも復習しておいたほうがいいんじゃない?」



 ロタの言葉を真っ当な意見だと思ったのか、カタラはしきりに頷きながら席に戻り、参考書が入っているであろう鞄を覗き込んでいた。



 ロタはカタラの背中を見ながら独り言を口にする。



 「カタラもやる気になればなぁ…」



 ロタが半ば心配しているのには訳がある。カタラは現在の魔法界においては優秀な家柄の子であり、彼もこの学校に入学する際には将来を嘱望されていたのである。



 しかし、良家の出であり、優秀な両親のもと育てられた彼にはあまり危機感を感じられなかった。ロタは入学当初からの友人であるカタラの良い面も悪い面も知っており、周りになかなか評価されない彼のことを気に留めていた。



 ロタが試験のことをうわの空で考えていると、どこからともなく風が吹き、教室の前方に一人の男性が現れた。


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魔法少年目録 @fudou_yama

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