あかね骨董店

これる

第1話 あかね

「これが、その生き人形です」


 声がして、あかねはぱちりと目を覚ました。

 入れられた箱のふたが、ゆっくりと開く。光が、全身を照らす。

 ずいぶんと、長く眠っていた。

 こうして外の世界を見ることができるのは、何年ぶりだろう。

 箱の中をのぞきこんでいるのは、二人の男だった。

 一人の年配の男は、すぐに目をそらした。

 ぼさぼさの髪をした男は目を見開き、こちらをまじまじと見つめている。


「気をつけたほうがいい。それには強い魂がこめられていて、目と目を合わせ魅入られたものは、家族のように強い絆と情愛で結ばれ、生涯離れられなくなってしまう……と言われています」


 年配の男が言った。あかねがいるこの骨董店の店主だ。


「……そうでしたね」


 ぼさぼさの男は視線を引きはがすようにして顔をそむけた。

 ふたは、ふたたび閉じられた。


(待って!)


 あかねは強く思った。もちろん、思いが声になることはない。人形だから。


「興味深いですが、ちょっと買える値段ではありませんね。なんとかなりませんか」


 箱の外で、男が話している。


「いや、あんた、これはあの小田是庵の、この世にふたつとない名品ですよ! 値引きはできません」

「しかし、彼が作った他の人形の所有者は……所有権争いで殺人沙汰になったり、人形に生気を吸い尽くされたように餓死したり……ろくな話を聞きませんよね。夜中に動くとか目が光るとか言われてますし」

「これだけ価値のある人形ですから、噂はいろいろあります。あつかいさえ間違えなければ問題ありません。今を逃せば、一生手に入れることはできませんよ」


 店主の説得が続く。


(だいじょうぶ)


 あかねは思う。

 あの男は、あかねから離れられない。最後にはあかねをこの店から連れ出してくれるだろう。そういう運命なのだ、きっと。


 ***


 ドアをあけると、雨が激しく降っていた。


「よう、博くん、急に悪いな」


 叔父の雅季が、いつもぼさぼさの頭を今日はずぶぬれにして笑っていた。


「……どうぞ」


 博は雅季を玄関に入れる。


「駅を出たら、いきなり降ってきてさ。まいっちゃうよな」


 中に入ると、雅季は犬のように体を震わせ水滴を弾き飛ばした。

 めずらしく、巨大なスーツケースを引きずっている。

 いつもは、今も背負っているモスグリーンのバックパックひとつでどこにでも出かけていくのに。


(ま、どうでもいいや)


 博は聞かず、家の中にとって返す。

 フリーライターの雅季は、全国各地に出かけて、ミステリーな出来事の記事を書いて雑誌やウェブに載せている気楽な男だ(と博は思っている)。週に一、二度、こうして思いついたようにこの家にやってきて、博の世話を焼こうとする。それが、なんだかじゃまでしかたがない。




「なあ、博くん」


 夕食後、博が、一階居間の専用ソファの上で、スマートフォンのゲームに集中していると、雅季に声をかけられた。

 答えず、画面を見つめ続ける。


「博くん!」


 雅季の強い声で集中力がとぎれて、スマホをソファの上に落としてしまった。

 かたひざを立てたまま、まだ三十代の叔父の、健康的に日焼けした顔をぼんやりと見る。

 雅季と博の間には、ビリヤード台を二倍にしたくらいの大きなテーブルがあった。ものすごい距離感だ。


「言いたくはないんだけどさ、そろそろ、学校に行かないか?」

「行きません」


 博は即答する。


 高階博は高校一年生、十五歳にして両親を失った。

 五月の連休に田舎に帰っていた両親は、交通事故のために父方の祖父母とともにこの世を去り、一人っ子の博だけが、この三階建て、鉄筋コンクリート造りの豪邸に残された。

 母は元々家族のない人で、博が頼れる親戚は、父の弟、雅季だけだった。

 葬儀、保険の手続き、父の遺した会社の譲渡から遺産の相続など、雅季はこまごました手続きをすべてやってくれた。

 嵐のような一ヶ月あまりが過ぎて、もう、六月もなかばになっていた。


「行ったら、気が紛れるかもしれないし……その、なにか変わるかもしれないぞ?」

「無理。けっこうです」


 博は言い切って、話しかけるなオーラで体をおおいつくした。

 入ったばかりの高校は、もともと知っている友だちもいなくて、いづらい。行ったところで、よけいな気をつかわれるか、ことさら何事もなかったようにふるまわれるかのどっちかだろう。まったく行く気にならなかった。


「留年とか、中退とか、心配じゃない?」

「……」


 無言の博に、雅季はため息をついた。


「このままじゃいけない。人間は、人の間で生きるから、人間なんだ」


 そう言う雅季に、博はしらっとした目を向けた。悪趣味な怪奇話や異常事件を記事にしてくらしている雅季にそんなことを言われても……という気分だ。雅季自身がその言葉をうすっぺらいものだと思ってることが、なんとなく伝わってくる。


「前を向いて生きよう。きっと助けてくれる人がいる」


 雅季がなんとかしぼりだした言葉にも、博は返事をしない。

 博の祖父母と父は雅季にとっては両親と兄。血のつながった家族の三人を失っているわけだから、雅季は博と同様に傷ついているはずだ。それなのに、そんなうわべだけの説教をしてくるのはどういうことか、博には理解ができない。


「わかった、まあ、いいや……」


 雅季は肩をすくめた。


「ぼくは、明日早いから、もう寝るよ。博くんも、あまり夜ふかしするなよ」


 博は、相変わらずだまっている。気まぐれに帰ってきていろいろ注文をつけるな、と言いたい。


「あと、兄さんの書斎に置いてあるぼくの私物……別にいじってもかまわないんだけど、今日持ってきたスーツケースはあけないようにしてくれ。いいかな」


 博は、眉をぴくりとさせる。

 別に雅季のガラクタになど興味はないのだが、そんな注意をされたのは初めてだ。


「約束してくれるかな」


 叔父の真剣な声に、つい顔を見返してしまう。なにが入っているというのか。


「わかった?」

「……わかりました」


 博のかすかな声を聞くと、雅季は立ち上がって出ていった。




 とん。とんとん。


 かすかな音が聞こえてくる。

 うとうとしかけていた博は、はっと目を覚ました。


(やっと眠れそうだったのに……)


 睡眠が浅く、よく眠れない日々が続いていた。

 なぜ両親が、自分を残していなくならなければならなかったのか。神様はここまでひどいことをできるのか。そんなことばかり悶々と考えてしまうのだ。

 考えたからってなにか変わるわけがないと、わかっているのに。


 とん。とんとん。


 また聞こえる。決して大きい音ではないのに、気になると耳に残って眠れない。


(うるさいなあ……おじさんか?)


 この家で雅季が使っている寝室は、博の部屋と同じく二階にある。でも、音は上から聞こえてくるようだ。博の部屋の上にあるのは、父の書斎だ。

 自由な仕事をしているわりには生活態度のまじめな雅季が、夜更けに父の書斎で作業するなど、めずらしい。


 とん。とんとん。


「ああ、気になる!」


 博は一声あげると、ベッドを下りた。

 スリッパをはいて、廊下に出る。 階段までたどりつくと、なめらかなさわり心地の手すりをにぎりながら、上へとのぼっていく。

 三階には、両親の寝室と、父親の書斎、それに母が植物を育てていた小さな温室があった。どこにも、もう今は用がない。行ってもせつなくなるだけだから。

 書斎の、黒いドアの前で博は足を止めた。

 ドア越しに、小さく、けれどもはっきりとした音が聞こえてくる。


(なにやってるんだよ……)


 いらいらしながら、ドアをあける。

 ドアの向こうには、だれもいなかった。

 書斎には月光がさしこみ、大きな机をさえざえと照らしている。四方は本棚、そして床には、雅季が取材のさいに買ったり拾ったりして持ち込んだガラクタがちらばっていた。

 焼き物の入った箱や、掛け軸の入った箱。古文書の束や、地球儀、双眼鏡などの雑多な道具。価値のあるものはないらしいが、父親がおもしろがって置くのを許していた。


 とん、とん。


 はっとして、博は月光の届かない暗がりを向いた。

 たしかに、そこから音が聞こえた。 博はあわてて電気をつける。

 暖色の淡い光が、部屋全体を照らし出した。

 音のした部屋の片隅には、夕方雅季が持ちこんだ、黒い大きなスーツケースが横にして置いてある。

 その中から……音は聞こえた。


(なにかいるのか)


 温度の上下などで自然に出た音とは思えない。動物が入っているのかもしれない。なぜそんなものが入っているのか、わからないが。

 そのとき、

『あと、兄さんの書斎に置いてあるぼくの私物……別にいじってもかまわないんだけど、今日持ってきたスーツケースはあけないようにしてくれ。いいかな』

 という雅季の言葉を思い出した。開けてはならないと、しつこく言っていた。


(叔父さんのしこんだいたずらか)


 怪奇現象のすきな雅季は、むかしから、虫や爬虫類のフィギュアをドアの前にしかけたり、「あけるな」と書いた小さな箱に動くおもちゃをしかけたりすることがあった。

 あけるな、と書いてあればあけたくなる。そしておさない博はとびだしてきたハチのようにうなるドローンやカエルのようにはねるロボットにおどろかされて悲鳴をあげるのだった。


(でも、いまさらそんなこどもだまし、するか?)


 また、とん、という音とともに、「ッ……」というかすかな息をともなう声が聞こえた気がした。


(本物の生きものを閉じ込めた?)


 雅季はそんなことをするはずがない人だと信じていたが、世の中には、ありえないことが簡単に起こる。あんなに元気で、暑苦しいぐらいに明るく、いつも幸せそうだった父と母が、一夜にしていなくなる世界だ。

 もしかしたら、事故を仕組んだのが叔父だという可能性だってある。事故でいっしょに亡くなった祖父母の遺産の半分は、叔父が相続するのだ。

 その考えでいけば事故を起こすことで博が一番得をしたことになるのだが、今度は、博の命がねらわれるかもしれない。たとえば、このスーツケースの中に猛獣や毒蛇を入れておいて。


(いや、まさかそんな。ふざけたいたずらだ。スピーカーでも入ってるんだろ。ほんと迷惑だ)


 博は、いやな考えを打ち消すようにして、スーツケースの留め金に手をかけた。

 鍵は、かかっていない。留め金を開くと、側面のファスナーをゆっくりあけていく。

 鼓動が激しくなる。

 中に、なにかがいる。

 予感で、おそろしくなる。

 冷たく温度を失った指でファスナーを最後まで引き、思い切ってスーツケースをひらいた。

 中には、茶色い木の箱。これも数個の留め金で、しっかり閉じてある。


(引き返せ)


 頭のどこかで思う。

 けれども、手は勝手に動いて、次々に留め金をあけていく。ふたをひらく。


「うぁっ!」


 博は尻餅をついた。

 箱の中には、小さな人が横たわっていた。

 青白い顔。大きな茶色い瞳が電灯の光を反射して、博をつらぬいた。


「だ、だれ」


 博はなんとか言葉を発した。

 いや、人なのかこれは。

 体中の毛がさかだって、口の中がからからにかわいている。意識が闇に飲みこまれていきそうだ。

 肩の長さに切りそろえられた栗色の髪がつややかに輝く。

 目がくるくるっと動くと、口元をほころばせる。


「やっとあけてくれた」


 音が重なった和音のような声が、博の耳に届いた。

 感電したかのように頭と体がしびれ、意識が遠のいた。




 チュン、チュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえる。

 博は、わずかずつ目をあけていく。カーテンのすきまから、淡い光がこぼれて、草色のタオルケットをきらめかせている。

 また朝が来てしまった。

 頭を振りながらベッドから起きあがる。


(父さんは……死んだ。母さんも……死んだ)


 自分だけが、生き残ってしまった。たまたま体調が悪く、家に残っていた。ただそれだけの理由で。

 あらためて、その事実を確認する。眠りにつくたびに、すべてが夢で、かつてのおだやかな生活が戻ってくればいいと思っているが、そんなことが起きるわけもなく、いつも絶望に襲われる。もう一ヶ月以上たっているのに、その悲しさは小さくなるどころか、大きくなっている。

 広いベッドから床におりて、スリッパをはいて部屋を出る。

 頭が痛い。

 ひどい夢を見ていたような気がする。でもそれがどんな夢か、すっかり忘れている。どうしても思い出すことができない。

 プーン、といい香りが博の鼻をくすぐった。できたてのベーコンエッグ。焼きたてのパン。


(まさか)


 母が戻ってきたのかと、一瞬思い、そんなことあるわけない、と、心に言い聞かせた。父も母も、焼かれて灰になった。それを、はっきり見た。もう二人が戻ってくることは決してないのだ。


(おじさんか)


 料理が苦手な雅季だが、たまにはまともな朝食を作ることもあるのだろう。

 一階におり、においにつられるように、食堂に向かった。一ヶ月前はいつもこんな風に朝をむかえていたのだと思うと、なんだか涙が出てくる。

 食堂には、だれもいなかった。ただ、手前にあるダイニングテーブルの上に、野菜ジュースとベーコンエッグと、パンが二人分乗っていた。

 昔のように、テーブルの席につき、おそるおそる野菜ジュースを飲んでみた。


「ああ……」


 なつかしい味だった。続けてベーコンエッグとパンを夢中になって食べた。


「博くん、おはよう」


 雅季が、背後から現れた。


「おはようございます……」

「すごいな、きみが作ったのか」


 雅季が目を丸くしている。


「え? おじさんが作ったんでしょ」

「いや? おれは玉子かけご飯しか作れないが?」


 ふたりは、顔を見合わせた。


「どう? おいしい?」


 和音のようなひびきのやわらかい声がした。


「だれだっ?」


 博は勢いよくいすから立ち上がる。食べかけのパンが足元にころがった。

 食堂の向こうにあるキッチンの台のかげから、小さな人影が現れる。背丈が博の胸くらいまでしかない、きゃしゃな少女。小学生にしか見えない。


「わたし、あかね」

「あっ……」


 博はあとずさった。

 昨日の夜のことが、すべて頭によみがえってきた。

 とんとんと気になるがして、書斎に行ったこと。あけるなと言われた箱をあけたこと。その中にいたものが立ち上がったこと。今、目の前にいる少女。


「そんなにおびえないで」


 あかねと名乗った少女は、前に出てきて、がたがた震えている博と、ぼうぜんとしている雅季の手にふれた。


「おまえ、だれだ」


 博はあえぐ。口の中がカラカラに乾いて、声が出しづらい。頭がふらつく。


「ちょっと、ゆうべみたいに気を失わないでよ? きみの部屋を探してベッドまで運ぶの大変だったんだから」


 あかねは髪の毛をゆらして笑う。白い歯がまぶしい。


「あんなところに入っていて……誘拐されたのか」

「まさか」


 あかねは吹き出す。


「わたしは人形。魂を持った人形」

「人形? いや、人形が動くかよ」


 博が首を振ると、あかねは白いブラウスの袖をまくった。


「ほら、見て」


 手首と、ひじに、くっきりと線がきざまれている。人形の、関節だ。


「本当に……?」

「ふふふ。わたしは、五十年ぐらい前に、小田是庵という人形師に作られたの。売れ残っていろいろな店を転々として、最後にここにいる高階雅季さんに買われてきたのよ。ねえ?」


 あかねのあやしい笑みに、雅季はぶるりと体を震わす。


「そうだけど……いくらなんでも動き出すなんて……聞いてないぞ」

「わたしだって、まさか自分が動けるようになるなんて、思わなかった」


 あかねは、楽しそうだ。


「でも、雅季さんが、いつまでも外に出してくれないんだもの。必死に願った。動けるように。しゃべれるように。そうしたら……奇跡が起こったの」


 あかねがぎゅっと手をにぎると、二人の手に、ぴりぴりと電流のような痛みが走った。


「さあ、朝ごはんを、どうぞ」




「おじさん、どういうことなんだよ」


 残りの朝食を食べながら、博は雅季を問い詰めた。


「生き人形っていうリアルな人形がいるという話を聞いて見に行ったら……」

「見に行ったら?」

「気づいたら、買わされていた」


 博はじとっと雅季を見つめた。


「高かったんだろうね」

「う」


 雅季は固まってから、首を振る。


「でも動く人形だ! 動画にとって、ネットで流せば、大評判まちがいなし。高く売ることもできそうだ」

「本当に、そんなこと、するつもり?」


 キッチンからコーヒーを運んできたあかねが、ぎろりと雅季をにらむ。


「う」


 と雅季が胸をおさえる。


「できないよね? わたしたちは一心同体。なにより強い絆で結ばれてるの。そんなことはできない。そう決まっている」

「できない……できそうにない」


 雅季はうなる。


「絆?」


 博は首をひねる。


「ああ……」


 雅季はため息をもらした。


「生き人形には強い魂がこめられていて、目と目を合わせ魅入られたものは、家族のように強い絆と情愛で結ばれ、生涯離れられなくなってしまう……ということだったな」


 博は、ぞっとした。そんな人形を、自分は見てしまったのか。


「おじさん、なんでそんなものを買ってくるのさ!」

「魅入られてしまった……のかもしれない」

「それなのに、スーツケースにしまいこんだままにしてたのか?」

「だって、ただでさえミステリーとか怪奇現象好きの変人と思われてるぼくが人形の趣味になんか走ったら、ますます結婚できなくなるだろ? ずっと箱をあけたいのをがまんしてたんだ」

「じゃあ、ちゃんとそのことをおれに教えておいてくれよ! こんな気味の悪い人形にとりつかれたくないよ!」

「言いますね、博くん」


 あかねは、にまにまと笑った。


「雅季さん、わたしを博くんにおしつけようと思ってたんですよね?」


 博は、はっとした。


「そうか、だからあけるなとか言って、わざと、あけるようにしむけたのか?」

「おしつけようだなんて……そんなつもりじゃない。博くんがあまりにもからにとじこもりすぎだから、人形でもいいから、新しい生きがいを見つけられたらいいと思って」

「なんなんだよ! ふざけんなよ! よけいなお世話なんだよ!」

「そんなこというなよ……きみはそんなじゃなかったじゃないか。恵まれた家で、すばらしい家族に囲まれて。人間には愛とか生きがいとか……大事なものが必要なんだ」

「軽々しく言うな……もうおれの人生は、完全に変わった!」

「それでも、軽々しくても、言わなくちゃならない。だってさ……」


 言葉をさがしてうめく雅季の手を、あかねはまたぎゅっとにぎった。


「雅季さん」

「なんだ……?」

「なにがあったのかは、人形であるわたしには、断片的にしかわからない。でも、あなたにも生きがいとか愛が必要です」

「……ぼく?」


 雅季が目をぱちぱちさせる。


「ええ、わたしを探し出して必要としてくれたのは、あなた。わたしたちは、運命的に結ばれているんです」


 あかねの、高い音と低い音が混じった不思議な声が、魅力的にひびく。


「なんでだ……箱をあけたのは、博くんだろ?」


 雅季の問いに、あかねはにっこりする。


「そうね。だから博くんも、わたしの大事な人。わたしとあなたと博くんは、ここでつながった。これからわたしたちは、ずっといっしょです」


 あかねは、雅季と博の顔をじっと見る。


「そして、わたしには、したいことがあるの。わたしのように、しまいこまれた、強い魂を持つもの。彼らを、本当に必要な人のところに届けること。それをいっしょにするんです」

「どういうことだよ」


 雅季と博が、あかねを見返す。


「骨董店を開きます。雅季さんが魂を持つ品を集め、博くんがそれを必要とする人に売る、骨董店を。その名は、あかね骨董店」

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