第16話さあ行こうか

お久しぶりですね。更新するする詐欺すいません


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「荷物の用意はよくて? ここから距離がありますから忘れ物は厳禁ですわよ」


大量の荷物をすべてオスローに持たせてリゼルのもとにやってきたニノンに、リゼルとリアは思わず笑ってしまった。彼は自分の荷物だって持っているのだから、いくら騎士といえど重くて少々足取りがおぼつかない。乙女がお泊りするときは、荷物が沢山必要なのだ。あ、必然的にこの中での唯一の男のオスローが荷物持ち確定だ。


「貸馬車で行くから乗り心地は保証できない。申し訳ない」


なんとか荷物を一旦おいてそう言った彼にリアは優しく微笑みかけた。


「いいに決まってるじゃない、馬車なんて最近じゃめったに乗らないからそれだけでも十分よ」


そうして二人も家から荷物を持ち出してくる。どうやら大荷物なのはニノンだけらしい。頑張れオスロー。


「足元にお気をつけて」


流れるような手付きでリアの手を取って、彼女を馬車に乗せる。続いたリゼルの手もとった。リゼルはそれぐらい自分でできるわとでも言いたげな表情をしていたが、内心喜んでいることだろう。若干頬が赤い。そしてその流れでニノンも乗せると最後に自分が乗り込んだ。エスコートは完璧である。


「ほら見ろニノン、二人の荷物はこんなに多くない」


「人それぞれですわ」


つんとした表情でニノンが答える。まあきっと、お金持ちの商家の娘なのだからいろいろとこだわりがあるのだろう。くすくすという女性陣の笑い声を響かせながら、馬車はゆっくりと走り始めた。



「そろそろ街を抜けるわね」


広かった王都の門辺りまで来て、窓の外を眺めながらリゼルがそう言う。ああ懐かしい、と彼女は目を閉じた。三か月ほど前も、この門をくぐった。あの時は馬車ではなく徒歩だったけれど。よくこの距離を歩いたものだと、自分でも感心してしまう。旅の馬車に乗せてもらった時もあったし、ずっと歩き通していたわけではなかったのだけれど。まだ自国の兵たちに見つかっていないという事実がひどく気分を高揚させる。


「今頃どうなってるのかしら……」


ふっとそんなことが頭をよぎって、彼女はぼそりと呟いた。父親はまだしも母親は怒り狂っていそうだ。この国の国王との縁談は破談になったのだろうか。それとも代理でだますのかなあ。そんなことしてばれた時が怖そうだけど。


「リーゼちゃんリーゼちゃん」


リアに声をかけられて、物思いにふけっていたリゼルは思わずびくりと体を揺らした。


「ど、どうしたのお母さん」


「さっきの門のところで売ってたお菓子食べない? 美味しそうでつい買っちゃったの」


みれば、その手には可愛らしい揚げ菓子が握られている。全く気付かなかったので、リゼルは少し笑ってしまった。


「ふふ、いつの間に買ってたの? 私ったら全然気が付いてなかったわ」


「だってあなた、ずっと外を眺めていましたもの。早く食べないとわたくしが全部いただいてしまいますわよ」


手掴みでしか食べられないのに、それでも動きが優雅で様になっているのだから二ノンは大したものだ。対して全く言葉を発していないオスローはというと若干気まずそうにしながらもぐもぐとお菓子を食べていた。


「だめだめ、私も食べるもの!」


にやにや笑っている二ノンに慌ててリゼルはお菓子に手を伸ばすと、ぱくりとそれを口にする。ほんのり蜂蜜の味がして優しい味だ。


「美味しいわ。街の門にはこんなものが売ってたりするのね! 知らなかった」


つまり、ここへ来た時にひと街分だけ一緒に移動した隊商の人が別れ際に渡してくれたお菓子は、これのように門で買ったものだったのだろう。


「まだまだ着きませんから今のうちに休んでおいた方がいいですわ。すこし大変ですけれど、せっかく日差しも柔らかいのですからお昼寝しませんこと?」


ふふふ、と笑いながら提案してくる二ノンに賛成し、リゼルもリアも座席に持たれて目を瞑った。オスローは乗り心地は保証できないといっていたが、そんなことは全くない。そのまま木の葉の揺れる音やその間から差し込む光に包まれて、三人は眠りに落ちた。



ふんわりと窓から風が入る。それに応じてリゼルの髪がさらりと顔に落ちた。


「っ、」


その髪を思わずすくってしまって、オスローはそこで正気に戻って動けなくなってしまった。何とも無防備な寝顔だ。同じように二ノンだって隣で寝ているのに、この感情はリゼルにしかわいてこない。


「いきなり一緒に旅に、だなんて心臓が持つ気がしないな……」


暇つぶしにと持ってきていた仕事の書類は、彼女に見惚れていたせいで途中で止まっている。そのまましばらく髪をいじっていると、んん、とちいさく口からもらしながらリゼルがオスローの手の平に頬を擦り付けた。


「な」


動揺しているのはオスローだけだ。目の前の少女は遠い夢の中。自分の気持ちをおさえたくて、オスローはさっと彼女の頬から手をはなすと、照れ隠しをするかのように仕事をし始めたのだった。


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ぱあ。今日から投稿再開します。めっちゃ待たせてごめんなさい……

次回の投稿予定日は十月十二日です!

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