第2話 ミーちゃん

 吾輩は猫のようなものである。名前はないこともない。先程、吾輩を遠慮も許可も無しに撮影した人間が、吾輩を「ミーちゃん」と呼んだからである。吾輩は吾輩故に、おそらくオスなので、ミーちゃんという名前は非常にジェンダーレスで味わい深い。

 いっそ、生物分類レスに「ポチ」でも構わない。

 吾輩は寛容である。

 しかし、論点はそこではない。今考えるべき問題は『「ミーちゃん」という名称が何処から現れたのか』である。

 吾輩はこれ以上、自身に由来する謎を増やしたくは無い。明晰ではあるが、おそらく容量が小さいであろう、吾輩の頭脳に負荷を掛けたくないのである。


 人間は時に、吾輩以上に不可解な行動を起こす。ミーちゃんは一体、どこから湧いてきたのだろうか。

 不意に、吾輩はキラリと閃いた。

 そうだ、鳴き声が由来である可能性が高いのではないだろうか。

 しかし、閃いたものの、この論には反証が存在する。吾輩は「ミー」と鳴いたことは無い。この鳴き方では、子猫のようではないか。

 吾輩は齢も不詳ではあるが、立派な大人のような、猫らしきものである。こんな鳴き方は、恥ずかしくて出来ない。

 もしかすると、人間からすればどんな猫でも子供のように可愛らしいから、こんな横暴がまかり通っているのかもしれない。

 雄々しき一部の猫がこの事実を知れば、きっと憤慨して、「フシャー」と鳴いて怒りを露わにするやも知れない。吾輩はその点、大人で、寛容で、猫のようなものであるから、「ミーちゃん」と呼ばれれば、「ミー」とは返事をしないけど、何とも言えない不思議な鳴き声で「ニyー」と返事をするだろう。


 さて、何となく吾輩の中で疑問が解消された所で、またもやキラリと閃いた。

 そうか、吾輩は先程から自身のことを「me」と表しているではないか。


 吾輩は、meである。結局のところ、名前は無い。

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