第25話
死んだと思われていたんじゃないかと不安になりつつ半世紀ぶりの投稿をしたイミティです。Twitterでは活動してたんです……。
あ、年末の特別回的なそういうやつじゃなく、普通に続きですよろしくお願いします。
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今日の予定は、昼から会合、終わったら解散というシンプルな流れ。そのためそれまでは朝食を摂った後は暇となり、必然的に俺とクリスは部屋で静かに過ごしていた。
静かに……と、俺は対面のソファに腰かけ優雅に紅茶らしきものを飲んでいるクリスへ目を向ける。
所作に迷いや動揺は表れておらず、一見すると普段通りのように見えるが、その仮面の下で俺と同じようにこちらを窺っているのがわかる。
それでも不自然になることは無い。クリスがこちらを見る瞬間は分かるため、それに合わせて自然な振る舞いをするようにしている。視線が合いすぎることも無く、明らかにそっぽを向くようなこともない。
まるで朝のことなど気にしていないかのような振る舞い。
それは、クリスにとって複雑なものだったのだろう。俺もクリスが少し不満そうな表情を見せたことで、ようやく己の失態に気がついた。
例え意識されたい訳じゃなくとも、何も思われないのは……というやつだ。ルリにもあったし、クリスもどこか俺に傾倒している部分はある。
自意識過剰と言えばそれまでだが、そうも言えないのは俺が一番わかっている。異性の中だと間違いなく俺はクリスから一番信頼されているし、恐らく意識も……。
『───もう少し、私のことも意識してください』
昨晩の言葉を思い出す。舞い上がっていたとはいえ、別に酔って正常な判断ができなかったりしたわけじゃない。あれは思ったことをそのまま口に出してしまったもので、本心に近い感情なのだろう。
一緒のベッドに入っても鼓動を変えない俺へ、クリスが放った言葉。
何も無いように振舞っていることがクリスにとって不満なのも、間違いないだろう。
お互いにこの件に触れないで過ごすことも出来るが……まだ礼も言っていない。それは礼儀に欠けるし、ここは俺から切り出そう。
「あの、トウヤ様」
「なあクリス」
しかし、俺が口を開くのとクリスが俺の名を呼ぶのは同時だった。お互いに声を出し、そして当然被ってしまった言葉に「あっ」と反射的に口を噤む。
こうやって変なタイミングで行動が被ってしまうことは、稀によくある事だ。だがそれにしたって今でなくともいいだろうに。
「……タイミングが被ったな、悪い。それでどうした?」
「い、いえ、トウヤ様の方からどうぞ」
「なら概要だけ聞かせてくれ。もしかしたら俺と同じ内容かもしれないし」
「それは……」
と、一度は言おうとしたものの言葉が被ったことで出鼻をくじかれたのか、少し言い淀んでいる様子のクリス。
「……その、夜のことに関して、です。一緒のベッドで……」
「あぁ……大丈夫、俺も同じ話だ」
「トウヤ様も?」
「そりゃ、俺だって気にしてるからな。あれに触れないでいるのはちょっと無理だった」
お互い丁度言い出そうとしていたということで、それはそのままお互いに気にしているということ。
これなら気兼ねなく話せるというものだ。
「俺が言いたいのは、まぁ、礼だな……昨日は助かった、ありがとう。お陰で問題なく寝れた」
「いえそんな、感謝されるようなことでは……むしろ、昨日はトウヤ様を無理にベッドに引き込んでしまったのではないかと……」
「そんな事ないぞ。いやまぁ、ルリのことがあるから今にして思えば抵抗が無いわけじゃないが、昨日はあんな状態だったし、それに対してクリスは最善の対応をしてくれたと思う。本当に感謝してるんだ」
「……嫌に思ったりは、していませんか?」
「嫌なことは全くない。なんなら、一緒のベッドで寝てもいいなんて思うほどに信頼してくれてると分かって、少し嬉しかったよ。残念ながら手放しには喜べないけどな」
サバサバした女友達ならば同じベッドで寝ることにも抵抗はないのかもしれないが、クリスは王女という立場を自覚した少女だ。決して性に疎いわけでもなく、本来なら普通の人よりも異性への警戒が強い。
だからこそ、クリスの方から提案してきたというのは、それだけ信頼してくれている証拠でもあるのだ。
一緒のベッド、というところに若干の不健全さはあれど、状況的に考えれば俺のことを思っての行動だろう。それで俺と同じベッドで寝てくれるのだから、これに感謝や喜びを感じずしてどうしよう。
ルリのことがあるから女の子と一緒に寝たことを手放しには喜べないが、それでも信頼されている事実は嬉しい。
「それより俺からしてみれば、クリスに無理をさせたんじゃないかと心配だったぞ。初めてだろ、あんなこと」
「そ、それは当然ですっ。誰かと寝たのなんて、トウヤ様が、初めてで……」
男、という意味ではなく、文字通り同性異性問わず誰かと同じベッドで一緒に寝たことが無いのだろう。
クリスの環境は、決して我儘や甘えが入り込めるようなものでは無い。そりゃ、融通がきくところはあるだろうが、王族が誰かと同じベッドで寝るなんて、それこそ家族相手にぐらいしか無理だろう。例え婚約者のような存在がいたとしても、実際に式を挙げるまでは何も出来ない。
なら何故俺とは寝たのか。勇者を篭絡するためにそうやって関係を作っていくのはかなり有効な手段だが、クリスがそんな行為に走るとは考えにくいし、何より俺の事を切り崩せないのはクリスも良くわかっているはずだ。
となると、やはりあれはクリスの素直な感情から出た行為なのだろう。打算的な行動ではなく、感情的な行動。
「……初めて、ですから、確かに無理は少しだけしたかもしれません。でも私がしたいからしただけですので、気にしないでください。嫌だったら提案しませんし」
「クリスがそう言うなら、分かった、気にしないでおく」
「お願いします。そしてこのことも……二人だけの秘密にしておいて下さいね?」
「当たり前だ。そもそも、こんなこと誰かに言えないからな」
クリスと一緒の部屋に居るのはまだしも、一緒に寝たともなれば意味深に過ぎる。まず最初に一線を超えたのかどうか疑われるだろうし、その疑惑が晴れてもじゃあなんで一緒に寝たのと。
本音を言えばルリには清廉潔白であることを訴えることも兼ねて正直に話し謝罪したいが、そうもいかないだろう。俺自身ルリへの気持ちが揺らぐようなことは一切ないので、それが救いか。
だがクリスの方は俺が秘密にすることを了承すると、見るからに笑みを浮かべ嬉しそうにした。無邪気な少女のように、されどそこに気品を持たせ。
「……ふふ。こうやって二人で秘密を共有すると、より親密になれるらしいですよ? お互いが特別な関係だと認識されて、仲間意識が生まれるのだとか」
「それは俺も聞いたことがあるな。とは言っても、俺とクリスは今でも十分親密だと思うぞ」
「いいえ、まだです。私はもっとトウヤ様と親密に……密接な関係になりたいですよ」
「先に聞いておきたいんだが、それは変な意味じゃないよな?」
「えぇ、変な意味ではありません」
それなら一安心だが……クリスは笑って、俺の目の前までやってくる。先程までの不満や気まずさはなくなったようだが、これはこれで少し不安だ。
昨夜までと比べると、何かが吹っ切れているような、いや、開き直っていると表現した方が近いのか……。
「もっと遠慮なく物を言えて、遠慮なくスキンシップが取れて……王女の私の近くにいても誰も文句を言わないような、そんな関係です」
「別に誰かに文句を言われたような覚えはないが……」
「トウヤ様は分からないかと思いますが、国というのは意外と面倒なんですよ。城の高官の中には少なからず勇者と私が親密になるのをよく思わない人もいますし、外にも面倒なものは居ますから」
「なら、俺とクリスが同じ部屋に一緒に居た、なんて知られたらヤバいのか」
「それはもう、色々言われること間違いなしですね」
「それが言われないようになるって、どんな関係目指してるんだよ」
「王女と勇者が同じ部屋で寝泊まりしても何も言われない関係……さぁ、どんなでしょうか?」
クスクスとからかうように笑うクリス。分かっている言い方だなこれは。
俺にルリが居るのを知っていながらこんなことを言うとは、中々クリスも過激な冗談を言ってくる。
いくつか可能性はあるが、一番は俺とクリスが婚約してしまう話だろう。婚約者であれば不思議なことではない。
もっとも、そうなる可能性はゼロだ。有り得ない。
それこそやむを得ない事情がない限り通らない話だ。クリスだって、別に本気で言っている訳では無いだろう。
「……冗談ですからそんな顔なさらないでください。トウヤ様が正式に私の護衛になれば、一緒に居ても何も言われない……とまではいかないかもしれませんが、緩和すると思いますよ」
「なんだ、そういう話か。でもそれはちょっと難しいだろうな」
変な話ではなかったことに内心安心しつつ、クリスの言葉に苦い顔をうかべる。いつまでも迷宮でレベル上げができるほど楽な世界じゃないだろう。
そのうちクリスとも必然的に離れる。むしろこうやって一緒に居ること自体が珍しい方なのだ。
俺がずっとクリスに付きっきりで済むなら、それはもちろんそれだけ事態が安全という訳なので望むところだが、それなら蒼太が死ぬ事もなかった。
それが、安心できない最も強い要因だろう。
「それはそうでしょうね。ですから、全てが終わったあとで構いません。少しだけ、考えていただければと思います」
クリスもそう上手く事は運ばないと考えているらしく、代わりにそう伝えてきた。
全てが終わったあと、というのがどのタイミングを指すのか分からないが、本当に全てが終わったら俺は元の世界に帰るだろう。もともとそれを目標として動いている。魔王とか魔族は二の次だ。何もせずに帰れるなら即帰るし、帰る手段が手元にあるのならこの世界に留まることは無い。
ただまぁ……。
「そうだな、一応考えておく」
そう答えたのは、別にクリスに対して気を使っただけではない。
俺自身……
まぁ、クリスの少し嬉しそうな笑みを見れば、そんな可能性など彼方へと追いやってしまうのだが。
「……ところで、その、トウヤ様」
「ん?」
そして、その嬉しそうな笑みからまるでグラデーションのように少しづつ、クリスの顔は羞恥を見せていく。
「また、話を戻してしまうのですが……夜のこと、覚えていますか?」
「夜?」
「はい……す、凄く、恥ずかしかったものですから」
そう言うクリスに、俺は少しだけ考える。夜のことと言えば、やはり俺が悪夢で起き、クリスと共に寝るまでのことを指している可能性が一番高い。
ただそう、確かに話を戻しているように感じる。その話は先程したもので、同じ話を二度もする意味は無い。
しかし先程までと違うのは、羞恥の度合いだ。先の話の時も少なからず恥ずかしがっている部分はあったが、今のそれは明らかに羞恥の程度が違う。
恥ずかしいところを見られた、恥ずかしいことをしてしまった。それが一つ目の羞恥だとすれば、今の羞恥は『取り返しのつかない程ヤバいことをしてしまった』とも言うべきもの。上手く隠そうとしているがそれが全く出来ていないという点でも、クリスの制御下にないものと分かる。
ならば『夜のこと』というのが、俺の認識している部分と違うのか?
クリスは俺の顔色を窺うようにしているため、どうもこちらの反応をかなり気にしているようだ。不安と羞恥が入り交じっていることからも、やはり何かしでかしたような気配はするが、生憎昨日は同じベッドで寝た以上のことなどお互いにしていないと記憶している。
だからクリスが何をそこまで心配しているのか、こちらの反応を窺っているのか、俺には理解が出来なかった。
唯一ヤバかったと言えば、今朝起きた時の体勢に関してだが……。
……無駄に働いた思考が、その可能性を追及する。してしまう。
そうだよな、よく考えればいつからあの体勢なのか俺にはわからない。起きる直前かもしれないし、逆に俺が寝てすぐのことかもしれない。
クリスの向きが反転していたことから、クリスが寝返りの際に起きたとか、もしくは起きていて向きを変えたというのも有り得る。
ならば、クリスが起きている最中に俺がしてしまっていたら?
それこそルリの時のように、体を触り、それを記憶されていたら?
そう思うとクリスの視線や表情にも何か含みがあるように感じてしまう。『昨日あんなことをしておいて』『私は凄く恥ずかしかったんですよ』、そんな訴えすら視えるような気がしてならない。
「覚えていますか?」という発言は、俺が起きていたのかどうかの確認にも聞こえる。
具体的にどこの何までしたのか、無論俺には全くなんの記憶もない。あるのは今朝触ってしまっていたクリスの胸の感触だけだ。
それらの予想が真実であると仮定し、もしここで俺が下手なことを言ってしまえば、クリスからすれば『実は起きていたのでは?』という疑念が生じる。俺が単なる推測だけで行き着いたと弁明しても、それが本当かどうかわかるのは俺だけ。
クリスにとっては、その疑念があるだけでも俺に対し懐疑的になるだろう。寝たフリをして体を触ってきた変態と認識されてしまう可能性だってある。
それはダメだ。マジで。
なんというか、洒落にならない。
それにこれは全て俺の推測。仮定の話。実際のところ俺には同じベッドで寝た以上にクリスが恥ずかしがるような内容の記憶など、一切ないのだ。
だからここは、嘘はつかない。
「悪い、なんのことかよく分からないんだが……何かしたっけか? そんな凄く恥ずかしがるようなことは何もしてないと思うんだが……」
「っ、いえ……なんでもありません。覚えていないのでしたらそれでいいので」
「そう言われると何だか気になるな」
「ほ、本当になんでもありませんからっ。ですからお気になさらず!」
珍しく慌てたように否定というか話の切り上げをするクリスに、俺はそこまで言うならと引く姿勢を見せる。
これで真実は闇の中となった訳だが……考えれば考えるほど、そういうことなのかもしれないという思いが強くなる。
ただここで自分から追及してこないということは、その『何か』はクリスにとって怒るようなこと、問い詰めるようなことではなかった訳だ。
それだけで俺は安堵している。
「き、気にせず午後の会合に集中していてください!」
一番集中した方が良いのはクリスだと思うが……まぁ、何かしら恥ずかしいことをしてしまったのは事実らしいので、そんなことを言い返したりはしない。
素直にクリスの言葉を受け取って、厄介な匂いのする会合へと意識を向けておこう。
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えっと、Twitterには書いてるんですが、この長く空いた期間には訳がありまして……。
そうですね、某音ゲーのイベランやAP埋めという訳g……いえなんでもないです次は早く出せるよう頑張ります。
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