第69話
お待たせ致しました。GW明けの投稿でございます。
はい、前話でお話したようにしっかりGWは投稿出来ませんでしたね。良くはありませんけどね。
カラオケとかに行ってました。もちろん一人で、ソーシャルディスタンスは守って、気をつけながらです。
さて、そんなこんなで今回は刀哉ではない目線からスタートです。
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───それは、刀哉からクリスへ連絡が入ったすぐ後の事。
クリスは事の緊急性を理解して思考を王女のものに切り替えていた。
というのも、まずルリが怪我をし死の危険性があるという状態でまずいだろう。彼女の戦力や
その時点でクリスの中での優先順位は最上位に位置づけられていただろうが、そこに刀哉も含まれていることで事態が更に厄介なことになってしまっていたのだ。
(トウヤ様は平然としてましたが、あの傷ではかなり危険でしょうね……迷宮の広さはわかりませんが、そう簡単に帰って来れる距離でもない。ましてやルリさんを抱えながらの、しかも隻腕の状態では戦闘も厳しいはず)
向こうの状況を思考しながら、しかし対応を遅らせることは無い。輸血の準備と回復術師の手配は丁度簡単に済ませることが出来るところだった。
ヴァルンバ国の人材を勝手に使用することは当然ながら出来ないが、丁度この国を訪れていたルサイア神聖国所属の回復術師が居たための迅速な対応と言える。正直にいえば僥倖だった。
とはいえ……これはあくまで刀哉達が帰還できた場合に初めて適応可能な措置だ。
クリスは思考し、ヴァルンバ国に正式に手助けを求めるか自分達だけで解決するかの判断をする。問題が少ないのは後者だが、出来るかどうか。
クリスの命令一つで動かせる人材は、自分の護衛に侍女、そして拓磨達勇者だけだ。
そして 最も適任なのは、刀哉と関係の強い拓磨達だ。城での謁見を終えた彼らは迷宮へと向かう準備が出来ているはずで、レベルこそ懸念はあるもののある程度は問題ないと踏める。
刀哉が自力で帰って来れる可能性もあるにはあるが、そもそもルリと刀哉が同時に負傷するような相手と戦った後であることを考えれば、現時点で怪我の他に体力や魔力が削られている可能性が十分にある。
先の様子も、回復魔法を使った後であの怪我だと考えれば、元の怪我はもっと酷いものだったはずだ。そこにルリを抱え、隻腕であることの要素を含め、更に魔力がなくなっていると仮定すると……。
魔物が蔓延るであろう迷宮を帰るのは、至難の業だ。
(私情を抜きにしても、あのお二人の損失は看過できませんね……)
「なんて、決して口にすることは出来ませんが」
今の自分が酷く冷徹であることの自覚はある。ルリや刀哉のことを好いているのはまぁ、確かなことであるし、特に刀哉は命の恩人に近い存在。
その事実を切り離して損得のみで考えてしまうのは、物事を冷静に判断する上で良くもあり……人として、一人の人間として悪くある。
今回はその冷徹さの上で二人の損失は看過できないと結論づけることが出来たが、もし真反対の判断を下すようなことがあれば……クリスは拓磨達が泊まる宿屋までやってくる。
何にせよ、二人を助けるために保険はかけておくものだろう。
「タクマ様、緊急のお話が───」
◆◇◆
「───刀哉!!」
横合いから飛び込みホブゴブリンを斬り倒したのは、まさかの拓磨だった。
一瞬の驚愕と、そして安堵。奥では俺が押し倒したホブゴブリンへ美咲がトドメをさし、遅れて樹が走ってきていたところだった。
「大丈夫か? あぁ、立たなくていい……全く、そのような体で随分と無茶をする」
ホブゴブリンを倒した拓磨は、俺の前まで来てそう言った。口調こそそのような感じだが、その顔からは多大な心配と安堵が見て取れ、やはりと言うべきか心配させてしまったらしいことを悟る。
特に左腕に関しては、視線を向けて少し痛ましそうな顔を向け、直ぐにそれを消す。
「今は叶恵が居ないため、応急処置程度だが」
そのまま俺へと手を翳し、拓磨は回復魔法をかけてくれた。幾分か体から痛みが引き、右肩の傷もある程度塞がる。
「あぁ……悪い、助かる……っ」
「無理をするな。その傷ではまともに歩くことも出来ないだろう? いや、良くここまで動けたなと言うべきか」
「刀哉、大丈夫か!?」
樹が走りよってきたため、俺は一応頷く。
「ま、見ての通り、何とか、な」
「全然大丈夫そうじゃないな……それに、その腕……いや、とにかく生きてるようで安心だ。心配かけんな」
「全く、その通りだな」
言いながら拓磨は俺の腕を肩に回した。確かに、回復してもらったとはいえ俺は満身創痍で今もまともに動けない。完全に脱力している状態だ。
肩を借りながらゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう。ただ、俺だけじゃなくて……」
「分かっている。美咲、頼む」
「えぇ」
拓磨に言われ、美咲はルリの元へと行き抱えた。それでようやく少しほっとできた。
本当に、あと少しだったからな。
「ルリは、出血多量で弱ってるから、出来れば、急いで連れてって貰えると、助かる」
「大丈夫だ、こちらも事態は把握している。美咲、ルリを抱えたまま走ることは出来るか?」
拓磨が美咲に聞けば、美咲は少し動作を確認して問題ないと頷いた。
「そうか。なら美咲はルリを抱えて先に叶恵達と合流し、一度回復魔法を施してもらってから地上を目指してくれ。樹は美咲の先導と護衛をして欲しい。俺は刀哉を連れていく」
「あいよ、任せろ」
「えぇ。それと刀哉君、貴方無理をし過ぎよ。言わなくてもわかるでしょうけど、生きて帰ってこないと許さないから」
「耳が痛いな……頑張ります」
急ぎだからだろう。美咲は怒りと心配を同時に訴えてきて、苦笑いしか返せない。
樹と、そして俺の答えに不満そうにしながらも美咲はルリを抱えて迷宮内を駆け抜けた。
まだ安全となった訳じゃないが、それでも一安心していい頃合だろうか。
「そんな訳ないだろう。お前も、いや、お前の方が酷い有様だ」
「はは……やっぱり、そうか?」
「あぁ」
俺は笑ってみたものの、拓磨の険しい顔を見てその笑みも引っ込める。
「あー……まぁ正直、無理無茶はしまくったよ今回は」
「だろうな。血はある程度止めたが、この一帯だけでも流れ出た血の量が異常であることが窺える。立っているどころか、意識すら危ういのではないか?」
「その通り。さっきから、ちょっと思考がな……まとまらないんだわ」
起きたことを把握しているだけで、今の俺は思考が死んでいる。近い例えでいえば、眠気で限界の時の頭だろう。
あれは単に頭が働かないだけだが、こちらは目眩のようなものも含まれる。意識が暗転し、頭を打たれたような感覚。先程からそれが何度も繰り返され、実を言えば焦点も定まっていない。
俺の言葉を聞き、拓磨は顔に影を落とした。
「……死ぬなよ」
「死なないさ。ここまで粘ったんだから、もう少しぐらい耐えてやる」
「そうか」
そう、満身創痍でルリを抱えたまま第四階層まで降りてきて、まともに体も動かない中一体とはいえホブゴブリンを倒し時間を稼いだのだ。
地上への帰還自体が約束された状況であれば、あと少しぐらい耐えるのはなんてことないとも。
ただそれでも、意識をもたせるのは厳しそうだが。
「……だから、拓磨。少し、任せてもいい、か? 流石にちょっと辛くてな」
「あぁ。聞きたいことも言いたいこともあるが、今は任された……ゆっくり休むといい」
拓磨の声に頷いて、俺は意識の手綱を手放した。
◆◇◆
「……本当に、随分と無茶をしたものだ」
体を預け意識を落とした刀哉を見て、拓磨は彼を背負う。
刀哉の気絶は至極当然のものだ。これだけの傷で何故意識を保っていられたのか、その方が不思議であろう。
拓磨の回復魔法では全体的な止血が出来た程度で、ほぼ全ての傷はすぐにでも開いてしまいそうなほどに危ういもの。何なら完全に止血は出来ておらず、微かにまだ血は流れているのだ。
常人であれば致死。この世界に来て幾らか体が強化されていることを踏まえても明らかに時間切れが近いのは想像に難くなく、故に実を言えば内心では拓磨も焦っていた。
ホブゴブリン相手に苦戦していたのがその証拠だ。単に腕を無くしているだけでは刀哉は苦戦しない。体の動きにすら支障が出ていたと考えられる。
そんな状態でもなお、ルリを守るために戦っていたのだろう。
「……」
そう、全てはきっとルリのためだ。恐らく刀哉一人であればこうなることは無かったと拓磨は考えている。
勿論ルリが悪いと言っているわけではない。刀哉の口ぶりから刀哉がルリに頼っている部分もあり、少なくとも仲間のような関係だったことは推測できる。ルリが怪我を負った場合、守ろうとするのは当然の行為だろう。
ただそう……少なくとも刀哉にとっては、あのような怪我になってもなおルリのことを優先する理由があったのだ。いや、その先、自身の死に代えてもと言えるほどに。
それが感情か、別のものか、何に由来するものなのかは知らない。刀哉のことなので、お人好しの部分はあるだろう。
ルリのことを下手したら自分達と同じ、いや強く言えばそれ以上に大事にしているかもしれないという可能性。異性として見ている可能性。
仲間よりもさらに一歩踏み込んだものである関係の可能性。
別に刀哉とルリがどのような関係であっても構わない。ただ拓磨は、刀哉の『大切な誰かを優先する思考』に思うところがあるだけなのだ。
拓磨にとって大事なのはルリよりも刀哉で、だから刀哉には自分の命を優先して欲しいと。そんな自分勝手な思いだ。
刀哉が考えた末にルリを優先したことはわかっている。そこに覚悟や明確な意志があったことはわかっている。
そこに関して他人がどうこう言うのがおかしいことも、わかっている。
わかっている上で、こう考えてしまうのだ。きっとそれはルリ以外の、相手が誰であっても、例え自身や樹と言った親友はもちろん、刀哉にとって最も大切と言える人物だったとしても……そう考えるだろう。
樹達が駆ける気配を追って、拓磨は第三階層に降りる。先に出た二人とは既に距離が離れているが、問題は無い。
拓磨も階層の道が把握出来ている訳じゃないが、帰り道をある程度で認識する程度のことは問題なかった。そのまま第二階層まで駆け抜けると、その階層に待機していた叶恵達と会うことが出来る。
「あ、刀哉君!!」
「刀哉クン!?」
「夜栄!?」
叶恵以外にも、この場には龍太や果穂も残っていた。雄平と亜由美は、どうやら美咲達の護衛について行ったようだ。
「大丈夫だ、まだ息はある。それより叶恵、刀哉へ回復魔法を」
「う、うん!!」
心配している三人には悪いが、時間が押していた。拓磨が抱えた刀哉を叶恵の元に連れていけば、叶恵は意気込んで頷き、そして……表情を硬くした。
「っ……『ハイヒール』……」
先のない左肩が見えたのだろう。しかし叶恵は声を上げずに、刀哉へ回復魔法をかける。
叶恵は戦闘はからっきしと言っても過言ではないが、一方で魔法、特に回復魔法に関しては頭一つ飛び抜けている。
この点に関しては叶恵の右に出るものは居ないだろう。一瞬にして刀哉の傷はほぼ完治し、外見上の怪我は無くなった。
「感謝する。ところで、美咲達は先に行ったか?」
「う、うん。美咲ちゃんと樹君ならルリちゃんと先に。雄平君と亜由美ちゃんは念の為について行ったよ」
「把握した。俺もこれから急ぎ刀哉を地上へ連れていく。お前達も、後から龍太と果穂の二人で叶恵を守りながら来い」
「拓磨の護衛は?」
「不要だ。先を急ぐからな」
傷を癒した刀哉を抱き直し、拓磨は龍太に告げた。刀哉の状態を顧みれば悠長にしている余裕はないだろう。
三人を置いて、再び拓磨は移動を開始する。刀哉を抱えながらであっても、拓磨の身体能力はこの中では飛び抜けているため三人より遅れることは無い。むしろ龍太達が叶恵に速度を合わせることを考慮すれば、当然とも言える。
───刀哉を死なせない。そのためには、兎にも角にも今は地上を目指すしかないだろうな。
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さて、GW明けて憂鬱ではありまするが、次回はいつも通りです。ちょっと三人称視点多めですが、そろそろ第三章も終わりを迎えるかと思われます。もう少しお待ちを!
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