第41話


 投稿日間違えました申し訳ないあと時間遅れましたごめんなさい!!

 謝罪二枚重ねでお送り致します申し訳ございませんでした。



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 『───あ、トウヤ様。こんばんは。もしかしてなにかお取り込み中でしたか?』

 「いや、大丈夫。単に着替えの最中だったから少し待ってもらっただけだ。それよりどうした?」


 魔道具マジックアイテムを起動すれば、後ろの景色こそ普段の部屋と違うが、クリスの顔が予想通り映った。画面の向こうで首を傾げて、一度目を無視した理由が問いかけられる。

 本当のことを言うのはもちろん憚られるため、まずは適当な嘘をついてクリスに目線で先を促す。


 『いえ、実は以前お話したヴァルンバとの交渉に関して、内容が確定し終えましたのでその報告をと』

 「あぁ、あれか」


 偏る思考の中、以前話された内容を思い出す。確かヴァルンバに勇者が居るという情報を元にして交渉をすると言っていたな。それを弱みとして使ったのかまでは知らないが。


 「具体的にどんな交渉をしたんだ?」

 『はい。細かい内容は省きますが、交渉の内容は簡潔に言うと相互協力の関係になりましょう、というものです。軽い同盟国と言えば分かりやすいでしょうか?』

 「同盟国か」

 『はい。主に勇者関連の取り決めを致しまして、メリットの部分で言えば例えば勇者は互いの国を行き来することが出来るようにしたり、両国から援助を受けることを可能としたりですね。ようは勇者であるなら我が国とヴァルンバ国の両方から援助を受けられるという話です。それは魔道具マジックアイテムであったり装備であったり、馬車のような乗り物であったりお金であったり……限度はありますけどね』


 なるほど、それはまた勇者にメリットだらけの話だ。勇者が行く行くは自国の利益になるからこそ成り立つ内容なのだろうが、そうだとしても良くやる。


 『そしてこちらも、恐らくトウヤ様が喜ぶ内容だと思いますが、勇者の移動が両国内で自由になったことで、タクマ様を筆頭とした勇者様方七名と護衛の騎士二名がそちらに向かって昨日出立致しました』

 「拓磨達が来るのか?」


 確かにそれは嬉しい情報だ。意味なんてなく、ただ友人が来るというだけで気持ちは軽くなる。 


 『はい。本当であれば昨日お伝えしても良かったのですが、後処理などに色々と追われていまして……やはり安定した戦力強化を目的とした場合、ヴァルンバ国の迷宮以上の優良地はありませんからね。良い馬に馬車をひかせていますので恐らくそう時間がかかることも無く着くと思われます』

 「いきなり王都に送り込むとは、思い切ったな」

 『むしろ最も監視が強まる王都に他国の勇者が居てくれた方が、向こうとしても安心できると思います。それに勇者同士の共同訓練というのも、後々は必要になってきますからね』

 

 対人戦という意味では、勇者が育てば対抗出来る存在は同じ勇者ぐらいしか居なくなる。そういった場合、他国の勇者と共同で訓練出来た方がいいこともあるのか。

 同じ勇者とはいえ、それぞれ戦い方は違う。魔族という存在と戦うことも視野に入れると必要な措置ですらある。


 「あぁ、ということはもしかして俺も特に隠したりせずもう堂々として良かったりするのか?」

 『トウヤ様はそうですね……いえ、トウヤ様はあくまで無関係の他人ということにしておきましょう。同盟関係を結ぶ前から勇者が既に居た、ということになっては折角の交渉も全てが水の泡になってしまいますから。既にここ一週間近く、目立つ黒髪黒目で活動していたのでしょうし、そうなると向こうのお膝元ではいつから居たのか簡単に裏を取られてしまうと思います。それなら勇者とは無関係、という体を取っていた方が良いでしょう』

 「……じゃあ合流はキツいか?」


 もし監視などが付けば、黒髪黒目の俺が勇者たる拓磨達に接触することは明らかに勇者関係であることを疑われてしまう。そうなると合流は難しそうだが……。


 『いえ、実はヴァルンバ国からは例の容姿を改変する魔道具マジックアイテムの援助を受ける予定となっています。そちらの魔道具マジックアイテムを二つ余分に申請しましたので、タクマ様方と合流した後受け取ってください』

 「それはいいが、黒髪黒目から変えたら……いや、そもそも勇者に近づいたら勘繰られないか?」

 『そこでルリさんと兄妹であるという設定です。勇者がこの世界では珍しく、そして馴染みある黒髪黒目の方に目をつけるのは当然ですし、その兄妹が目立つのが嫌だと言えば、善意から魔道具マジックアイテムを貸し与えるのも必然です』 

 「それが上手くハマればいいが」

 『お二人が先に着いていたからこそ、多少は信憑性をもたせられると思います。トウヤ様とルリさんが如何にヴァルンバ国の目を誤魔化せるか、演技力次第ですね』

 「……善処します」


 ルリか……先程のことがあって少し反応は遅れるが、クリスは大して気に留めていない様子。

 そう思ったが、頷きを返した直後に少し眉をひそめた。


 『……ところでトウヤ様、今どちらに? よく見たらそちらは宿のお部屋、という訳ではありませんよね?』

 「あぁ、今はルリが着替えてるからな。単に廊下だと衣擦れが聞こえるし、外に出てるところだったんだ」

 『それでもロビーなどではなく宿の外まで出てるのは少し過剰な気が致しますが、もしかしてルリさんと何かありました?』


 トーンも反応も普段とほぼ変わらないはずなのに、確信はないとはいえルリとの間に何かあったことを疑問視したクリスに、流石に目敏いなと。周りもよく観察しているのだろう。


 「なんでもないから、気にするな」

 『何も無いなら、気にするななんて言葉も使わないと思いますよ。問題がありましたか?』

 「……ちょっとした事だよ。ルリが着替えを同じ部屋でも良いと言ってきてな、俺が困るからそれは無しで頼むって話をして、その話が平行線になったから取り敢えず外に出てるんだ。無理矢理部屋に連れ込まれても困るし」

 『何をしてるんですかお二人は……』


 決して嘘だけではない。本当の事とも言えないが、少なくとも『なんでもない』と強情になるのはクリス相手では通用しない。クリスは何かあったと踏んで聞いてるのだから、その内容に答えなければ最悪根掘り葉掘り聞かれることになる……それでも教えないという手はあるが、今度は言えない内容なのだと判断されてしまう。

 確かに言えない内容ではあるが、勘の良いクリスにはそれすらも出来るだけ隠しておきたい。


 この内容も内容で中々なものだが。


 「そういう反応になるから言わなかったんだ」

 『そうは言いましても、気になるではありませんか。ただでさえルリさんがあそこまで人に懐くということが初めてなのですから、仲違いして欲しくはありません。心配にもなります』

 「心配って……クリスはルリを結構気にかけてるが、もしかして可愛がってたりしたのか?」

 『……あの方の保護者気取りなんて私には出来ませんけど、でも少し妹みたいに思う部分はありますから。トウヤ様が少なからずルリさんのことを妹のように思っているのと同じで』

 「何故か皮肉を言われている気分だな」

 『普通は妹のように感じる相手に、性の意識を向けはしないでしょう』


 それは人によりけりだとは思うが、クリスの価値観ではそういうことになっているらしい。


 『それで、大丈夫なのですか?』

 「別に喧嘩してるわけじゃない。心配しなくとも、仲違いはしないと思うぞ」

 『ではそちらの方は?』

 「……王女殿下。年頃の淑女がそのようなことをお聞きになさるのははしたないかと」

 『それを匂わせるトウヤ様がダメなのです。手、出してませんよね?』

 「手は出してないしこれからも出すつもりは無いから安心してくれ」


 ヒラヒラと己の手を振る。俺からは一切手を出していないので、そこに嘘は含まれていない。クリスは俺の事を見て嘆息しながらも、安心したように頷く。


 先の件は俺から手を出したわけでもなければ、全力で抵抗していたのでかなり際どいセーフと捉えていいだろう……下腹部に感じる熱は、クリスとの会話で思考をそらしてくれたのか多少収まりを見せているものの、まだ健在だった。

 

 『何にせよ、男女の問題に関して困ったことがあれば、年下だからと遠慮せず話してください。女性として、ルリさんとの関係にアドバイスができるかもしれませんから』

 「……俺としては遠慮したいんだけどな。でも、どうしても困った時は……情けないことは承知だけど頼りにさせてもらうよ」

 『トウヤ様の、そうやって素直に頼ってくださるところ、私は結構好きですよ』


 クリスはそんなことを笑顔で言っているが、それは冗談が多分に含まれているからだろう。今でなければ喜べるのだが、今は少し、思考に変な雑念を与えてくるのでよろしくはない。

 嬉しいことに変わりはなくとも、素直に喜べないところはある。

 

 「悪い、あまり時間をかけるとルリが探しに来るかもしれないから、そろそろ」

 『あ、はい。分かりました。交渉の件、しっかりとお伝えしましたので。またヴァルンバへ到着する近くで連絡しますね』

 「あぁ、いつもわざわざありがとう……それじゃ」


 そういう所もあり、俺は無理やり話を終わりにした。クリスと話せば思考も逸れて収まるかと思ったのだが、そこまではいかない。この状態ではクリスの話に集中もしづらい。


 魔道具マジックアイテムが機能を停止し、一息吐きながらそれをしまう。


 なるほど、拓磨達がもう少しで来るとなれば、非常に良い報せだ。親友達と離れたままというのも、この世界では孤独を味わう一つの要素となってしまう。


 ただ、それなら尚更ルリとの関係だけはどうにかしなければならないだろう。今のこの状況、拓磨と樹は同性ということで色々話がきくかもしれないが、叶恵や美咲にバレたら軽蔑で済むか分からない。

 そう軽い関係ではないが、どうなるか分からないのが人間関係。特に女性関係なんて、わざわざ口にしなくても分かるほどに繊細なものだ。


 「……仕方ない、戻るか」


 とにもかくにも、クリスとの連絡が終わった今、ルリと話し合う必要がある……去り際に見せたあの表情も、正直考え出したら暗い気分にしかならなしな。


 そう深く考えずとも、あれがどう言った類のものなのか想像がつく。だからこそ、あんなことの後でも普段通りになれるよう話をしなければならないのだが。


 ……不安しかない。しかし話し合わないことには何も始まらない。


 宿へと戻る足取りは、酷く重いものだった。




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 次回は明後日……あ、明後日……申し訳ない一応明後日辺りということで!

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