第25話
ちょっと前回と比べると短めです( ̄▽ ̄;)
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迷宮内において休憩できるスペースは限られているが、一応通路以外にも、ちょっとした部屋などが存在する。
そういったスペースは一種の『休憩部屋』として扱うことができ、朝から迷宮に来ていた俺たちは、昼休憩を取るために途中見つけたその部屋へと腰を落ち着けていた。
まぁ、食べているのは味気ない携帯食なのだが……一応クリスから貰った魔道具の中にも、長方形の形をしその一面に熱を発生させるコンロのようなものや、水を発生させる桶、あと魔道具ではない普通の鍋やフライパン、包丁まな板といった料理セットもあるのだが、流石に迷宮の中で料理をしようとは思わない。
そもそも食材が無いのだ。一応オーク肉が美味しく食べられることは昨日の夕飯で理解しているが、どこの肉を食べたらいいのかは分からないし、そもそも自分で倒したオークを食べる気にはなれない……。
焼肉屋で、食べる前に家畜が肉になるまでの工程を見せられるようなものだ。それがこちらとしてはその工程を体験させられると言った方がより正確かもしれない。
当然、食欲も減ってしまうだろう。
「誰か料理人みたいな人が居れば食材を持ってきても良いんだがな……」
「……トウヤ、料理、しない?」
「できない訳じゃないが、乗り気じゃないな。足らないものもあるし……俺の住んでた場所とは勝手が違うから」
こちらの世界に冷凍食品や電子レンジなんてものは無いだろう。いや、もしかしたら電子レンジ的な魔道具はあるかもしれないが、そうでなくとも手持ちに調味料や油といったものが無い。
肉の丸焼きぐらいなら出来るかもしれないが、逆に言えばそのくらい。手間をかけてまでやっても割に合わないと思われる。
正直調理法とか全然分からないしな。普段は携帯でレシピを調べているし。
そしてこの世界にネットなんてものは無い。そもそも携帯も既に放電してしまって電源が入らなくなっているため、ネットがあったとしても使えない。
「……残念」
「迷宮内で贅沢はするなってことなのかもしれないな」
迷宮は決して安全とは言えないし、魔物の発生率を考えたら地上よりも危険だ。そんな場所で呑気に料理なんかするなということなのかもしれない。
クリス達も、恐らく迷宮などではなく野営用として渡してくれたのだろうし、料理をするにしてもそちらの方が本来の趣きを味わえるだろう。
そうして俺たちは僅かな休憩を後に、立ち上がる。休憩場所は綺麗にしておくのが最低限のマナーというのはある種どこの世界でも似たようなものだが、この迷宮内においてはそこまで気にしなくても問題ないらしい。
例えば死体などを放置してもこの迷宮内では勝手に無くなるし、落とした物も消えてしまう。食べかすや使い捨ての道具も捨ててしまえば勝手になくなるが、何か大事なものを落とし、それに後から気づいた場合は大変だろう。
この辺りも迷宮の不思議な点のひとつと言える。まぁ、誰もゴミや遺留品に溢れた迷宮にはあまり行きたがらないだろうし、迷宮内に人を呼び寄せるという意味では合理的なのかもしれない。
果たして迷宮の存在理由が人を呼び込むためなのか、防衛するためなのかは知らないが……敵の強さが段々と強くなる。というところを見るに、前者の可能性は十分にあるだろう。
「さて、と。午後もやっていきますか」
「……目標、は?」
「オークやブルボアを多対一でも素早く倒せるようになりたいな」
迷うことなくルリに告げる。パラメータという意味では、俺にとってはもう十分な域にあり、実際現在のレベルは28と初日と比べれば結構上がっている。
第二層の適正レベルは30近くとギリギリ届いていないレベルだが、勇者としての成長力を考慮すれば、単独という条件を入れても十分に適性範囲だ。
実際、倒すのは余裕である。問題は時間だ。
一応、午前中のうちにオークも二体程度はスムーズに倒せるようになった。あとは、その数が更に増えた場合の戦闘をどれだけ効率化できるかということ。
魔物にも当然個体差があるが、種族としての特徴から大きく外れることはなく、多少の筋力や機敏の違い程度なら問題なく対処出来るはず。
オークであれば、首周りは脂肪が付いているため回転が遅く、背後の確認に多少時間がかかるため周り込めば攻撃を入れやすい。
また、二体同時の場合は急所だからと最初から無理に首を狙うのではなく、先に膝を狙って脚を負傷させた方が結果的に体勢が下がり気味になり、短時間で首を狙いやすくなることも把握出来た。
この辺りは経験が生きるだろう。どこを狙い、どう攻撃し、どう止めをさすか。
今はまだほとんどが手探りの状態だが、一度把握出来ればそれはもう慣れになる。午後の目標と言ったが、これはほぼ確定して早期に達成出来るはずだ。
それから午後も迷宮の探索を進めること一時間程。
今日は何度か他の探索者とすれ違ったりしていたが、その時は初めて、戦闘中の探索者と遭遇した。
こういう時本来なら助けで求められない限りはお互い不干渉を貫くのがマナーだ。戦闘している近くには行かず、通路が塞がれている場合は迂回することも求められる。
今回のケースはまさにそれで、オークと戦う三人の探索者が俺達の行く手を塞いでいたのだが、俺は彼らを視界に入れた時、妙な違和感に襲われて足を止めていた。
「……トウヤ?」
踵を返さない俺にルリが聞いてくるが、俺の視線は奥の探索者に向けられたままだ。
彼らの髪色はこの世界にありがちな金髪、赤髪といったものなのだが、それが妙に合っていない。この世界の人間というよりも、まるでコスプレイヤーが髪を染めているみたいな、そんな感覚。
戦闘中ということもあり顔の確認が難しいが、雰囲気や体格から俺達とそう変わらない年齢だということも予想できる。
だが、それ以上の視認が難しい。ちょうどこちらに背を向けているというのもあるため、この違和感の正体がなんなのかが分からない。
少し戦闘を観察してみるが、動きはそんなに悪くは無い。身体能力も高いのかオークの攻撃を危うげなく回避している。
ただ気になることと言えば、必要以上に大きく敵の攻撃を避けている事だが、それ自体は特筆すべきことではないだろう。誰だって傷つくことは恐れるし、それを考えれば大袈裟な回避は自然とも言える。
「……トウヤ」
「ん、あぁ、悪い……ちょっと気になることがあってな」
そこでルリがくいくいと俺の袖を引いてきたので、意識を戻した。どうも思った以上に違和感の正体が気になっているようで、注意深く観察してしまっていたようだ。
あまりジロジロ見るのもマナーとして宜しくないし、ルリを待たせるのもアレなので俺はそのまま立ち去ろうと視線を外し───。
「っ……!?」
慌ててその場で振り返る。それは先程のように違和感を感じたからなんていうものではなく、俺はその時明らかに驚愕を顔に浮かばせていただろう。
「どう、したの?」
俺の様子が普通ではないと感じとったルリが聞いてくるが、正直その時は聞いていなかった。
記憶を思い返して先程見た光景を再確認する。先程、俺がこの場を去ろうとした瞬間。その一瞬だけ視界の端に微かに見えた、三人のうちの一人の少年の顔。
それを思い出して、足を止めざるを得なかった。
「今の……」
今の、今見た少年の顔。
知っている訳では無い。知り合いというはずがない。だがそれでもハッキリとした違いは、違和感の正体を俺に気づかせていた。
この世界の人間とは違う、その顔つき───。
「───日本、人……」
呟いた直後、もう一度彼らの顔が視界に映る。
そう、確かにそのはずだ。髪色こそ黒ではないが、それでもこの世界の人間とは明らかに異なる日本人の顔。
今まで街を歩いていた時に沢山の人を見てきたが、だからこそ分かる。
間違いない。彼らは恐らく、俺達と同じようにこの世界に召喚された───日本人なのだ。
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こういう描写の仕方は苦手なのですがまぁ今回は仕方ない。
ということで次回はまた明後日辺り!
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