第12話
あ、これもう明後日で最新話と重なりますね……。
そしたら毎日投稿じゃなくなるのでご了承ください。
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起床と同時に、また少しだけごたついてしまうのは何となく予想出来ていたし、実際そうなった。
まさしく前回と同じような結果だ。ルリは大義は我にありとばかりに、朝起きたら俺と抱き合っていた。
言い訳は『刀哉の方が最初にやってきた』である。
崩せない最強の言い訳である。俺がやったのなら仕方ないと飲み込むしかないような気がする。例えそれが寝相だとしても。
しかし、しかしだ。変な気分になるのはどうもスキルのせいな気がして、[性欲耐性]というスキルがいつの間にかあったからこれで多少は楽になるかと思ったら、レベルはマイナスでむしろ弱体というこの仕打ち。
スキルを取得、というより弱点が増えた理由は明らかにルリと一緒に寝ているせいだろう。
これ、最後まで我慢しきらないとダメなのかもしれないな。スキルの効果は中々だが、それはどうやらマイナスの場合も同様の様子で。
最近特にそういう気分になりやすいのはこのスキルのせいらしい。後で絶対プラスにしなければ。
昨晩のクリスから言われたこともあったので、俺は変に引きずらないようにしつつ再び出発。
とは言え、ここから国境までは酷く平坦な道だ。地形的にも環境的にも。
この先には魔物の生息区域がほぼ無いと言ってもいいのに加え、山や森、洞窟などもないので本当に平坦な道なのだ。
ちなみに魔物に関してだが、魔物もゲームのように虚空から出現するタイプと、しっかりと交尾して繁栄、繁殖していくタイプの二種類が存在する。
前者は『魔力溜り』という、その名の通り魔力の溜まり場のような、極端に魔力の質が高い場所に、その魔力を燃料として出現する。様々なラノベでもこの手のタイプの話があるため、理解は容易いだろう。
一方で後者はもっとわかりやすい。現実の動物と同じような感じだ。例えば森にゴブリンが多いのは森の中で繁栄しているからで、きっと集落的なものも探せば見つかるだろう。
だが後者の場合当然住みやすい環境が目安となるので、草原ではあれど他にこれといっためぼしいものがなく、ある意味食料の調達が困難なこの地域では、外敵がいないというメリット以上に生き辛い。
草食の魔物なら良さそうだが、ゴブリンしかりフォレストウルフしかり、その他の魔物しかり、魔物に草食系はほとんど居ない。
基本的に肉や果実、そして魔力などを食料としている。草は……食えなくはないだろが、そのまま衰弱死するのではないか。
この先には特に魔力溜りも無く、魔物が出現する可能性は極めて低い。
そして予想通り特に何事もなく、馬車は道を進んだ。そのおかげかせいか一度寝かけてしまったものの、それに関しては誤ってルリの方に体を倒してしまうという事故によりある意味で目が覚めた。
なお、ルリはほんの少し恥ずかしがっただけで、むしろ膝枕をしてもいいとまで言ってきたのだが、寝ると大変ということを伝えてそれは回避した。
ルリの膝枕は、多分気持ちいいのだろうが落ち着かないと思われる。
そうやって結局寝ずにダラダラと思考に専念して過ごしていれば、その日はそのまま夜になってしまい、適当な場所で野宿をすることになった。
野宿とはいっても、今回はハルマンさんが馬車を貸してくれるため、地べたで寝るよりは余程いい。
「そう言えば、昨日助けて頂いた奴隷の子達が、トウヤ様にお礼を言いたいと」
そうやって野宿の準備に取り掛かろうとすると、ハルマンさんがそんなことを言ってくる。その後ろには、昨日助けた二人の少女。
髪色こそ赤と緑で違うが、顔立ちは似ている。姉妹なのだろうというのは容易に予想がつき、そのうちの赤髪の少女がぷいっと顔を逸らしながら俺にお礼を言ってくる。
「き、昨日は……あ、ありがと!」
素直にお礼を言うのが恥ずかしいのか、顔をぷいっと逸らしながら。ハルマンさんが何とも言えない表情をしているが、俺は目で「構いません」と告げる。
俺が助けた時は気を失っていたはずだが、昨日のうちにハルマンさんから話を聞いていたのだろう。見たところ、盗賊に攫われたのは覚えている様子。
そうすれば続くように緑の髪の少女も、こちらはあわあわと少し挙動不審ではあるが。
「あ、あのっ、助けてくれて、ありがとうございましたっ!」
そう言ってペコリと頭を下げた。赤髪の少女とは対照的に典型的な人見知りタイプのようで、頭を下げた後は直ぐに赤髪の少女に隠れるようにしている。
「どういたしまして。でも俺だけじゃなく、ハルマンさんにもお礼を言っておいてくれ。ハルマンさんがあそこまで必死に君達を助けようとしたから、俺も助けに行ったんだし」
「……そうなの?」
「え、えぇ、まぁ」
二人の少女からお礼を受けたので、俺は少し頬を緩ませながらそう言う。ただやはりハルマンさんがああまで必死にならなければ俺が行くこともなかったろうし、そういう点ではハルマンさんこそ感謝されるべきだろう。
赤髪の少女に見上げられ、恥ずかしそうにしているハルマンさんが少し印象的だった。
それはともかく、二人とも痩せてはいるが元気そうである。まぁ食事はハルマンさんがしっかり用意しているようで、そう言えば昼の時も一度ハルマンさんが馬車を止めて渡していたような気がする。
どういった経緯で二人が奴隷となったのかは知らないが、ハルマンさんが良い人だということを察してのことか、あまり悲壮な感じはしない。
まぁ、小学生か中学生ぐらいの少女が変に絶望感漂わせていたらとてもでは無いが見ていられないので、良い事なのだが。赤髪の少女は割と自由なのか、今は自身より幼そうな見た目をしているルリに絡んでいた。
「ねぇ貴女、あの人と一緒に旅をしてるんでしょ? もしかして、貴女は強いの? あの人彼氏?」
「……彼氏じゃ、ない。家族……」
「家族ってことは、じゃあお兄ちゃんなの? それともお父さん、は無いか。でもお兄ちゃんってちょっと良いかも、羨ましい~」
「お、お姉ちゃん、グイグイ行き過ぎだよぉ……」
傍から見ていると、同じぐらいの歳の子が三人集まってワイワイやっているように見えるが、ルリは対応に困り果てているようだった。どこか縋るように俺の方に視線を向けて、助けてと言っているようにも聞こえる。
俺は敢えて無視をした。あの子達が楽しそうなので、割って入ることが出来ないのだ。
というかちょっと気になる言葉が出てきたな。確かに、俺とルリは果たして家族という設定とはいえ、具体的にどういう関係なのだろう。兄妹なのか、はたまた父娘……は無理があるだろう。
俺もしっくり来るとしたら兄妹だが、ルリが果たして自分をどこの位置に収めているのかは少し気になる。
俺が弟でルリが姉、みたいに思っていたらそれはそれで反応に困るが。少なくともあの少女達は兄妹と認識したようだ。
隣で俺と似たように微笑ましく見守るハルマンさん。
「……そう言えば、彼女達の名前を聞いてなかったのですが、聞いても?」
「あぁ、すみません。私としたことが、つい親のような気持ちで見てしまっていました……」
苦笑いで言うハルマンさんに、思わず同意しかける。確かに保護者的な気分で見てしまっていて、どこか微笑ましく感じていた。
「名前ですが、赤髪の女の子はルナ、緑の髪の女の子はミレディと言います。顔立ちから分かるかと思いますが姉妹で、ルナが姉でミレディが妹です」
「なるほど……こう言ってはなんですが、見たところ随分と幼いですよね」
どちらも12、13ぐらいの見た目。あと数ヶ月で18になる俺からしてみたら子供だ。
「最初、私が村を巡っていたと言ったのを覚えていますか? 私は奴隷商人ですから、主に貧しい村などを巡って、同意を得た人間を奴隷として買い取っているんです。口減らしと資金稼ぎを兼ねて。彼女達も同じように、子供だからという理由で村の口減らしとして売られたのですよ……一応本人達の了承は取ってますが、あってないようなものですね」
俺は純粋に見た印象を話しただけだが、どうやらハルマンさんは俺の言葉を深読みした様子。別に経緯を聞こうとしたわけじゃないのだが……口減らしか。
現代日本に生きていた俺にとってそんな言葉とは無縁だが、この世界ではやはりそういうこともあるらしい。貧富の差が激しく、街と村で大きく差もある。
口減らしといえば、やはり子供か老人が売られそうなイメージだ。労働力は村の人も欲しいだろうから、動ける若手は残しておいて……まぁ、あの二人にとっては不幸であったのは確かだ。
本人の了承も、確かにハルマンさんが言うようにあってないようなもので、わざわざ人を売るぐらいなのだから、村にも余裕などないのだろう。
そんな場所に残ったところで、というところはある。実質選択肢がない状態だったので、候補に挙げられたこと自体が不幸なのだろう。
「それでも、ハルマンさんに買われたのは幸運かもしれませんね」
「……そうだといいですね」
視界の先でルリが我慢出来なくなったのか立ち上がる。どうやら度重なるルナからの質問攻めに耐えられなかったらしい。
きっと奴隷となって、更に盗賊にも攫われたというストレスから解放されだからこそなのだろう。その状態の少女が相手では、ルリには荷が重かったのかもしれない。
「……トウヤ、無理。大変……」
そんなことを言ってポスンと、俺に寄りかかってくるルリ……今はある程度ほっこりとしているので、変な気分にはもちろんならない。
その後ろをルナとミレディが着いてきて、ルナは不思議そうに見ている。
「ほらぁ、お姉ちゃんがいっぱい質問するから」
「えっ!? だ、だって……」
疲れた様子のルリを見て、ミレディがルナを咎めた。いやまぁ、きっと旅をしているということで聞きたいことが色々あったのだろう。村から出たことないと仮定して、見るからに好奇心旺盛そうなら余計に。
「……悪いね、ルリは喋るのが苦手なんだ。出来れば次からは質問を絞ってあげてくれると嬉しい」
「っ!?」
そもそも質問自体を止めさせろと言うかのようにルリが俺のことを上目遣いに見ながら首を横に振るが、それは無視せざるを得なかった。
俺がルナに言えば言葉に詰まったような仕草が返ってくるが、すぐにルリの方を向いた。
「う、悪かったわよ……
「ごめんねルリちゃん。お姉ちゃん、ガツガツ行くタイプだから」
「そんなこと言って、ミレディだって色々聞いてたじゃない!」
「わ、私はちゃんと、ルリちゃんが答えやすいようにしてたもん」
「……そもそも、ルリちゃんじゃ、ない……」
と、ルリちゃんは控えめに訴えるも届かない。なんだかんだルリも断るに断れないからこそ、俺にすがりついてきたのだろう。それは彼女達を嫌っているわけではないということだ。
もし本当に嫌がっていたのなら俺も許可は出さない。どちらかと言うと、ルリは対応に困っている感じが強い。
そこはもう、慣れてもらおう。
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