第7話
ルリの強さを痛感したのはいいが、それだとルリに頼りっきりになってしまうので、レベルアップの目的も兼ねて、次から魔物が来た場合は基本的には俺が相手することからルリは手を出さないで欲しいとお願いしておいた。
正直に言って、ルリの強さを甘く見ていた。城の騎士を相手に余裕と言っていたのである程度高めに見積っていたつもりだが、成程、比較する相手をグレイさんとかにしなければいけなかったのか。
いや、誰が予想出来るだろうか。この小さな少女がそれだけ強いなどと。
……この世界におけるステータスシステムは、ぶっちゃけ見た目はそこまで関係していない。力があるからと言って必ずしも筋肉がある訳ではなく、それらは意図的に鍛えない限りつくことは無い。
極論、魔物さえ倒していれば誰でも強くなれる。ただまぁ、年齢的な意味合いで見た目が大人な方が強い傾向があるのは当たり前なのだが。
ルリの強さ的に、もしも見た目通りの年齢だとしたらそれこそまだ生まれて10年かそこらということになり、本来であれば魔物と戦える年齢ですらない。これで本当に見た目通りの年齢だった場合、それこそ異世界ラノベ系の転生チート主人公ではないか。
赤ちゃんの頃から効率的なレベリング云々……ともかく、その非現実的な考えを除くならば、ルリはせめて15歳ぐらい、もしくは以上だろうというのが俺の予想であり、恐らくは天才肌なのではないかと。
ステータス的にも才能的にも天才で、知識も豊富……まずい、本当に俺の出る幕がない。
「レベルとか幾つなんだ?」
「……? 覚えて、無い……ステータス、なんて、暫く見てない、から……」
隣を歩くルリは特に自身のステータスに関心がないらしい。そういった部分も今となっては強者特有の感じに思えてくるのが不思議で、だがやはりルリのステータスは気になってしまう。
「もし良かったら、俺は[鑑定]のスキル持ってるから、それで見ても?」
「……あ、鑑定……珍しい……別に、いいけど、多分、無理……?」
ルリが首を傾げながら言ってくる。無理とは一体と思ってルリに[鑑定]を使おうとすれば───バチッと。
何かに弾かれたような感覚と、一瞬だけ途切れる視界。初めてのその現象に俺が困惑していれば、ルリは何でもなさそうに言う。
「……私、鑑定、効かない、から……」
「鑑定が効かないとかあるのか」
「……そういう、スキル」
なるほど、鑑定無効のスキルか……もしやルリが真の勇者なのではないか。ユニークスキル、そして[鑑定]は希少性があるにも関わらずそれを無効化するスキルとか、そっちの方が珍しいだろ。
となると、先程のは[鑑定]を無効化されたことによる現象のようだ。あの感じでは無闇に人に向かって[鑑定]を使っていると、ルリのように無効化できる相手が出た場合、こちらが[鑑定]したことがバレてしまうかもしれない。
意識を取られるほどでは無いのだが、表情にどうしても変化は出る。戦闘中ならともかく、相手からの印象を下げたくない時に正面で使うのは出来るだけやめた方が良さそうだ。
しかし、とうとうルリのステータスがわからなくなった。強いのはわかるのだが、果たしてどのくらいなのか……例えば俺が戦ったらどうだろうか。
……情報が少なすぎてなんとも言えない。先のような速さで動かれても、見えはしないが反応できる。防御ならどうにかできるだろう。
しかし、攻撃が当てられるとは思わない。となると、現状負けは無いかもしれないが、勝ち目もまず無いと言える。
「……レベリング、早くした方が良さそうだな」
「……気に、しすぎ」
「いやいや、女の子より弱いなんてこと、今まで無かったからな……男としてのプライドがな?」
「…………そういう、もの?」
「そういうもん」
どんなことにおいても、地球の頃はほぼトップに居た俺にとって、誰かに頼るというのが中々慣れない所がある。それが女の子で、しかも見た目幼女となれば尚更。
慣れないというか、抵抗しかない。
なので早いところ強くなりたいという欲求が高まっている。もちろんルリに任せた方がいい時はそうするが、やはり自分でこなせた方がいいのは確かなのだ。
◆◇◆
とはいえ、その後は魔物に遭遇することもなく、しかしながら森を突破することも無く……。
結局森の少し開けたところで野宿をすることになった。
野宿───とは言っても、難易度は相当低い。本来であれば沢山の荷物を持参するか、もしくは食料などは現地で調達などしなければならないが、その点俺達はクリスの気遣いによって、アイテムバッグなる最強の収納道具と多種多様な
ここでは今度こそ魔物避けの魔道具が効果を発揮するので、それを置いておけば、絶対ではないが魔物が来る確率は大きく下げられる。
しかも、俺たちがこの開けた場所を選んだ理由でもあるのだが、運良く近くにちょっとした湖……池……いや、湖があるため、風呂とまではいかないが、水浴びも可能という好立地。
実際のところ水魔法があれば水浴びは十分に可能だし、それであれば乾かす必要も無いのだが、その場合結構な量の水が地面に流れ、結果的に辺り一体がぬかるんで地面がベチョベチョに……となると、泥も足に結構はねる。
その点湖ならば、浅い所では常に足を水に浸からせていられる。その上で水魔法も併用すれば、石鹸を使った時まではいかないものの、結構綺麗に流せるだろう。
これまたクリスの気遣いなのだろう、バスタオルもしっかりとあるので、その点も問題ない。地球で俺達が使うようなものよりも更にもふもふとしている高級そうなものなのは、少しだけ使いにくいが。
「───こんなもんか」
取り敢えずと準備は終える。食料は味気ない携帯食料ではあるが、ここは我慢するところだ。
魔物の肉も食えるといえば食えるのだが、食べれそうだったフォレストウルフの死体は残念ながら放置してしまっている。それに気づいたのはしばらくしてからだったので、取りに戻ることも出来ず……。
かと言って夜の中積極的に狩りに出ることなどできず、ならもう携帯食料でいいと。そもそも何のためのそれだと。
そして灯りは焚き火、ではなくこちらも魔道具である。見た目としてはカンテラに近いだろうか、中で光魔法を発動しているようで、決して強い明かりではないが、数メートルを照らすには十分でもある。
その間ルリは適当な木を───剣でスパッと───切り倒して丸太とし、それを即席の椅子代わりにして休んでいた。
丸い状態だとゴロゴロしてイラついたのか、途中で頬を少し膨らませて丸太を真っ二つにしていたが、それは見なかったことにしておこう。疲れてるんだろうよ。
準備を終えた時点では既に夜と言っていい時間帯。真っ暗な森と言えば心霊的な恐怖もありそうなのだが、ここが異世界だと考えると何故か平気に思えてしまう。そもそもこの世界の霊ってどういう扱いなのだろうか。
魔物の一種とかそういう扱いだったら、全く怖くない。
先に簡素な食事をルリの作った即席の椅子に座って食べ、もうやることも無くなった時、ようやく水浴びでもしようかと思ったのだが。
「そう言えばルリは水浴びはいいのか?」
「……トウヤ、は?」
「そりゃもちろん、どうせなら俺もするが」
「……そう」
と、まだ水浴びをしていないルリに先に行かせた方がいいかと思って声をかければ、トテトテと、湖の方向へと向かう。
それを見送ろうとすれば───チラっと。
「……トウヤ?」
「ん、どうした」
「……水浴び、しない、の?」
「するけど、ルリが先でいいぞ」
「…………そうじゃ、なくて……」
何だか歯切れの悪いルリに首を傾げていると、ルリは戻ってきて俺の服を掴んでくる。
あぁ、ちょこんってするの可愛いなという思考が脳裏を高速で通り過ぎていって、それを無視しながら、果てどうしたのかと。
「……」
ルリは視線を逸らし気味で、何やら恥ずかしそう。ふむ、と俺は考えて、いやいやまさかなと思いながらも、とある予想に辿り着いた。
「……ルリ、もしかして怖いのか?」
「っ…………そ、そうは、言ってない……」
「いや、でもな……」
先の会話を遡る。ルリに水浴びを聞いたら、逆に聞き返してきたので『俺もする』と答えれば、ルリは頷いて行こうとした。
がしかし、直ぐに振り返り、改めて俺に水浴びはしないのかと聞いてきた。何故そうする必要があったのかと聞かれれば、推測できることとしては、ルリはもしかして『一緒に水浴びするかどうか』を聞いたのではないかと。
もちろん、意味もなく一緒に水浴びをするとは思わないし、ルリが水浴びに行こうとしなかった理由が怖かったからと考えるならば、俺が行くと言った途端に水浴びに向かおうとしたことも辻褄的に合っている。
恥ずかしがっているのは、その『自分が怖がっている』ことに対してと、『一緒に水浴び』という部分だろう……と推測した結果、少なくとも前者に関しては当たっていることがルリの反応で判明して。
そうなると後者の方も当たっている確率は高く、そうじゃないとそもそもルリが改めて俺に聞いてくる意味が分からない。
普段図書館に一人でいるルリさんも、森となると別なのね。先程そういう思考をしていたのでまさに奇遇だったというか、この世界でもやはり暗闇に対する恐怖はあるようだ。
「……本当は、ちょっと、怖い……」
「だよな、やっぱり。別に無理はしなくてもいいぞ。無理はしなくてもいいんだが……」
ルリは一度否定したものの、しかし素直に認めた。が、それはそれとして、問題はある。
それは、ルリが一人じゃ怖いとなると、どうするか……ということであって。
当然俺も『じゃあ俺がついていこう』なんて言い出せる訳もない。幼女の水浴びについていこうとするなんてどこのロリコンだ。ただでさえ既に一緒のベッドで寝たという事実があるのに、これ以上ロリコンとしての実績を重ねたくはない。
重ねたくはないが、かといって『怖いなら仕方ない、今日は水浴び我慢しよう』なんてことも言えない。昨日だって入っていないのだ。ルリがどこまで気にしているかはしらないが、全く気にしていないということは無いはずなので、入った方がいい。
でも入るとなると俺はどうすればいいんだとかなんとか。
そうやって俺が一人葛藤していれば、当の本人であるルリは、掴んでいた俺の服をきゅっと引いてくる。
それに気がついて向くと、ルリは頬を赤らめながらも、だが確かに、ボソッと。
「…………怖い、から……ついて、きて?」
───頷く以外のことは出来なかった。
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