第5話



 少女二人を抱えた俺はその後、地上までの道を土魔法で掘ることで、なんの問題も無くハルマンさん達のところまで戻ることが出来た。

 ちなみに言うと、土魔法と言えど、土を消してしまうようなことは出来ないため、基本的には無理やり土を周囲に押しのけてその状態で固定しつつ、自分が通ったらその固定を解く、という方法で道を作ったので、俺が通った道は既に完全に塞がっているだろう。


 変な位置から地上に出たので、近くに盗賊がいることも無く、あとは太陽らしきものの位置を木の上に登って把握し、そこから方角を確かめてルリ達の元へと帰った。 


 まぁ、当然のようにハルマンさんから感謝の言葉を何度も何度も言われた訳だが。結果としてほぼほぼ危険な目に遭うこともなく行えたので、俺としてはそこまでしなくてもと言ったところだ。


 「……突っ走り、すぎ……」

 「悪かったよルリ。ただまぁ、見捨てるのもあれだったから」


 反面、ルリからはそのように苦言を呈されてしまったが。それはまぁ心地の良いものであり、耳に痛いものでもあり。


 「……そうだと、しても、別行動、は……ちょっと、困るから……次からは、私も行く」


 ルリがちょこんと俺の袖を掴むのが可愛くて、つい顔を緩めそうになってしまう。

 でも、ルリを巻き込まないと思ったのだが、ルリはどちらかと言えば着いてきたかったらしい。それを本人の口から言われると、俺も頷かざるを得ないのは、俺自身ルリの立場ならそう考えるからだろうか。


 「分かった。次からそうする」

 「……ん」


 ここ数日でルリに甘々になってしまったような気がする。いや、元々甘かったか。

 袖を掴むルリの頭を、思わず撫でそうになってしまう手を意識的に抑えていれば、そんな光景を見ていたハルマンさんが生暖かいとも取れる目でこちらを見ていた。

 

 「……仲が良いのですね」

 「まぁ一応、これでも家族なので」


 サラリと出てくる言葉。「あぁ、なるほど。道理で」というハルマンさんの言葉は、きっと容姿、特に髪色についての話だろう。

 実際のところルリと顔立ちはそこまで似ていないと思う。だが、人間は言われれば何となくでそんな風に思ってしまうらしい。疑ってかかっていればそれは別だが。


 話が一度途切れ、それが丁度いいと思ったのかハルマンさんが馬車に乗り込む。馬は最初こそ転倒していたが、怪我自体はほぼなく、今ではブルンと鼻息を鳴らしてその逞しい脚を準備運動とばかりに足踏みさせているので、問題なさそうだ。


 「それでは約束通り、馬車にどうぞ。目的地は私と同じでいいんですよね?」

 「はい。迷宮国家……ヴァルンバの王都までお願いします」

 

 そして幸運なのは、ハルマンさんもまた目的地が俺たちと同じであるということ。元々彼が店を構えているのは俺たちの目的地である隣国、ヴァルンバの王都であるらしく、ならば丁度いいということだ。

 途中まででも良かったのだが、目的地が同じなら話は別だ。


 助けた子二人を後ろに乗せて、俺達も馬車に乗る。一応馬車は奴隷を運ぶということで広く、またそれ以外に客を乗せる用のスペースも分けて存在している。どちらも作りとしては変わらないが、壁で区切られているのがまたなんと言うか……ハルマンさんが別の部屋にしたほうがいいというのでその子達とは違う客が乗る方へと俺達は入る。


 まぁでも本来の目的としては奴隷との区別なんだろうが、そうでなくとも、あの子達が起きた時に、ルリはともかく俺という知らない男が居たら驚かせてしまうかもしれないし、妥当なところだろう。

 子供に怖がられたりしたら嫌だしな。最後の記憶が盗賊に襲われているところだった場合、普通に有り得そうなので嬉しい気遣いだ。


 取り敢えず一段落はついた。乗りかかった船ということで最後まで手助けしてしまったが、馬車に乗ってゆっくり出来るというメリットはあったので、結果的に良かったのだろう。


 「それでは、行きますよ。予定よりも遅れてしまったので、申し訳ありませんが少し飛ばしていきます」

 「えぇ、お願いします」





 ◆◇◆



 

 馬車の旅というのはやはり楽だなと、ここまで歩いてきたあとだととても実感するわけで。

 俺も自前の馬車が欲しい、と思ってしまうのは仕方ないだろう。車買って遠出したいみたいな感覚であるし。


 「───そう言えばお二人は、どうしてこちらに?」

 

 そうやって外を眺めていれば、御者台からハルマンさんが顔を出してそんな質問をしてくる。

 こちら、というのは言うまでもなくこの森のことを指していて、そんな質問をしてくる理由は、先の盗賊の話があるからか。


 ルリが答えるとは思わないので、特にそちらを窺うこともなく俺が返答する。


 「これでも冒険者ですし、馬車は出ませんが、歩いて突破できるかなと……まぁ、随分とここまで長い距離でしたが」

 「今からヴァルンバの方へ向かうということは、恐らく南の街から来たのでしょうが、それはそうだと思いますよ。ここまでだってその街からは馬車で一日かかる距離なんですから、その距離を良く歩いて移動しようと思いましたね。冒険者だからって歩いて移動するなんてほとんどないと思いますよ」

 「それは言わないでいただけると助かります」

 

 確かに街から街を歩いて渡るのはどうかと思う……その件に関しては先程痛感したので、ハルマンさんの呆れに似た言葉はサラっと聞き流しておく。

 一応街から出る前にそこまで馬車に乗せてくれた女の人に距離を聞いてはいたんだが、その時はこう、行けると思っていた。いや、実際行けるんだろうが、効率的ではないし普通に疲れる。


 肉体よりも、精神が。


 ……ここに来るまでの道中、初めてのことが満載だったなぁと遠い目をしてみる俺。辛いわけじゃなかったが、色々と、色々と大変なことなり何なりがあったのだ。


 少しだけ、思い出してみる。初めてレベルアップした時のこととか、隣で寝そうになっているルリが、実はなんていうことを。


 それはそれで、いい時間つぶしになるかもしれない。

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