第23話
ちょっとだけ時間遅れて投稿! 申し訳ない。
そして今回で第二章サラッと終了です。
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「……じゃあ、行こ……?」
「……だな」
宿屋を引き払い、外に出た俺は、ぎこちなくルリに返事を返した。理由など、言わなくともわかるだろう。
そしてその時間の短さが、ルリにとって気になるらしい。
「……すぐ、済んだ、けど……平気? 無理、してない……?」
実際の異性のそういう事情に不慣れな故か、色々と知っているからこそ過分に心配や気遣いをさせてしまっている様子で、それもまた、俺にとっては対応に困る内容だった。
「有難いが、そういうのを女の子から心配されると複雑だから、出来れば気にしないでくれると助かる」
「……そう、だけど……そういうの、
「大変、というか……とにかく平気だ。ホント」
さっきは記憶に残った
決して、ルリが好奇心やそういう意味で聞いているのではないと理解している。純粋に心配から聞いているのだろうとは分かっている。
しかし、その言い回しだとまるで、『どうしてもなら、手伝う』とでも言っているかのように聞こえて、先程からルリのことを否応がなく意識させられてしまっているのだ。
それをルリ自身理解しているのか分からない。その言葉で俺が余計にルリを意識することになっていると、分かっているのかどうか……。
「……冒険者の、パーティー、とかは……異性の、そういうの……手伝って、あげる人も、居るって…………実際、居るみたい、だし……」
「……まぁ、そういうこともあるよな。冒険者の女性とか、如何にも気にしなさそうだし」
我ながら何を話しているのかとは思うが、仕方ないだろ。ルリがそういう話をしてしまうのだから。
でも確かに、地球と比べれば貞操観念が緩い人は多いようなイメージがある。特に冒険者とか、言っては悪いが少し野蛮な印象が強いため、女性も男勝りな人が多そうというか……となると、そういうことも、あるのだろう。
男も性欲強そうだし、パーティー内で解消してやるのは、実際のところ効率的にもいいのかもしれない。まぁ、パーティー内の雰囲気がぎくしゃくしなければ、だが。
俺が控えめに頷けば、ルリはキュッと俺の袖を掴んで、チラチラと、俺の方を見ては視線を逸らすというのを繰り返しながら、やがてポツリと。
「…………その、私たち、も……一応、冒険者の、パーティー、だし…………本当に、困ったら、私もてつだ───」
「いやいやいやダメだろっ。良く考えろルリ、それはダメだ」
俺も考えそうになっていたことをルリも言おうとしたので、慌てて遮る。いや、いやいや、その言葉は少しというかかなり積極的すぎる。先程まで感じていた『どうしてもなら、手伝う』的な言い回しは、俺の勘違いではなく本当だったのか。
とはいえ、それは、ダメだ。何がとか、何でとか、そういうのなくダメだ。
「……嫌?」
そう聞かれると俺が拒絶しにくいことを知ったのか、昨日と同じようにそう聞いてくるルリだが、流石にこれはダメだ。
言ってしまえば、仲のいい近所の女の子に提案されてしまっている感じだ。誰であっても首を横に振るだろう。
だって、その、俺まだお巡りさんのお世話になりたくはないし……いやでもこの世界では、合意の上ならそういうのも割とオーケーなのか? いやいや、ルリの年齢もわかっていないし、例え分かっていたとしても、同情や心配からそういう
そういうの全部オッケーだったとしても、ルリがオーケー出したとしても、無理だ。
「嫌とかじゃなく、ダメだ……この先も一人で大丈夫だから、ホントに気にするな。な?」
頼むからこれ以上深く突っ込むなと、幼い少女に諭すように言う。もし何らかの事情があってルリの手が必要になる時が来る、なんてことを考えるだけ無駄なのだ。
「…………分かっ、た……」
ルリも俺が本気で言っていると伝わったのか、ようやくこの話を切り上げることが出来そうだった。
◆◇◆
朝食は朝からやっている出店などで焼き串的なもの───何の肉かは知らないが、使われているのは多分鶏肉だろう───を食べて、俺達は再び馬車乗り場まで来ていたのだが、そこには昨日の御者の人が、申し訳なさそうな顔で待っていた。
「おはようございます。あの、どうかしました?」
「あぁ、昨日のお二人さん!」
そして俺達の姿はしっかり覚えていたのか、黒髪黒目だからこの世界だと覚えやすいのか、俺たちを見つけた御者さんは最初はスマイルを浮かべて、すぐに申し訳なさそうな顔に戻した。
「実は、これから通る道にどうも結構な数の盗賊が出没してるみたいで……昨日も商人が一人襲われたらしく、護衛として雇われてた冒険者一人が逃げ帰ってきたとか」
「なるほど……それで、馬車を出したくても危険だから出せない、ということですか」
「そうなんです。昨日から盗賊討伐の依頼がギルドに貼り出されてるんですが、結構大きい盗賊の組織みたいで、安全が確保されるのはいつになるか……なので、お二人には悪いんですが、目処が立つまではここで足止めということに……」
うむぅ……俺はルリと顔を見合わせた。見計らったかのような厄介事だ。偶然なのだろうが、実は俺達に合わせたんじゃないのかと疑いたくなるぐらいにピッタリなタイミングである。
やっぱり盗賊とか居るんだという思いの反面、困ったのも事実。精神的にあまりゆっくりはしていたくないし、俺としてはレベルアップが最優先なので、足止めは避けたいところだ。
「……どう、する?」
「どうするか……結構大きいって言ってましたけど、人数とか分かってるんですか?」
「それもまだ詳細は……でも、10人とか15人程度なら大きいとは言わないので、最低でもそれ以上は居るんじゃないかと思います」
それまた難しいな……盗賊と言うと盗みを働く悪人や、金のない人間もそういう盗みに手を染めそうだが、果たして練度がどんなものなのか。
俺の戦力の比較対象は、ルサイア騎士団の騎士の方々が主だ。確実にあそこの騎士団は連携はもちろん、純粋な実力も高いだろうし、俺ならばそんな相手でも3人、いや、今なら4人同時にでも、
盗賊が王都の正規騎士団よりも練度が高いなんてことがあったらそれはそれで大問題のはずで、彼らよりは、盗賊は練度が低いと見れる。
盗賊同士の連携がどの程度かは知らないが、少なくとも数人に囲まれたぐらいじゃ傷を負うことはないだろう。
……しかし、俺一人ならば危険を承知で進んでいたかもしれないが、今はルリが居るから、問題はそこか。
「なぁ、分かるならでいいんだが、ルリは王都にいた騎士団の騎士達を相手にして、勝てるか?」
「……? そのぐらい、なら……余裕」
小声でボソリと聞けば、ルリは不思議そうな顔をして返してきた……いや、王都の騎士って、強いんだよな? にも関わらず『そのぐらい』と見た目幼女のルリに称されてしまうのは、他人である俺からしても可哀想に思えてしまう。
だがともかく、ルリの戦力の目安はできた。驚きは、無くはないが、きっと魔法がとても上手いんだろう。そうに違いない。少なくとも嘘は見えないので、ルリ自身はそう認識しているようだ。
それなら俺が心配するのは野暮だ。ルリにならばと話せば、ルリは特に考える素振りも見せず、頷いてくれた。俺の選択に従う、ということなのだろう。
「───ここから歩いて行こうとしたら、次の街まではどれくらいかかりますかね?」
御者の人に言えば、少し驚いた顔をしたあと、特に忠告するようなことも無く、俺達にその距離を教えてくれた。
旅に危険は付き物。軽んじるわけじゃないし、自分が死なないと思っている訳でもないが、それでも城を出る時に、いや、蒼太が死んでしまったあの時に、先に進む覚悟は決めたつもりだ。
その覚悟の元でなら、危険を乗り越えようとするのもまた悪くは無いだろう。
結局のところ危険が迫るのも、早いか遅いかだけの違いなのだから。
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