第10話

 じわじわーっとPVも伸びてきています。そして今回は友情回的な。


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 一つため息をついて、思考を切替える。叶恵に関して色々と考えたいことはあるが、時間も時間で、今日最後の課題に挑まなければいけないところだ。


 俺にとって現在最優先にすべきこと……リーダーを、拓磨を復帰させること。

 そこだけはずっと変わっていないのだ。



 部屋を訪れた時、相も変わらず扉は施錠されていた。しかし、拓磨が起きているのは把握している。


 俺は、その扉をノックした。


 「───なぁ、拓磨。そろそろいいんじゃないか?」


 中に声をかけ、反応を伺う。


 時間は不十分だったかもしれない。だが拓磨の精神的成熟度からいえば、十分な時間だったのも確かだ。


 それでも反応は、返ってこない。


 拓磨の顔も見てないし、声も聞こえない状態じゃ、いつものようにその感情を読むことは出来ない。しかし、状況から、俺が知っている拓磨の性格から、思考から、推測することは出来る。


 今拓磨が何を考え、俺の言葉をどう捉えているのか。

 

 「……慎二は、凄いよな。地球の頃からは考えられないほど強くなってるし、今回だって慎二の力がなかったら俺が間に合わなかったかもしれない」


 俺は息を吐いて、なんの前触れもなく、唐突にそんな話をした。一見して関係ないように思えるが、しかし、今話しているのは現状を拓磨に把握させるためのものだ。


 体を反転させて、その扉に背をつけるようにしながらそれを話す。やはり反応はなくて、俺は見えないと知りながら苦笑いをした。

 なら、続けるだけだ。

 

 「慎二だけじゃない。剣持や槐ちゃん、充に実……あいつらも聞いたところ、平気なんだと。意外と強いんだよな。特に槐ちゃんなんか、この前ゴブリン討伐に行った時も思ったけど、クラスメイトの中でも上の方だと思う」


 女の子の方が心が強いこともある。精神の成熟には性別は関係ないが、特徴として性別差はある。女子の方がショッキングなものには弱いが、中にはそんなことない人間もやはりいる。


 拓磨にとっては、クラスメイトに追い越された形。本来であれば、拓磨が最初にやっていること、やるべきことであるのに。

 そういった部分を、刺激していく。

 

 「クリス……王女様も、俺達のことをよく考えてくれている。お前のことも心配してたぞ」


 クリスは拓磨と話をよくしていた。王女とリーダーで、どこか通ずる部分はあったはずだ。この世界の人間の中で最も交流があったかもしれない。


 扉を後ろ手に叩いて言えば、微かに反応がある。とはいえ、身動ぎ程度のものではあるが。しかし、どこか通じていた部分があるからこそ、思うところもあるはず。


 そんなクリスが、心配している。何も感じないはずがない。


 もう少しだなと、俺は紡ぐ。

 

 「何よりさ───美咲も、樹も、叶恵だって、過程に違いはあれど皆、乗り越えてる。もちろん俺もな」


 この名前を出せば、どうしても反応せざるを得なくなる。

 俺達はいつも五人でいた。俺、樹、叶恵、美咲、そして拓磨。

 親友同士で、全員が結構特殊だが、気が休まる仲。こっちに来てからだって、それは変わっていない。


 気がついたら五人で集まってたり、そうじゃなくても、困った時相談するのはこの五人が一番だ。拓磨にとっても、きっとこの世界で最も信頼し、心休まることが出来る場所。それは俺たちにも言える。


 拓磨が顔を上げた、ような気がした。俺には扉の奥の拓磨の姿は見えていない。どれもこれも、もしかしたら単なる俺の想像かもかもしれない。


 だが……俺は目を瞑って、感情を込めるように言葉を出して行った。

 核心部分に、切り込んでいく。


 「蒼太が死んだのは、悲しいよな。辛いよな。お前が背負った命で、それを早速落としたんだから、その苦しみは計り知れないし、計ろうとも思わない」


 命を背負うという行為。それは普通の人間には到底無理な事だ。だからこそ、適した人間に任せるしかない。


 一人で生きるなら別として、集団で、クラスメイトとして、友人としていつまでも居るには、誰かが背負う責任もある。

 もちろん、拓磨だけが背負えという話じゃない。だが、事実として拓磨の背中には、沢山の命が背負われている。


 そこから一つ、零れ落ちた……拾い上げることは、もう叶わない。ただ見捨てることしか出来ない。

 悲しいし、苦しいし、辛い。


 「けどな……それでもその苦しみを克服しないと、改めて命を背負うことに覚悟を決めないと、蒼太の死はいつまでもネガティブなもののままだ」


 蒼太が死んだことでいいことなんてない。だがそれでも、蒼太が死んで悪い結果だけを残すなんてなるのはダメだ。

 それは絶対に、許されてはならない。


 「拓磨。俺達はそれを乗り越えて見せたぞ。乗り越えて、怖くても次に進むことを決意した。蒼太の死で立ち止まってはいられないと、決めた。美咲は最初から覚悟を決めていて、樹は蒼太の死を割り切って、叶恵は心の支えを見つけて……」


 ……俺は、これ以上誰も死なせまいと立ち上がって、そうして覚悟と決意を見せた。


 「俺達四人、もう平気だ。きっとクラスメイトのために動くことも出来るだろう。なのに拓磨、お前はそんなところで何をやっている?」


 リーダーという立場が辛いのは知っている。それは多分、拓磨の次に、俺が一番理解している。

 拓磨の感じていた恐怖、重責。それが現実になった今、拓磨がその罪悪感から、再び誰かの命を背負う恐怖から、常に前に立たなければならない辛さから立ち直るには、相当苦悩があるだろう。


 取り返しのつかない失敗をすれば、人間はそうなる。


 しかし……。


 「役目から逃げていいのは、逃げることが認められている時だけだ。俺達はもう、自分勝手に立場を変えることは出来ない。こんな時、率先してお前は、皆を束ねなきゃ行けないんじゃないのか」


 誰かが勝手にリーダーになるのも、誰かが勝手にリーダーを辞めるのも、誰かが勝手に死んでしまうのも、今の俺達には許容することが出来ない。

 皆が認め、皆が信頼しているリーダーが、今は必要だ。それは、他の誰でもない。

 

 「皆、お前を待ってる。慎二も、クリスも、他のクラスメイトも、美咲達も……俺も、お前のことを待ってるんだ。だから、言わせてもらうぞ」


 諭すような口調は辞める。ここから先は、説教にも近い、激励。


 「いつまで現実から目を背けているつもりだ。いつまで逃げ続けるつもりだ。いつまで立ち止まっているつもりだ」


 強い口調。責めるような口調。取りようによっては拓磨をただ追い詰めるだけの言葉。

 しかし、拓磨自身の精神自体はそもそも成熟している。この言葉をきっと、正面から受け止められるはずだ。


 だから、続ける。


 「俺が知る城処拓磨は、どんな時でも毅然と皆の前に立つ、リーダーの鑑のような人間のはずだ。そんな人間が……いつまでも俺に、偽りのリーダー〃〃〃〃〃〃〃を押し付けるな」


 語気を強めて、言い放つ。


 拓磨が今こうしているのは、他に自身の代わりになるだろう人間がいるからだ。俺なら出来ると踏んでいたからこそ、責任感のある拓磨は、今こうして塞ぎ込んでいる。自分が居なくても俺がいるから、俺がやってくれるだろうと、放棄してしまっていた。


 しかしそんなものは、逃げでしかない。俺に出来るのは支えることで、代わりを務めることじゃない。そもそも拓磨の代わりは、誰にも務められない。

 今やっているのは、自身の責務から逃げようとしているだけだ。


 勝手にリーダーにされて、けれど拓磨はそれを受け入れた。一度受け入れたなら、最後までやり通すのが筋だ。その程度のことを理解出来ていないなんてことも無いはず。


 酷であっても、俺は親友を辛い道に誘う。辛く、そして成長できる道へと。皆が生き残ることが出来る道へと。


 「リーダーは一人だけでいい。人数の話じゃない。お前という人間以外にリーダーは務まらない。クラスメイト達が必要としているのは、リーダーのお前であって、俺じゃない。これ以上、俺に押し付けて逃げるな」


 そうして逃げ道を塞ぐ。もう、感情には訴えた。拓磨という二限の必要性も、伝えた。


 あとは拓磨自身が、前を向くだけ。


 俺は、扉に背をつけたまま、目を開き、最後に親友として、強く言葉を投げかける。








 「───いい加減目を覚ませ。拓磨俺達のリーダー


 







 時間にして、どれくらい待っただろうか。少なくとも、まだ夜は明けていない。逆に言えば、そう比較を出すぐらいには時間が経っていた。


 ずっと、その場にいた。いつまでも居続けるつもりだった。もう俺ができることはやり終えて、後はもう、待つだけだからと。


 だが、それもこれで終わりだなと、俺は微かに息を吐いた。眠る前で本当に良かったよ。


 一歩、足を踏み出す。背を扉から離し、そうして振り返る。


 「……」


 待ちに望んだ、解錠音。そして、開かれていく扉。


 扉の向こうには、随分とやつれた、しかし吹っ切れたような表情。浮かぶ微笑は、決して先程まで塞ぎ込んでいたような人物には見えないほど清々しく、どこか活き活きとすらしていて。


 そっと、掠れながらも感情の籠った声が、口から出る。


 「……済まない。随分と待たせてしまったな、刀哉」


 浮かんだ表情は、苦笑い。あぁ本当に、本当に待たせてくれたよ。どれだけお前のことが心配で、必要だったと思ってる。俺達には、お前が必要なんだから。


 だから俺は、そんな気持ちを伝えるために、呆れたような笑みをめいいっぱい向けてやる。


 「……ったく、遅いんだよ、馬鹿野郎」


 俺の罵倒を、拓磨は深い笑みで聞き入れた。


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