No.4 刺客

レイドの目には信じられないものが写っていた。

(なんだこいつは?)

レイドは全く意味のわからない状況に整理がつき切れていなかった。レイドの目の前には顔もなく、頭、首の概念もなく肩も含めて全てが繋がっていて、二本の太い関節のない腕のようなものを持った黒い物体がいた。

(ドアをすり抜ける能力だと?まず、こいつは纏によるオーラで創られた幻獣なんじゃねぇのか?つまり、こいつを創り出した能力者がいる!だが…)

レイドが幻獣を観察しながら、頭の中でそのようなことを思考しているとヒメカがその現場に追いつく。

「え?!何あれ??」

「ヒメカ、俺の後ろに下がっていろ!」

レイドがそう指示するとヒメカは素直に頷きレイドの後ろにつく。

そうこうしていると幻獣が自身の二本足を使ってゆっくりと一歩前に出る。

レイドはより警戒を強めてオーラを滾らせる。

「あれってもしかして私を連れ戻すために…」

ヒメカが口を手で押さえながら声を発する。

レイドはヒメカを守るように左腕を伸ばしヒメカを自身の背後に回らせ、右腕を手の甲を上に臨戦態勢の構えを取る。

そして、レイドが右手にオーラを集中させる。

「能力発動“剣の魔法(ソードマジック)”!」

レイドの右掌に燃える炎のような見た目をした短剣が現れる。レイドはその短剣をしっかりと右手で掴んでいる。

(まさか、こんな時にこのクソ能力と父親から受けた英才教育が役立つことになるとはな)

レイドは心の中でそう声を発した。

「剣?」

ヒメカがレイドの能力について首を捻らせて不思議がる。

「俺の能力“剣の魔法(ソードマジック)”は特殊な力、性質を持つ様々な剣を具現化する能力だ。いくつか、制限もある」

(俺が考えに考えて考えついた能力だからな)

「まずは剣は同時に2本までしか具現化させておくことができない」

レイドはそう言いながら剣を頭上に構える。そして、剣からは炎が舞う。レイドは剣を振り下ろす。それと同時に炎が剣から溢れ出て、剣から炎が放出される形で炎が幻獣に対して襲い掛かる。

ボォォォ

炎は勢いよく幻獣に襲い掛かるが幻獣は動き気配がない。ただただ少しずつレイド達との距離を縮めようと近寄ってくる。

炎が幻獣に浴びせられるが、幻獣はびくともしない。炎を浴びながらもそのまま変わらずの様子で前進してくる。

「くっ、2つ目は1本の剣に対して1つの特殊な力、性質が宿っている。3つ目は、この剣は俺の身体に直接触れていない状態だと5秒間しか具現化されている状態を維持できない。つまり、俺が別の剣を出そうと思ったら前の剣を能力として解除し、消そうと思うと5秒かかる。4つ目が、出る剣はランダム性と言うところだ。だから、俺はあの剣が使いたいと思っても自由自在に好きな剣を具現化させることができない」

(全く同時ねぇな。そりゃそうか幻獣だもんな)

レイドは剣から炎を出し幻獣に攻撃し続ける。

「こいつの目的や意図が分からねぇ。だが、ここにピンポイントで来るってことは…」

ヒメカは唇を噛み締める。そして、口を開く。

「多分、私を連れ戻すために私の父が送り込んできたものでしょう」

「まあ、普通じゃありえねぇしそう考えるのが妥当なところだな。だが、こいつの目的がヒメカを連れ戻すことなのか、もしくは別な目的があるのかはまだ完全には分かったわけじゃねぇ」

「??!!」

ヒメカは目を少し見開いて驚く。

(やっぱり幻獣ということもあって感覚器官等があるわけじゃないな。生物タイプじゃなく、あくまで幻獣タイプの能力か)

「ヒメカ、お前の親父さんはこういう幻獣を具現化するタイプの能力だったのか?」

「えーと、それが父の能力は分からなくて…」

「これがヒメカの親父さんの能力じゃない可能性もあるのか…そうなると、この能力の解除方がさらに分からなくなったな」

2人が呑気に会話をしているうちにすぐ目の前にまで幻獣は迫っていた。

「炎から熱を感じて暑いと感じない、つまり感覚はないんだな。だが、普通の物理攻撃はどうだ!」

レイドは思いっきり足で踏み切り、幻獣の目の前に飛び出し、その勢いのまま右脚にオーラを集中させて横蹴りを喰らわせる。

ドガガン

「オラァァ」

レイドは思いっきり身体を捻りヒメカのいない後方に幻獣を蹴り飛ばした。

ドガーーーーン

幻獣は蹴り飛ばされた衝撃で尻餅をつくように転がっている。

「今だ!取り敢えず外に逃げるぞ!」

「うんっ!」

レイドはそう言って左手でヒメカの右手を掴み取る。そして、2人は焦るように玄関まで駆け抜ける。ドアの前でレイドは止まる。

レイドは右手から剣を手放して、右掌をドアに当てる。

「ちっ、早くしろ!あいつが来ちまう!」

レイドは焦るように言う。


この時代のドアは許可のないものが家の中に入れないように完全、纏、指紋、顔認証なのだ。掌をドアの前に翳すと纏と指紋と顔をドアが読み取って許可されている人物だったらドアの開閉を許すシステムになっている。許可されていないイレギュラーな人物を入れる場合は、許可されているものが家に入った後で、そのイレギュラーな許可が取られていない人物が入れるようにシステムに許可を取るように操作しなくてはならない。


ビーーン

ドアが開く。

「よし、空いた!ヒメカ、行くぞ!こっちだ!」

そう言って2人は玄関を駆け抜けていく。2人が走って向かった先はテレポートエレベーターだ。

「取り敢えずここにいちゃ狭くてやりづらい。広い場所に出る」

「でも、他の人達の目とかは…」

「そんなのはあの幻獣をしっかりと対処できてからの話だ。あの幻獣の能力の解除方法が分からなければ永遠にあの変なのに追いかけ回されるんだぞ」

「あぁ」

(こいつ、そこまで考えてなかったのか?)

こう言うやりとりをしているうちに走っているとテレポートエレベーターの入り口に2人は辿り着く。

2人はエレベーターに乗り込む。これも、このマンションの玄関のシステムと一緒で許可登録しているものだけが使え、他の人はその許可されているマンションの住人にシステムを通して許可してもらうしか使用する方法がない。

この纏の能力が蔓延る社会でも空間系の能力は貴重なもので重宝されている。そのため、一家に一台ワープ装置があったりはしない。

レイドは面倒な手間をして、エレベーターをヒメカと2人で利用する。レイドはテレポートする階層に地上1階を選択し、2人をワープさせる。2人は地上1階に着くとすぐさまエレベーターから出て、走り出す。いや、正確に言えばレイドがヒメカを連れて焦るように走り出していると言うべきだろう。

「はぁはぁ」

ヒメカは走りながら息を切らす。その様子をレイドは後ろを振り返って様子を伺う。

「・・・」

ヒメカがレイドに合わせて走っているせいで体力に限界がきていた。レイドはそれを見て動きを止める。

「え、どうしたんですか?まさか、もう!」

ヒメカは振り返る。まだ、幻獣は追いついていない。

「ヒメカの体力がもう限界だと思ってな」

「え、それってもう逃げるのはやめるってことですか?」

「いや、そう意味じゃない。まあ、そのうち逃げるのをやめて打って出てやるつもりではいるが考えがまとまらないから取り敢えずは逃げて時間を稼ぐつもりだ」

「そうですか。え、じゃあ…どうすれば…」

「俺がヒメカを抱えながら逃げる」

「え、それはきついんじゃ…」

「俺をそこら辺の奴らと一緒にするな。しっかりと鍛えてあるからな。…まるで、この時のために俺は今までの人生を捧げてきたようにな」

レイドは少し意味深な表情でそう言った。

「ほら、行くぞ。無駄話してると奴が追いつくかもしれない」

「でも、さっきのやつかなり動きが遅かったですけど」

「…それがフェイクの可能性もある。チャージ時間が必要な代わりに高速移動できる能力を持ってる可能性がある。その場合は少しでも距離が稼げれば対処できる時間が生まれる。そうすれば俺たちが無事な確率は上がる」

「そんなところまで…」

「だからさっさと行くぞ」

そう言ってレイドは左腕でヒメカを横にしてガッチリと抱え込む。そして、オーラを纏直して走り出す。

「レイド、なんであなたはそんなところまで考えるんですか?」

「…1つは性格、もう1つは父親から受けた英才教育のおかげ…いや、その教育のせいか」

「なんでそんな悲観的な言い回しを?」

「この話はあの幻獣をなんとかしたらゆっくり話してやる。お前は感謝するべきなんだな。ヒメカが頼った人物が俺であったことにな。俺じゃなきゃこんな対処はできなかっただろうな」

(図らずともヒメカの能力が俺という個人を引き寄せたんだろうな。俺じゃなきゃあれを対処するのは無理だろうな)

レイドはそんなことを思いながらヒメカを抱えながら走り続ける。

「でも、レイドはあの幻獣を対処できる方法があるですか?さっきの言い方だとあるような言い方でしたが…」

ヒメカは抱え込まれながらレイドに質問を投げかける。

「…これから考えるんだよ」

「え?さっきあんな大見え切ってたのに…」

レイドがあまりにも平然と無策を語ったので、流石にヒメカは動揺した。

「でも、俺じゃなきゃここまで迅速に行動はしてないだろ?そこが他の奴らとの違いだ。後は経験からの能力対しての考察力はそう簡単に他のやつには負けない」

(ほんとに何者なんだろう?私がたまたま選んだんだけど自分でもまだよくわからないことが多い。普通にそこら辺にいる独と一緒なんじゃないの?)

ヒメカはレイドを見つめながら自分の中に疑問を募らせていく。

「ヒメカ、お前のお父さんの能力は本当にわからないのか?お前、ロボットに追いかけられたんだろ?共通点とかないのか?」

「んーー。共通点とかありませんでした」

「チッ、元からの情報はあてにできないか。つまり、自分で考察して試していくしかなのか」

「すみません…」

「いや、お前が謝ることはない。普通は1人につき能力は1〜2個が平均だ。お前の話を聞くとかなりの数の能力を所持してるように見える」

「かなりの数…」

「お前もちゃっかり2つ持ってること忘れるなよ?しかも、超凶悪能力の運命操作能力だからな」

「え、超凶悪能力?」

「まあ、そんなことは置いておいてあの幻獣の能力の解除方法を考えていくぞ」

2人は走りながらあの幻獣の能力の解除方法を模索していた。

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