ぬきたしB面

@takamineyuto

テラんほぉマーズ

奈々瀬「アタシたちも巻きこまれるかもしれないわ! みんな、こっちに――! SSは!?」

美岬「はい、もうすぐそこまで――!」

淳之介「うぉおおおおお孕めぇええええ!」


 バチン―ッ!

ひときわ大きく、何かが爆ぜるような音が響く。

ヒナミ「わっ! びっくりした……。 今の音って……?」

美岬「……淳之介君、無事に帰れたんでしょうか?」

奈々瀬「……美岬、みんなを運べるように準備しておいて。」

麻沙音「…………」

奈々瀬「大丈夫よ、アサちゃん。あなたのお兄さんは強い。 きっと帰ってくるわ。……文乃、わたちゃん、アサちゃんについておいてあげて。 私は、淳の様子を見てくる。」

美岬「そんな! いくら奈々瀬さんでも危険すぎますよ!」

奈々瀬「大丈夫。 絶対に無理はしない。 信じて。」

奈々瀬「……それにアタシ、これでもこのチームの斥候なのよ?」


 ガチャリ――っ

一度は離れた最上階の扉を恐る恐る開ける。

みんなの前では強がってみたものの、巻き込まれたら帰れる保証なんてない。

 それでも……

淳之介「――俺はこの島で、一番最初にお前と出会った橘淳之介なんだ」

淳之介「俺は、お前のおかげでこうなれた。 俺は、お前がいたから自分を取り戻せた」

淳之介「俺は――……お前によって、心救われた。 すべては――お前のおかげだよ、奈々瀬」

もし……本当に、アタシがいることで橘君が変われるのなら……

あの笑顔を浮かべられるのなら……

淳之介「奈々瀬……この世界の俺を頼んだ。根暗そうだったら、一発ぶん殴って

目を覚ましてやれ。お前の言うことを一番聞くはずだから」

言われなくとも……今度こそ彼を助けるのは、私の役目だと――

奈々瀬「――っ! 橘君・・っ!」


淳之介「っつぅ…。 ……ここ、は?」

おかしい。 俺はさっきまで自分の部屋で……麻沙音と暮らすあの家で寝ていたはず……

だが、ここは……SHO本社ビル……か?

淳之介「……奈々、瀬?」

何かがおかしい。

何故、俺は奈々瀬を見上げるように……膝枕で眠っていたのか…

記憶に齟齬が生じるこの感覚を…俺は……知っている。

淳之介「――っ!! ここは、どこだっ!答えろ、片桐・・!」

瞬間、理解する。 再びこの”青藍島ディストピア”に戻ってきたのだと――

片桐「橘君、落ち着いてっ!」

淳之介「これが落ち着いていられるか! 桐香は…郁子は…礼はどうした! 何故俺たちが倒れていて、トリ公であるお前は無事なんだ! どういうことだ!!」

最悪の事態が頭をよぎり、咄嗟に身体を跳ね上げ、身構え――

 パンッ―!

乾いた音。 遅れて平手で叩かれたのだと理解する。

片桐「しっかりしろ!橘淳之介!!」

片桐「アンタが……もう一人のアンタが全部片づけて行ったのよ。 ……もう、性帝なんてマネ……しなくてもいいの。」

片桐「だから……ね、橘君。……おかえりなさい。」

彼女は―片桐は泣きながらそう言った


淳之介「――本当か……? 本当に……もう一人の俺が……」

郁子「ホントだよ、淳之介くん。」

淳之介「――っ!?」

桐香「えぇ、先輩。これから様々な問題も残されてはいますが、少なくともあなたがSSに所属する必要は…麻沙音さんの身の安全を案じる必要は、恐らくなくなると思います。」

郁子「さっすがダーリンだよね♡ 帰ったらご褒美にエッチしてもらっちゃおっと」

礼「呑気に話をしてる場合じゃないでしょう桐香様!? 郁子まで! それより、私たちはどうやったら帰れるんですか!?」

桐香「あら、礼? 大丈夫よ。」

郁子「そーだよ、礼ちゃん。 ダーリンと離れてたからちょこっと時間がずれちゃったみたいだけど、ちゃんとあたしたちも帰れるよ」

桐香「ちゃんと、向こうの私たちの意識を感じるでしょう? このままもうしばらくすれば、私たちも元に戻れるはずよ、礼」

礼「桐香様がそう仰るのなら……。 まったく淳之介のやつ…肝心な時にわたしたちを忘れおって……ぶつぶつ」


桐香「それよりも……先輩。 私たちは、あなたに謝らなくてはなりません。」

淳之介「謝る……?」

郁子「イクたちを、性帝のおちんちんで従えてたでしょ? それってつまり、淳之介くんにエッチさせたってことじゃない?」

桐香「そのこともですが、麻沙音さんを守る為にあなたに犠牲を強いてしまったこと。こちらの私がしたこととはいえ――」

淳之介「従えた……? 待ってくれ、少し誤解があるようだ。」

桐香「誤解……ですか?」

淳之介「あぁ、まず、お前たち……BIG3を従えてたと言ったな?」

礼「あぁ……思い出したくないことではあるが、私たち全員がその夢、記憶は共有している。」

郁子「イクたちみーんな、性帝のおちんちんにメロメロになってたよね。」

淳之介「それは誤解だよ。 あれは……俺を性帝として『守る』ためのビデオだったんだ。」

桐香「守る……ですか?」

淳之介「あぁ……。桐香、お前の発案なんだ。 こっちのお前は、麻沙音だけでなくドスケベを忌避する俺を守ろうとしたんだよ」

淳之介「そのためには、ドスケベから身を守る鎧が必要だった。」

桐香「――あのビデオを流し、同時に橘淳之介はとてつもないドスケベを身に着けた、まさに『性帝』と呼ぶほどの傑物だと……そう喧伝した?」

淳之介「あぁ……奇しくも『ビッチ』の称号を欲しいままに、実際は反交尾勢力の一員である片桐と同じ鎧を身に纏うことで、俺はドスケベから守られていたんだ」

 そして、こちらのSSの影響力はSHOにも匹敵するほどであり、その中でもトップに君臨するBIG3がたった一人の男によがり狂う構図はとてつもない力を持っていた。

同時にBIG3だからこそ……真に信頼を置ける3人で共謀し共有することで、やがて『性帝』は独り歩きをはじめ、見事に俺を守ってくれていた


仁浦「なるほど……ドスケベ法を奨めるべきSSが、ドスケベから身を守る盾になろうとした。その為に上層組織であるSHOに対抗しうるだけの力を欲した、ということか――若いな」

淳之介「いいや……それは違う。桐香はこの島を愛していた。ここに住むみんなにも同じようにこの島を好きになって欲しいと願っていた。」

淳之介「アンタが作った不完全な……マイノリティーを排除した法律を変えたいと……

秋野や麻沙音のようなマイノリティーにとっても住みやすい、真のユートピアを目指そうとしていたんだ。それは決して私欲や特定の誰かのためなんかじゃない」

仁浦「では問おう、少年。そのようなことが可能だと思っているのか?可能だとして、その方法は?」

淳之介「俺は、俺と入れ替わり、もう一つの世界を見てきた。そしてそこでは、今はまだ不完全ではあるが、共存の道を模索していた……」

淳之介「あっちの世界で出来ることが、こちらで不可能だとは思わない。そして、完全なる相互理解などというのは絵空事かも知れない。」

淳之介「それでも――お互いに理解する努力をすることは出来る」

秋野「――!!」

時間はかかるかも知れない。或いは理解することなんて出来ないかも知れない。

それでも、許容することは出来ると思うのだ。

ただ存在を許容することで彼女たちの居場所が出来るのなら、そのための努力をするべきだと思う

淳之介「俺には具体的な方法も、どれだけの困難が待ち受けるのかもわからない……ただ――これを」

ポケットから取り出したのは封筒。 もっとも、俺自身が用意したワケではなく気づけばあったもの

 そう、恐らくはあちらの俺がこの世界に伝えたいことを書き留めたものなのだろうと…確信していた。


畔「橘さーーーん!」

空から…アチラの世界で聞きなれた畔の声が聞こえる―

あぁ……これで……きっと大丈夫だ。

アサちゃんが安心して暮らせる島になる……

俺が……必死に戦って、もがいて望んで……手に入れられなかった世界が、ようやく――

片桐「ちょっ――!?橘君!? 橘君っ!!」

…………

……

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