四章 「仲が深まって」
優しさという魔法には、人を幸せにする力がある。
それは相手のことを自分のこと以上に思った時に生まれる。
あなたの言葉が魔法にかかる。
「今日は水曜日だよ。講義楽しみだね」
そんなメールが朝から送られてくる。
毎週水曜日の四限目は、君との楽しい時間を過ごした。
鳥たちが囁いているかのように僕たちは密かに話し合った。
僕がノートに絵を描いたのを見せて二人で笑い合ったりしたし、君が教科書を忘れて二人で一つの教科書を見ることもあった。
ある日、手と手が触れ合う時があった。それは本当に偶然のことだったけど、必然であったかのように思えた。君の細くて白い手は予想よりずっと冷たくて、君の小さくて細い体を表しているようで抱きしめたくなった。
そんな風に一日を過ごすと、もっと君と楽しい時間を過ごしたいと思う気持ちが大きくなってきた。
いつものように四限目が終わり帰ろうとしたとき、「一ノ瀬くん、今日はこの後予定ないなら、一緒に帰らない?」と君が聞いてきた。
どこまでも控えめで透き通ったきれいな声は、聞いていてほっとすることができる。これも君の才能な気がする。
僕は、「うん」だけ答えた。
「一ノ瀬くんは心が綺麗だよね」
君は突然そんなことを話しだした。
「そう?」
「そうだよ。いつもあったかい気持ちになる」
それはいつも僕が君に感じている気持ちだった。
僕は自分のことをそんな風に感じたことはなかった。
もし少しでも君と一緒な部分があるなら、それは嬉しかった。
帰り際、僕は勇気を出して言った。
「一条さんがよければ、予定がない日はこうやって毎日一緒に帰らない?」
「いいよ。私も今同じこと考えてた」ととびきりの笑顔を僕に見せてくれた。
いつも僕に合わせるような返事をしてくれる。返事の仕方一つとっても君は常に相手のことを考えているのがわかる。そんなところが僕は好きだった。
それから僕たちは会う回数を重ねていった。
会うのはいつも講義が終わった後だった。
僕と君だけの秘密の時間のようだった。
会うたびに君を知り、親しくなっていった。
僕は君のことを名前のさくらさんと呼ぶようになり、君は僕のことを理央くんと呼ぶようになった。
そんな小さな変化が、僕には嬉しくてついつい顔が緩んでしまう日々だった。
今までずっと遠くから君を見つめていたが、今はそばにいることができる。それが嬉しかった。
僕は君のためだったらなんだってできると思えた。
たまにどこか遠くを見つめている時が君にはあったが、僕はそれほど気にしなかった。
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