二章「出会う」
風が冷たく感じ始める。秋の少し寂しいような風が心を冷やしていく。これからただ寒くなっていくのだろうなあと少し気分も落ちてくる。金木犀の香りもする。
そんな日は君に会いたくなる。体の冷たさを心で温めて欲しいのだろうか。
朝届く君からのメールで、僕は君とデートに行く空想をする。一通のメールでそれだけ心が躍るのだ。
大学では春翔(はると)がすでに掲示板前で待っていた。
春翔とは、大学で知り合い話しが合うので友達になった人だ。
話しかけやすい温かい雰囲気を持ったやつだ。
人には温かさがあると僕は思っている。そんな人の温かさを敏感に感じ取る僕だから、この人はいい人だということを察知することが僕にはできる。
大学では掲示板前に人が集まっていて、みんなが最新情報を見ていた。たいていの人は休講情報の掲示板を見ている。
春翔は、人が多いのを嫌そうな態度を示さず僕が手を振ると、笑顔でこっちにきてくれた。
まじめそうな整った綺麗な顔から、子犬のように可愛い笑顔をする。女の子が見たらそのギャップに喜ぶだろう。
「理央(りお)、今日は二限目休講だって。知ってた?」
「知らなかった。じゃあ食堂で話でもしておく?」
僕は嘘をついた。
小さな嘘かもしれないが、僕の中では大きなことだ。
できることなら嘘はつきたくない。なんだか自分が汚れてしまう気がするから。
それでも僕と君との関係をまだ誰かに言う気が起きないので、また嘘をついてしまった。
後悔はいつもしている。
小さな嘘も合わさっていけば大きな嘘になる。大きな嘘で何かを失うことになるかもしれない。
僕は深呼吸をした。
「今日のご飯何食べる?大盛りのAランチ?それとも種類が多いBランチ?」
「今日はBランチの気分かな」と今度はちゃんと返事することができた。
美味しそうな匂いがして来た。まだ昼食時間には早いが、食堂にいるとなんだかお腹がすいてくる。
僕が通っている大学は、食堂のメニューが豊富で安くて美味しいことも人気だ。
それを一つの目的に決めて、大学を選ぶ人までいる。さらにかなり開放的な学風なので近所の人もはいってくることができる。だから別大学の学生やサラリーマンがお昼を食べに大学に来ることもある。
僕もそこを楽しみに決めたのもある。大学選びなんて将来のことをあまり考えていない人がほとんどだ。僕は食べることが好きだ。体が小さいからあまり量は食べれないが、食べること自体は好きだ。
でも一番は、君と同じ大学だからだ。
高校の時、君がこっそり教えてくれたのだ。僕たちは高校も同じところだった。ずっと同じところにいることが運命を感じる。僕と君は運命の赤い糸で結ばれていたらいいなと乙女チックなことを想像したりする。僕は考え方が女の子っぽいのだと思う。僕が同じ大学を目指すと言ったら「頑張ってね」と応援してくれた。
自分のことより相手のことを考えられるのはすごく尊いことだと思う。
ふと食堂から外の景色を見ると、たまたま君が歩いているのが見えた。
長い茶色の髪は、風を受けてきらきらと揺れている。君の明るい髪の色も好きだ。
君も僕に気づき、手を軽くあげてくれた。
胸がドキッと音を立てた。
これだけのことなのに、僕はなんて幸せな瞬間に居合すことができたのかと思った。
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