ダブルブッキング

話しは、その日の正午に5分前のことであった。


ところ変わって、中央町にある5階建てのテナントビルにて…


テナントビルの3階に英彦の出向先のオフィスがある。


英彦は、ゆうべの出来事なんか気にせずにいつも通りにデスクワークをこなした。


ワープロを打つ仕事がひといきついた英彦のもとに、課長さんがヘラヘラしたツラでワープロの原稿を持って来た。


「(言いにくい声で)ああ、荻楚くん。」

「(ムッとした声で)なんでしょうか!?」

「(言いにくい声で)ああ、午後からでかまんけん…これ…打ってくれるかなぁ~」


課長さんは、デスクの上にワープロの原稿を置いた。


英彦は、なにも言わずにワープロの原稿を受け取った。


ワープロの原稿は、取引先の卸問屋さまに送るゴルフコンペの案内書である。


課長さんは、ヘラヘラしたツラで英彦に言うた。


「(ヘラヘラした声で)荻楚くん…ねえ荻楚くん…」

「(怒った声で)課長!!なれなれしい声で言わないでください!!」

「(困った声で)なに怒っとんねん~」

「(怒った声で)部下に小うるさく言うてめえが勤務態度が悪いことに気がつけよボケ!!」

「(困った声で)なんでそないに怒るねん…ワシは急な出向で荻楚くんにすまんことしたけんあやまっているのだよ…」

「(ますます怒る)それが人にあやまる態度か!?」

「(女々しい声で)ほな、どないしたらこらえてくれるんで…(総合商社)にいた時に社内恋愛を実らせて、カノジョと結婚する予定をぶち壊したことについては『ごめんね』とあやまったよ…ワシはワープロが使えんのや…他の従業員さんたちもワープロパソコンがゼンゼン使えんのだよ…ほやけんワープロ検定1級とワードエクセル1級の資格を持っている荻楚くんに頼んだんや…」


(ジリリリリリリリリリ…)


この時、正午を告げるベルが鳴り響いた。


英彦は、タイムレコーダーの時計が12時1分になったのを見て外出時間をタイムカードに打刻した。


そして、青いキャリーに入っている仕出し弁当を持って外へ出て行った。


(バーン!!)


その際に、英彦は入り口のドアを激しくしめた。


イカクされた課長さんは、女々しい表情でドアの方を見つめていた。


またところ変わって、たつろうさんの実家の近くにある印刷工場にて…


いつもうちでお弁当を食べていた将之は、この日は工場のすみで弁当を食べていた。


その時に、和子が魔法びんと湯のみ急須と茶葉が入っている赤いつつを持ってきた。


「将之さん。」

「和子ちゃん。」

「ここで食べよったん?」

「ああ…おにいがおるところにおったらしんどいねん。」

「ごめんね…おにいは、仕事がうまいことゆかんけんイライラしよんよ。」

「そう…」

「お茶入れるね。」


和子は、お茶を煎れる(いれる)準備を始めた。


将之がのむお茶を煎れ(いれ)ている和子は、将之に言うた。


「将之さんは、ここへきて何年になるん?」

「20年…中学の卒業式を終えたあとすぐにクニを出た。」

「高校に行かなんだのね。」

「ああ。」

「クニはどこ?」

「クニ…そんなんねえよ。」

「どうしてなの?」

「オヤジの酒のせいでクニ棄てた(すてた)。」

「そう…」


和子は、いれたてのお茶を将之に差し出した。


将之は、なにも言わずにお茶をのんだ。


この時、和子は一目で将之を好きになった。


将之も、和子を好きになった。


この日から、ふたりは結婚することを念頭にしたお付き合いを始めた。


(前章・前フシのたつろうさんが住んでる地区の表記について・たつろうさんは実家と離れている…松山市で暮らしている嫁はんと不仲なので、事実上別居中である…そのために、たつろうさんはもといた地区の実家で暮らしていると言うことである…小関の家にムコヨウシに入っているが、血をわけたおやきょうだいであることに変わりはない…)

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