それぞれの北国

時は、日本時間12月5日午前11時過ぎのことであった。


場所は、尾鷲市北浦町の県道にて…


この日は、ゆりことあつろうの挙式披露宴の日である。


文金高島田の花嫁衣装姿のゆりこと黒の紋付き墓参り姿のあつろうは、黒のニッサンセドリックのタクシーに乗って尾鷲神社へ向かっていた。


タクシーの周りで、地元の青年会の人たちによる昔ながらの花嫁行列が行われている。


その時であった。


婚礼行列の前にグレーのホンダアコードが立ちふさがった。


立ちふさがった車の中からけんちゃんが飛び出した。


けんちゃんは、ワーッとさけびながらタクシーに体当たりした。


「ゆりこちゃん!!ゆりこちゃん!!」


ブチ切れたあつろうは、タクシーから降りてすぐにけんちゃんに殴りかかった。


「このやろう!!ぶっ殺してやる!!」


あつろうは、けんちゃんの頭をタクシーのボディにたたきつけたあとボコボコになるまで殴りつけた。


端にいた運転手が車から降りて止めに入った。


しかし、あつろうは止めに入った運転手をボコボコに殴りつけた。


あつろうは、止めに入った青年会の男性数人にもケガを負わせた。


花嫁衣装姿のゆりこは『もうイヤ!!』と叫んだあと、タクシーから逃げ出した。


あつろうを止めに入った運転手が死亡した。


けんちゃんは、頭と顔に50針縫う大ケガを負った。


あつろうは、殺人と傷害の容疑でケーサツに逮捕された。


けんちゃんは、救急車で尾鷲市内の病院に搬送されたあと、ケガの手当を受けている。


あつろうは、昼前の事件に加えて4年前に紀伊長島町で発生した一家強盗殺人事件で強盗殺人容疑で再逮捕された。


他にも、数件の凶悪事件で再逮捕の件数が増えるので、あつろうは永久に家に帰ることができなくなった。


その日の夕方5時頃であった。


たつろうさんの実家に仲人夫婦がやって来た。


実家の大広間でゆりこと政子六郎夫婦と仲人夫婦の5人が話し合いをしていたが、ゆりこが一方的に拒否したので話し合いがこじれた。


政子六郎夫婦は、六郎のオイゴ(30歳・総合商社勤務)と結婚できるように手はずを整えるからとゆりこに提示した。


しかし、ゆりこは『イヤ!!断る!!』と言うて一方的に拒否したので話し合いがこじれた。


仲人夫婦は、おたついた声でゆりこに拒否する理由を聞いてみた。


「どうして一方的に拒否するのかなぁ~(六郎のオイゴ)さんのどういうところがいかんのかなぁ~」

「イヤなものはイヤよ!!ゆりこがイヤといよんのになんで受け入れないのよ!!」

「(あつかましい声で)イヤと言うのであれば、一度顔を合わせてからでもいいのではないかなぁ~」

「はぐいたらしいジジイね!!あんたらはゆりこにどーしてほしいのよ!!」

「どうしてほしいって…ゆりこさんに幸せになってほしいから仲人を引き受けたのだよぅ~」

「キーッ!!もう怒ったわよ!!ぶっ殺してやる!!」


ゆりこは、右足で仲人夫婦と六郎を激しくけとばしたけとばしたあと、家から飛び出した。


(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)


多賀家から飛び出したゆりこは、ボストンバッグを持って名古屋行きの特急南紀に乗って尾鷲から逃げ出した。


ゆりこは、ぼんやりとした表情で窓に映る夜の風景を見つめながらつぶやいた。


ゆりこ…


ホンマを言うたら…


よーくんと結婚がしたい…


よーくんのお嫁さんになりたかった…


でも…


実現できないかもしれない…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る