ティンボコ山攻略戦
「なんか──『死にたい』そう思ったら、まずはこの小説を読んでみようぜ」
「どうしたのさ、急に」
土居さんがキノコ狩りで迷ったあの例のティンボコ山にて、ライデンが話を切り出す。
「なるほど。これは悩んで孤独に自殺してしまう世の中の方に向けた啓発メッセージですねぇ。深い」
「まぁこれに関しては私も賛同するかな。死にたくなったら、色んな作家様の小説読んで元気出そうよ。──個人的には『月刊少女野崎くん』が面白いからおすすめだねー」
「それ漫画じゃねぇか」
「てへぺろ(´>ω∂`)☆」
「サユキのボケって──気持ち悪いですねぇ」
「あんだとゴルァ!!!」
六話目にして、ようやくマシなメッセージを読者様にお伝えすることが出来た。その事実だけで、三人は満足している。
「いいえ、とにかく鬱になったら『深夜テンションとは偉大なものであるなぁ戦記』だけを読むのですよ!!」
「露骨な宣伝!?」
マイキーは思いのほか郷土愛が強いのだった。
「つーか深夜テンションとは偉大なものであるなぁ戦記なんか、深夜テンションとは偉大なものであるなぁ戦記内でしか通用しない常識が多すぎんだよ! この間、深夜テンションとは偉大なものであるなぁ戦記の読者様にも深夜テンションとは偉大なものであるなぁ戦記は頭おかしいって言われた深夜テンションとは偉大なものであ」
「やかましいわ! 指示語使え指示語!」
「結論から言うと、ティンボコ山は制圧寸前です」
「あ」
必死の文字数稼ぎに嫌気がさしたのか、マイキーは任務の終わりが近いことをカミングアウトした。
「まぁ前回来てるし。余裕だよね」
忘れがちな設定なのだが、こいつら三人はめちゃくちゃ強い。少なくとも天下一武道会のヤ〇チャよりは戦闘力が高いはずだ。
むしろ強くなければ、彼らの存在価値は皆無になってしまうだろう。真っ当な倫理観と道徳心を失っている彼らだからこそ、常識外れの強さを実現できているのかもしれないが。
「では折角の機会ですし、蜂蜜を股間に塗りたくりませんか?」
「またそれか! いい加減飽きたわボケ!!」
「飽きるとかあるんだ……」
『ドン!』
デジャブである。再び、黙れドン太郎を彷彿とさせる効果音が辺りに轟く。
「もうモンスターはほとんど倒したはずなんですけどねぇ……?」
「残党か?」
『モンスタァァァァァ!!』
「うわこいつ喋った!」
「いやサルは『サルゥゥゥゥゥ!!』とは叫ばねえよ!」
「なんだその絶妙なツッコ──危なっ!!」
わちゃわちゃしている間に、八つの頭にドラゴンのような青色の硬い皮膚、ガッチリとした頭が印象的なモンスターが、なんか叫びながら炎を吐いてきていた。
少し反応が遅れたサユキを、ライデンは腕を掴んで助ける。
「あ、ありが──」
「モタモタするんじゃねぇ──!」
休む間もなく降りかかる絶炎。火炎球が着地した衝撃で、地面は穴だらけになっていた。
大きい翼を完全に畳んで永遠と動かずに攻撃してくるあたりは、さすがはウィザードのパクリキャラだ──とマイキーは感想を持つ。
「一々メタ話にしないと展開されねぇのかこの小説は!?」
「下ネタが少ない分、身体がどうしてもメタを欲しがるんですよ」
「意味わからんわ!」
二人が掛け合いしている隙に、サユキはドラゴンの姿を凝視していた。
「あのモンスターは──『アルシャメンデス』! どれどれ……?」
◎アルシャメンデス 火属性
HP 二億 固有スキル:『サラマンダー召喚』『アトマスファイア』『強者の咆哮』『無限回復』『俺、ふわふわバニラで高収入!』『
ゲーム序盤のティンボコ山で出てくるボスキャラ。倒すと竜の爪を確定ドロップ。稀に
スキルがとても手強く、特殊能力無効化持ちは必須となる。特に防御が固く、倒すことは到底難しい。だが攻撃の間隔が長いので、隙を見計らって攻撃を与えることが出来る。まぁ頑張れ。
「ゲーム攻略本!?」
「まぁ、スキルも開示されたことですし。我々も本気を出しましょうか」
「ゴミみてぇなスキルだらけだったが……そうだな。やっちまおうぜ」
マイキーとライデンは攻略本の内容に軽く目を通した後、二人でアルシャメンデスの元へ駆け出した。勇者の戦意を受け取ったモンスターは、さらにテンションが上がる。
『モンスタァァァァァァァァ!!』
「速攻魔法!」
マイキーは、両手を重ねて、アルシャメンデスの方へと突き出した。その間、ライデンは更に前進する。
「ちょっと、二人ともー! 私の見せ場が無くなるじゃない!」
「それはまた今度ですよ! とにかく今は、僕とライちゃんの評価を爆上げするのです!」
「評価は上げるものじゃなく上がるものなんですけど!?」
サユキの訴えも虚しく、アルシャメンデスは炎の威力を強める。それらを上手く避けながら、マイキーは叫んだ。
「硬化魔法!『Translating is the grass』!」
詠唱すると同時に、アルシャメンデスの脚がみるみるM字へと開いていった。
炎を出すことも忘れ、そのモンスターは青い顔を赤らめる。
「これは……?」
「おお、来ていたのですか、土居さん。これは、相手をM字開脚させることで羞恥心を爆発させる作戦です。読者様もエロを求めている頃合でしょうし、我ながら完璧な出来だ」
「なるほど♡」
「いや違うでしょ!? ドラゴンのM字開脚なんかどこにも需要ないよ! あるとしてもニッチすぎる!!」
「単なる遊び心ですよ。最後は、あの男が仕留めますしね」
マイキーとサユキ、そして土居さんは最前線の方を見やる。
すると、M字開脚で動けないアルシャメンデスに詰め寄るライデンの姿があった。
「──泣かせてやるぜ」
ライデンは燃え上がるような闘志を秘めていた。言い忘れていたが、今のライデンとマイキーはさすがに服を着ているぞ!
「お助けサンキュー、マイキー!」
そう言って、ゴリラは大空へと舞い上がった。
えげつない跳躍力と共に、彼の理不尽な拳がヤツに向かっていく!!
『モンスタァァァ……!』
「『ライク・ア・キンタマ』!!」
黄金の輝きがアルシャメンデスを包んだ。そして、握り締めたライデンの拳が八つの頭へとぶち刺さっていく。
『モンスタァァァァァ……』
大地を揺るがす力。情熱の黄金はドラゴンの頭を真っ二つに割っていく。
人智を超えた力。気を失ったティンボコ山のボスは、地に突っ伏した。
それを見て、サユキは感嘆の声を漏らした。
「……おぉ」
「うむ。さすがライちゃんだ」
これだから、彼らと冒険するのは止められない──と、マイキーはいい感じの雰囲気で幕を閉じることに決めたのであった。
「よし、土居さんを救った報酬とモンスター討伐の賞金を使って、みんなで高級ソープにでも行きましょうか!」
「最後まで抜け目ないな! お前らだけで行ってろ!!」
マイキーは嬉しそうにどこかへと消えていった。
結局、ティンボコ山はアルシャメンデスとその配下が消えたことにより、安全にキノコ狩りが行えるようになったんだとか。
土居さんは三人に感謝をし、いつか必ず恩返しをすることを誓った。
「なぁ、マイキーの野郎はマジで高級ソープに行ったのか?」
「……私に聞かないで」
サユキは目を背けた。とにかく、早く家に帰りたかった。
【出だしは好調ですねぇ編】これにて閉幕。
次話より【お〇んぽサバイバル編】開幕!
乞うご期待──!
「みなさんのレビューや応援が何よりの継続材料です。僕たちは、そんなあなたと共に歩んでいきたい……!!」
「どこへだよ」
「地獄じゃね?」
「ソープランドですけどなにか」
「最後のセリフまで汚い……」
いつも、応援をありがとうございます!!
これからもよろしくお願いします。
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