パシェニャとクイルスルグ地獄 1
「喫茶部の新メニューが出来たらしいのよ!」
「そうなのか。行ってみよう」
といういことで、パシェニャとアキラの二人は新メニュー『養殖アナゴ蒲焼き丼(大盛り)』を食べている。
『喫茶部』に似つかわしくないメニューだったが……
「うまいわ!」
「うまいな。ちょっと高いけど」
「アナゴというと、だいたいがレッサー養殖ウナギじゃない? ウナギッシュさを追い求めて、決して追いつけないっていうイメージで」
「うん?」
「だけれど、このアナゴ丼はウナギッシュさを重視せず、アナゴ独自の道を行っている味だわ!」
「わからんでもないけど、ウナギッシュ? 変な用語作っちゃったな」
「そういえば、養殖ってスゴイ勢いで増えるのよね」
「ちょっと勘違いしてないか?」
「そうかしら。だって大抵の魚卵って五〇〇粒はあるイメージなんだけど」
「言われてみればそうだな。全部孵化したら凄そう」
そこでパシェニャの端末が鳴った。
タイしたもんかよスズキはん♪
「『御魚ぱらいそ』か」
「あくまで架空の音楽だから問題ないわ!」
パシェニャはどうでもいいことを言った。
「さて、依頼は」
要件:肉塊の処分
依頼者:トンネル管理オジサン
依頼内容:
なぞの肉塊が現れて困っています。
何週前かに、突然雨水トンネルに「肉の塊」としか形容できないものが現れました。ぶよぶよしていて、ぐにゃぐにゃしていて、脈打っています。
それ自体に害は無いようなのですが、徐々に膨らんできています。
肉塊は重くて動かせません。問題になっているのは、このままでは水路が詰まってしまうかもしれないというところです。どうか排除をお願いします。
報酬金は――(以下略)
「肉塊って何かしら美味しそう」
「そうかな。ぼくはグロテスクなのを想像したけど」
「なにはともあれ、依頼者に会ってみましょう。バーベーキューセットを忘れずに」
「食べる気なのか……」
依頼者であるトンネル管理人にメールで連絡を入れた。返信では、まず、そのマンホールの位置を世間にバラさないことを約束させられた。
それから、ある町外れの空き地で会うことになった。
廃墟と思しき建物の中に、その地下への入口があった。
「なんだこの階段は!?」
「どうということもない階段じゃないか」
「せっかくだから、わたしはこの鉄の扉を選ぶわ!」
「選ぶも何も、扉は一つしかないぞ?」
体育倉庫のような扉を開けた。
「ウェゥカムトザァンダーグラウン!」
変なオジサンが現れた。
「そうです、わたすが、依頼者のトンネル管理オジサンです」
「よろしく、わたしはパシェニャ」「こちらもよろしく、アキラです」
依頼者が、つっこみは無しか……とつぶやくのをアキラは聞いた。
「こちらがわの通路をまっすぐ行ったところに現れがちです」
「つまり……どういうことなのよ?」「現れがちとは?」
「やつは――肉塊は、ときおり短距離をテレポートするようなのです」
「へ……?」「テレポート?」
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