魔物狩りの相棒とはもめ事が絶えない

みりお

相棒は情緒不安定

第1話

 心拍数が上がるのを感じる。


 いつもならこんな事は起こらないのだが、相棒が変わってから間もないからだろうか、不仲な相棒と運命を共にする覚悟が無いまま命の危険が迫っていた。


 残り3発で敵を3体倒す、ミスれば2人の命は無いだろう。


 全ての敵をこの地上から消し去って見せる、故郷を解放するために。


 片膝をついてスコープを覗きライフルを岩の上で固定し構える。輪郭のぼやけた人の形をしたピンク色の光、宙に浮き素早く動く…… まるで鳥のように。それは着物を着た巫女の姿に見え、カーボンコピーの様に増殖しどれも同じに見えたので写巫女うつしみこと言われていた。


「オッサン! 早くしてよね」


 ライフルを構えている俺の背中で美少女が棘のある声で言った、彼女は俺のレンジャーグリーンの戦闘服を着た背中にぴったりとくっ付き、小さい胸が当るのを感じるが全然嬉しくない。少女の体温が背中に伝わり、湿り気のある息が自分の首筋にかかる。


「じっとしててくれ、狙えないだろ!」


 俺は街の高台にある神社の境内から狙いを定めていた。距離は300メートル、どんどん迫って来る標的に焦りを感じる。


「早く送ってくれ!」


 俺は彼女を急がせた。


「いくよ」


 少女の意識が自分の脳内に入って来る、人と人が繋がる感覚。その瞬間、高熱で寝込んでいるかのような体のだるさと思考能力の低下を感じるが2人の時間が高速になり、周りがスローモーションに見える。


 彼女の能力を借り、その力を俺が代行者として行使する。 


 俺はトリガーに指を掛け引き絞った。


 激しい反動で放たれた弾丸は彼女の力を纏い赤く輝き、ピンクの人影に当たり目標は吹き飛んだ。


 次、右…… 自分の脳内で少女が話す、声が聞こえると言うかそんな意識を感じる。


 すぐさま次の標的をスコープで捉え撃つ。彼女の力で止まっているように見える敵、倒すのは容易だ。


 残り1体を見失い、俺はスコープを覗くのを辞め肉眼で敵影を探す。


 直上…… 少女の声が脳内で木霊し、彼女の恐怖も送られて来て俺の体が強張り動きが鈍る。


 夕焼け空を見上げると距離20メートルの頭上に鬼の形相をした女の人影が迫る。


 ライフルを持ち上げている暇は無い、俺は立ち膝の体勢で素早くもものホルスターからハンドガンを抜き、銃口の手前まで接近して来たピンク色に光る女を打ち抜いた。


「終わった……」


 俺はホッとして呟き、少女の意識が剥がれるのを感じた…… が、背中に彼女が張り付いたまま上体を起こし、真上の敵を処理した為バランスを崩して背中側に倒れこみ、自分の体と地面の間に彼女を挟んで押しつぶした。


「ぐっ! いったいなぁーっ」


 背後を振り返ると彼女はいつも通りの不満げな表情で口を尖らせ、早くどけろと言わんばかりに俺の背中を手のひらで強く押し返して来た。


わりいな」


 俺はすぐさま起き上がり彼女に手を差し出す。


「お前がビビらなきゃ、こっちも素早く動けたんだがな」


 地面に寝ころんでいる彼女は短めのスカートがまくれ上がり白い太ももが露わになっていてもう少しで下着が見えそうで、悲しい男のさがなのかつい眺めてしまった。


「いやらしい目で見ないでよ! まだ繋がってるから分かるんだから!」


 チェック柄のプリーツスカートを咄嗟に手で押さえながら上半身を起こして俺を睨む美少女。ノースリーブの白いシャツ、肩にはフリルがひらひらと縫い付けられていて、とても戦う現場に居る恰好では無かった。


 互いに意識を重ねると、剥がれても少しの間残像として相手の気持ちや視界が残り、意図せずこのような事がおきる。


 この小生意気な少女、岬羽衣みさきうい16歳、最凶最悪な俺のパートナーだ。


「何でアタシがこんなオッサンと組まなきゃいけないのよ! 最悪なんだけど」

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