第17話


アイシャとエリンを二人で残していくのは少し不安ではあったけど仕方ないと割り切って最終試験の説明を受けに来た。


最初のおどおどした印象とは違って、エリンという少女は思いの外明るく会話のしやすいタイプだったようで、見た感じエリンからの質問をアイシャが返していくという形ではあったけど、しっかりと会話のキャッチボールはできていたから問題はないだろう…多分。


「すみません、最終試験の説明を受けたいんですけど…」


「あ、はい。それじゃあこの水晶に触れてください」


説明をどうやって受けるのかと疑問に思っていたけれど、これで受けれるのか。なんだか世界も進歩しているんだな。


水晶に触れると、目の前に人影が浮かんできた。


『認証中…認証終了。ジライアス・ハウンドさんですね。それでは、最終試験の説明をします。わからないことは随時聞いていただいて構いません』


「わかりました」


人影は真っ黒なまま、声だけが返ってきた。誰が説明をしているのかとかはちゃんと説明してくれればどうでもいいもんな。


『最終試験は、四つのチームに分かれて行われます。分け方はランダムです』


「戦力が均等になるようにとかは考えないんですか?」


『はい。あくまでも個人がどのくらいできるのかを見るものなので、勝ち負けはさほど重要ではありません。もちろん、勝った方が受験生の気持ちとしては嬉しいでしょうけど』


勝ち負けは重視されず、個人の対応力を見るってことか?

自分と相手に力の差があったとしても、どこまで食らいついていけるかっていうのが大事になるのかもしれないな。


『四つのチームは試験当日に発表されます。八百長などしても構いませんが、それ相応の評価になりますのでお気をつけください。


対戦内容は、当日にくじ引きで決まります。くじの内容は理事長しか知りません。対戦内容を聞いてから誰が出場するかを選んでもいいですし、自信があるなら対戦内容を聞かずとも出場しても構いません。


また、各チーム最低でも一人一回は出場しなければなりませんが、一人の選手の出場の上限はございません。


以上で説明は終了になりますが、何かご質問はありますか?』


説明に特に怪しいところはない。ないけど…少し気になる点がひとつだけ。


「…一試合に何人まで出場してもいいんだ?」


『最低でも一人。上限はチームの人数にもよります』


ということは、分け方はランダムで、一つのチームに何人いるかもランダム。それでも最低一人は試合に出続けなきゃいけないと。


そもそも最終試験に何人残っているのかも分からないのにこのルール…考えたやつはアホなんじゃないか?


「わかりました。説明ありがとうございました」


『健闘を祈ります』


水晶から手を離すと、人影は消え去った。


なんだかこの大学校の試験って変なものが多いな。魔力は見えてないといけなくて、自分の力とギリギリでも頑張って倒さなきゃいけない敵が出てきて、数的不利の可能性があっても諦めてはいけない。


まるで一人一殺以上を義務付けられている負け戦をする兵士みたいだ。


まあ国の意思がどうであっても俺の仕事はアイシャを守ることだ。それだけ間違えなきゃ問題ない。


それに戦争で出るのは基本的に訓練学校の生徒や軍の人間だしな。大学校の生徒まで行くことにはからないだろ。


「兎にも角にも、まずは最後の試験が終わってからだな」


説明を終えて二人のところへ戻ると、少し前に初めて会ったとは思えないくらいに仲良くなっていた。


「ジルはね、昔っから変なことばっかりしてたの。砂山を固めてトンネルを掘ったと思ったら、私の護衛を中に入れて山を崩したり、湖にボートを浮かべて二人でのんびりしていたら、急に立ち上がってボートをひっくり返したり!

あの時は二人ともびしょ濡れになっちゃったけど、不思議とお父様に怒られたりはしなかったのよね」


「へえ、確かにジルって独特な雰囲気あるから何しても不思議じゃないね! 今朝会った時だってなんの説明もしないで私を食事処に連れてったりしてよくわからない人だなって思ったよ」


「自分の頭の中では繋がってるって言っているけれど、口にしないとわからないに決まってるじゃない。ねえ、ジル?」


「あ、説明終わったんだ。おかえり〜」


なんとも言えない顔をして話を聞いていると、突然話を振られる。

微妙に俺の悪口で盛り上がっている女性二人に対して何を言えと?


砂山で潰したのはお前の護衛だったけど他の国に金で雇われて裏切ったからだし、ボートをひっくり返したのは遠くから狙われていたからだ。

それを正直に言ったところで信じてくれるのは王様と父さんくらいだろうな。


命の危機を回避したんだから王が怒らないのは当然だと言いたい。まあ怒らなかったけどもう少し考えて行動しろって言われたから、ノーモーションで使える技を習得することになったんだよな。


針とかもその一種だ。口の中で作って吹けば狙撃できる。人間は頭か胸を刺せば死ぬので大きな武器はいらないから針くらいが丁度いいんだ。…メインは直剣だけどさ。


「説明終わったから、さっき言ってたように街に出てみるか? アイシャはあまり外に出てないだろうし、エリンは王都は初めてだろ?」


「そうね、あなたがいればお父様は何も言わないだろうし、行きましょう?」


「今朝は訳も分からずだったからね。結果的にいい方向に転がったけど! 王都は初めてだしみんなで観光しよう!」

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