霧の街出身糞雑魚エセお嬢様の思い出

クロア

さらば、霧の街


「ジャン。最後は頼みましたわよ」

「これで終わりってね!」


 黒いマントに身を包んだ、かぼちゃ頭の怪人。ジャックオーランタンに対して、わたくしの相棒である蛮族ミノタロス劣等種ウィークリング。ジャン・Gグレート・コルトが手に持ったモールでトドメを刺す。

 それと同時に、これが蛮族の姿に変装しバレないように霧の街から抜け出した私たちの最後の戦いだとなんとなく、直観でわかってしまいました。


 忘れないように、金の足しになるであろう戦利品の剥ぎ取りを行い。今までは売り払っていた剣のかけらを名誉とするために回収する。

 ……ええ、これで。終わったのですわね。私たちの戦いが。それはもう本当になんか。


「あっさり倒しましたわ~~~~~~!!!!」

「いやぁ……終わってみりゃ、あっさりしてるもんだな」

「長いようで……短い冒険でしたわね」


 ジャンも明確な危険が去ったことを認識したのでしょう。いつもの怠そうな、そしてどこか嬉しそうな表情でモールをしまった。

 あの糞みたいな街から連れてきたボーアとオックスも、どこか楽しそうに尻尾を振っています。


「さぁて、ここからカシュカーンまで一カ月ほどか。もうひと踏ん張り、しますかねぇ……」

「歩きますわよ! ジャン!!」

「ってかオックスに乗ればよくね?」

「あ、そういえば騎獣って乗るものでしたわね」


 そういえば、ライダー技能って本来はそういうものでしたわね。

 お馬ボーアに乗るなんて本物の貴族みたいでイメージ溢れていいですわ~!!


「まぁ、遠隔操作しかしてなかったからな俺ら……ボーアもオックスも、人の街じゃ扱えねぇから俺たちが飼うしかねぇな」

「ですわね~……ボーア君はそろそろ限界って感じもします。これからは番犬ですわね」

「だな。しっかし……最初はどうなることかと思ったが。成長したもんだなぁ」

「なんとかなるもんですわね~」


 遠く離れた霧の街を二人で眺める。手元には人の街で生活していくための5000ガメル。大量のザバールポイントを使って仕入れた保存食やテントといった旅道具もしっかりと確保していた。それに、あのくそったれな街で過ごしたことによって身についた戦闘技能がある。大変ではあるが、霧の街で過ごしていたよりかはくっそ楽な旅路になりそうですわね。


 ……こうして、私たちは恐るべき死の都。霧の街から脱出したのです。


「「お疲れさまでした!!!!!!!!!!」」


 ◆◇◆


 霧の街ミストキャッスル――それはレーゼルドーン大陸の南部にある都市。

 しかし、300年前に行われた<大破局ディアボリック・トライアンフ>と呼ばれる蛮族の大侵攻によって陥落し、ジェイドバジリスクの“翠将”ヤーハッカゼッシュ。通称ヤハ様によって統治されている街。

 ここでは一万人を超える人族が奴隷や浮民ふみんと呼ばれる最下層民として暮らしていますの。


 わたくし――エルフのリン・Gグレート・コルトもその一人。ジャンと共に、奴隷よりも人権がない浮民として日々生活をしていましたわ。


 私を支えてくれるのは、この優雅たるお嬢様としての品格が溢れ出る素晴らしい口調。亡き母が伝授してくださった高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュでしたの。蛮族共が使うおクソみたいな汎用蛮族語とは違いますの! オレ・オマエ・マルカジリ? 私は貴方をパクッと倒して差し上げますわ~~~~!!


 いや、力量差があるので迷わず土下座するんですけれど。

 足を舐めて差し上げますわ~~~~!! ペロペロッ! これはボガードの味!!


 こうして、蛮族の足の味の違いでセージ技能を身に付けそうになった頃。ジャンから霧の街から脱出する事を誘われたのですわ。


「なぁ、この街から脱出しね?」

「賛成ですわ!!!!!」

「なら、俺たちのミドルネームにグレートってつけようぜ。そうすれば出れるわ」

「なんかダサいですけど賛成ですわ!!!!」

「は?」


 この決断をしてから、私たちの苦難がおスタートしましたの。装備のお金を揃えるのは大変でしたわね。死んだ蛮族からはぎ取ったり、工事の手伝いをして稼いだり……しかも、お金が大体集まって装備がそろってきたタイミングを狙って私達が住む【袋小路長屋】にレッドキャップが襲ってきたのですわ!!! お糞ですわ~~~~!!!


 ただ、レッドキャップを討伐してからいろいろ変わりましたの。長屋の長老であるミランダという協力者が見つかったのは本当に良かったですわ。暗殺者をやってる“首狩り”マリリンさんの情報を教えてくれたり、何より依頼を用意してくださったのが一番ありがたかったですわね。


「なぁ君達。ボガードソーズマンを倒してくれないかい?」

「そんな、強いやつ倒せませんわ!! 破棄!!」

「却下だな」

「じゃ……じゃあ、蛮族の偵察を……」

「いくら何でも遠すぎますわ!! 破棄!!」

「却下」

「荷物の輸送を……」

「破棄ですわ」

「却下」

「お使い」

「「却下(ですわ)」」


 いや~、本当にありがたかったですわね~。最終的にお手紙配達の依頼を貰って、返事の手紙を蛮族様に献上したことを報告したら、ちょっと怒ってたのが印象深いですわ!!


 それに、一番感謝しているのは【麻薬窟実家】の事を教えてくれたことですわね。あの場所には麻薬を使っておラリになった人達が沢山居て、声をかけるだけで襲ってくる危険な場所。最初に襲われた時は本当に焦りましたわね。


 ただ……


「ジャン。ここに居る人族。意外と金持ってますわ。金策に良いですわねここ」

「人狩りするかー」


 そう、皆さん。麻薬を買う事に熱中しているため、案外倒せばお金を落としてくれる事に気付いたのですわ。特におラリになった神官はもう……ほんと……雑魚なくせにお金を持ってて……お可愛いことですわ~~~~!!


「【キュア・ウーンズ】!!」

「延命やめろ」

「お糞ですわ~~~~!!! 早く跳ねてお金を落としてくださいまし!!!!」


 また、ここでおラリになった元追剥さんからボーア君を強奪しましたの。最初から最後まで活躍してくれた本当にいい子でした……


 それからというものの、私たちは【麻薬窟実家】を愛するようになってきましたわ。何時ものように帰省し、人を狩って金策をする。倒したラリ神官の数はもう覚えてないですわね!! パンがなければラリ神官を狩ればいいのですわ~~~~!!


 こうして、私達はみずぼらしくも愛らしい実家で稼いだお金を使って【露天市場】や【三色の天幕】で装備を整え、ミランダの依頼をこなしていき、地道に地道に成長していきましたの。


「イライザって子を見つけてほしいのだけど……」

「面倒ですわ!! 破棄!!!!!」

「却下で」


 いや~~いい思い出ですわ~~~~!!


 また、装備を整えて【露天市場】から出ようとしたら、ウルスラと名乗るドワーフの女性のお手伝いをしたことも懐かしいですわね。


「頼みがあるんだけど、荷物運びを手伝ってくれないかな? 【木漏れ日の施療院】に行きたいんだ……でも、私方向音痴でさ! 戦闘になったら協力するから!!」


(ジャン。この人クッソ強いですわ。いやクッソ強いですわ。化け物ですわ。荷物運びつつ面倒な蛮族をこの人連れて討伐したら楽だと思いますわよ)

(そうすっか)


「ねぇ!! なんで【木漏れ日の施療院】に帰るはずなのに【麻薬窟】で薬売ってる人達と戦ってるのかな!!」

「これも必要な儀式ですの」

「仕方ないな」


 結果三週間ぐらい連れまわしましたの。お礼として娼館に連れていって料金を奢って差し上げましたわ。私ってば親切ですわ~~~~!!

 ……まぁ、その後蛮族の反抗組織の頭目やってるって知ってちょっとビビりましたが、別の組織に情報を売り渡したら金になったので本当にいい金づるでしたわ!!


 様々な経験を積んで私たちはどんどん強くなりましたの! 

 こうして、いい頃合いになったころにジャンが決定的な提案したのですわ!!


「なぁ、闘技場荒さね?」

「殺りますわ~~~~!!!」


 私たちは闘技場で連戦に連戦を重ね、二万Gくらい稼ぎましたの。もう……ガッポガッポ!!


「まぁ! あの蛮族たち惨めに工事をして働いてますわ!!」

「お金で頬を引っ叩いてやりてぇなぁ」


 このお金を使って、【三色の天幕】でザバールから新しい仲間。オックス君を購入し、順調に霧の街を攻略していきましたの。オックス君が仲間になってからは本当に楽な日々ですわね……。強そうな人の依頼を受け、その情報を別の人に横流しをして金儲け……


 楽な商売ですわ~~~~~~~~!!!!


 そして、遂にこの街を脱出する算段が出来ましたの。


「この門で、夕方になると蛮族の一団が巡回の為に外に出るみたいですわ!! 蛮族の姿に変装してこっそり逃げる作戦がありますの!!」

「んじゃ、脱出するか」

「ですわね」


 ……思えば本当に、短いようで長い日々でした。いつの間にか私たちは霧の町のお糞野郎共達と普通に殴り合えるようになり、ある程度の敵なら倒せるように成長しました。


 ◆◇◆


 だからこそ、あっさりと霧の街から脱出し、ジャックオーランタンを粉砕出来たことに自分でも驚いてしまいました。気付いたらもう霧の街の外に居て……


「本当に……感慨深いですわね」


 なんだかんだ、初めて乗ったボーア君のくっそゴアゴアな毛並みを撫で……いや、こいつ地味に揺れるから私の小ぶりなお尻が痛いですわ!!!!! ゴミ!!!!


「なんか、何も言えねぇなあ……」

「ですわね……」


 お互い、言葉数が次第に少なくなって、ゆっくりとカシュカーンへと進んで行ったのです。









「そういえば……ジャン? 貴方にとって、霧の街はなんですの?」

「――霧の街? 俺の心の故郷だな」

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霧の街出身糞雑魚エセお嬢様の思い出 クロア @kuroa1016

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