第13話 20200808 フェティシズム


腸骨ちょうこついただきから

骨のない やわらかな曲線を辿たど

第10助骨ろっこつから第5助骨ろっこつへと

肌に微塵みじんの圧力もかけぬように

で上げる


ゆっくりと


骨のない やわらかなふくらみで

手のひらは進行を妨げられ


いちど宙に浮いたかと思うと

ぐっと開いた親指と人差し指が

オトガイ隆起りゅうき沿って

顎骨がっこつを包む


指の腹は

甲状軟骨こうじょうなんこつから輪状軟骨りんじょうなんこつにかけて

なめらかな肌をすべり 鎖骨さこつへと向かう



あぁ 何て気持ちが良いのだろう

ほのかに漂う 肌の甘き香り

手のひらに吸い付くような この肌理きめ



名も知らぬ男は

触れていた手を私から離すと

満足げに黒い革の手袋をはめた


僕の中に 愛がひとかけらでもあれば

いくらでも何時間でも

全身全霊で貴方を抱きしめてみたかった

無理をお願いして申し訳ない ありがとう


中折帽を軽く抑えながら深々と頭を下げると

雲の上を歩くように 彼は部屋から出て行った

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