星空を見た。ところで……

深谷田 壮

 駅前から、今日の寄り道は始まった。

「今日は、どこ?」

「さあ」

「……え?」

「うん。今日はテキトーに歩いてみようと思って」

「……わかった。けど、帰れなくなったらどうするの」

「そこに住んだらいーでしょ?」

「よくない」

「でもさ、電話があるよ?」

「私、親の番号、覚えてない」

「……そう、なの?」

「嘘だよ」

「なぁんだ、一瞬信じちゃったよ」

「そっか。ごめん」

「ううん。謝らくていいよ。それに、あかねちゃんなら、戻ってこれるでしょ?」

「まあ、そうだけど」

「じゃあ、前しーん!」

「あ、すぐ曲がり角」

「じゃあ、右?左?」

「ななめ左しかないから、そっち行くよ」



 遥香はるかの歩みは、いつになく速い。それどころか、腕の振りまでワイルドになっている。繋いだ右手が、今にも外れそう。指と指から伝わる熱が、今日は痛い。このままだと、ちぎれるんじゃないのかな。

「今日はそんなに楽しみなの?」思わず、私は尋ねた。

「別に」

「本当に?」

「まあ、あえてゆーなら、今日の授業中に寝てた」

「先生って誰?」

「タケちゃん先生!」

「それなら仕方がない」

「だからさ、今日のあたしは元気いっぱいなんだよ!」

「アンパンマン?」

「そ、そう!そしたら、茜ちゃんはばいきんまんだね」

「せめてドキンちゃんにしてよ」

「わかった。じゃあ、あたしがばいきんまんね」

「……アンパンマンは、誰がやるの?」

「……あたし?」

「一人二役か」

「や、やるとは言ってないよ~」

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