目指したアイドル
ロッソジア
私が目指したアイドル 牧之原亜夢の場合
「私は、頂点以外興味はありません」
私がそう宣言したのはデビューした時のリリースイベントのこと。まだ無名で大きなデパートのイベントスペースで少し人の前で歌って踊って挨拶をした。アイドルという世界に憧れ飛び込んで現実を知り心が折れそうになった。でも、私は止まらなかった。悔しくてただひたすらにいただいた仕事を全力でやった。高い壁や先輩たちと戦った。そしてトップアイドルという肩書きにもう少しで手が届くところまで来た。
誰も期待してなかった。見ていなかった。そんな私が。私の世界を変えたのは彼女の存在だった。世界と戦い敗れて去っていった一人のアイドル。
影山桜
彼女が私を変えたのだ。
彼女と出会ったのは絶望の中で活動をしていた日。様々なアイドルが交代でライブをするイベントの日。私が出番を終え舞台裏に行った時、彼女から声をかけてきた。
「まともなパフォーマンスができないならアイドルやめたら?」
その声はどこまでも冷たく刃のようだった。
「なっ」
「笑顔はできていても他がダメ。なんのためにアイドルをやっているの? 有名になりたいの?友達増やしたいの?そんなのただの自己満足。そんなことは学校でやってなさい。あなたはアイドルに向いてないわ」
その時から彼女の名前は知っていた。飾らないアイドル。クールでなんでもこなすアイドル。バラエティに出ることは滅多になく出るだけで話題になる。でも、メンバーとの衝突が多い1匹狼。そんな人からの突然の不適格という烙印。私は怒りでカッとなった。
「しっかりみてなさい。アイドルというものがどういうことか」
それだけいうと彼女はステージへ向かった。
彼女のパフォーマンスは圧巻だった。かわいい曲からかっこよくセクシーに決める曲まで全てにおいて正解と言えるくらい曲に合わせた雰囲気で踊り歌った。私はその姿に魅了された。
ステージを終えて彼女は
「これが本当のアイドルよ」
と言い去っていった。
そして私は彼女を追うようになった。テレビ番組やステージで一緒になったら話しかけに行き仕事の休みに彼女のライブがあれば何度も足を運んだ。しかし、世の中では
「握手会もしないし、グッズも少ない。アイドルとしてありえない」
「アイドルなめている」
という評価だった。私は考えた。
アイドルとはなんなのだろうか。
アイドルは握手することが大事なのだろうか?
そんなことはない。私のことを好きだと言ってくれる人もいるけど悪口をいいに来る人もいる。
お金を払ってもらってふれあう時間を作ること?
それもちがう。
お金をもらって時間を提供する。そんなの他の商売でもある。
アイドルとは会えないからこそ希少価値が出るのではないだろうか。
私の中では答えが出ずにぐるぐる廻り続ける。
私はマネージャーに相談した。
「あなたの仕事は夢を作ることよ。見せるでもなく、売るということではなく。たくさんの人の夢を作ること。それはあなたが活動をしないとできないことよ。あなたがよく追いかけている影山桜もそう。あの子はそれをわかっている。大きい事務所の子とかは夢を見せるだけや売るになっている子が多いけど、あなたは違う。たくさんの人の夢を作ることができる。だからあなたはたくさんの人の夢を作りなさい。影山桜がそうしたように」
私は、ハッとした。
正直、私よりアイドルに向いていない子はたくさんいる。アイドルになってまだ学校や習い事のように活動をしている子もいる。CDをたくさん買ってもらう戦略として握手会や写真会という活動している子もいる。世論や経済はそれを当たり前と思っている。でも本当にアイドルとはそれでいいのだろうか。
私は違うと確信した。
この日、私は戦うことを決めた。世界を変えることを。完璧でなくてもいい。私が私であれる世界を作りたい。どんなアイドルでも正解だとは思う。でもアイドルが誰かのためにではなくアイドル自身のために活動できる世界を作ろうと決めた。
そこからはさらに苦痛の日々が続いた。
ファンの人の考えを知りたくて握手会はやり続けた。でもCDの特典ではなくライブの帰りに挨拶の代わりとして。オンラインチャット会もした。何人かではなく1人1人相手にして5分間限定で。運営からは文句が出たりもした。でも、そのやり方に賛成をくれる人もいた。ダンスや歌は死ぬほど練習した。学校や仕事が終わればレッスンスタジオに向かい、どこかに遊びに行くことは滅多になかった。番組の話題作りでしか行っていない。
ある日、同じアイドルの人になぜそこまでするのかと聞かれた。
理由は思い付かなかった。
けれど、今を全力でやらなければあとで後悔すると思ったからと答えた。
今、その質問をした彼女はもうこの世界にはいない。引退をして保育所で働いていると人伝てで聞いた。
私を奮い立たせた影山桜もアイドルを卒業し、女優になっている。
彼女の大変身ぶりはまさにアイドルを卒業するという姿だった。
アイドルが卒業するという発表はいつも変だと思っていたがそれはアイドルという卵からの、甘えのある世界を卒業する、1つ大きな階段を登るということを表していたのだとその姿をみて感じた。
私もアイドルからの卒業を決めた。これからは歌手としていろんなことにチャレンジしていく。そのために私は事務所を1から探して応募をした。マネージャーからは残念がられたけれど
「こうしなければ何も進まない気がするので」
そういって諦めてもらった。
私のアイドル最後の日。
舞台に立ったのは私1人きり。
セットリストも演出も衣装もすべて自分で考えた。
他でもない私が私の最後を祝うために
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