第十三話 すれ違った女

 九段さんは小さい頃から奇妙なものをよく見たという。

 幽霊とはっきり言えるものではなく、勘違いかもしれないけど、とこんな話を聞かせてくれた。

 九段さんが学生時代、福岡にある実家に帰省した時のことだ。

 バスを降り、実家まで徒歩で向かう道すがら、母校の中学の脇で、

「あ、九段くん久しぶりじゃんか、元気にしてた?」

 自分よりも少し年上の綺麗なお姉さんがすれ違いざまに挨拶してきた。

 九段さんは反射的に、

「あ、どうも、お久しぶりです」

 と会釈してから、誰だっけ? と首を傾げた。

 見たことのない顔ではない。だが、こっちに残っている友達というわけでもない。

 ご近所の人、そういう印象だった。

 そこまで考えてから、九段さんは「あっ」と声を上げていた。

 中学を卒業するくらいまで、遊んでもらったり、勉強を教えてもらっていたりした3軒隣のお姉さんだ。お姉さんは大学を中退してふらふらしていた人で、どこか達観したところがあって、透明な雰囲気を持った変人だった。

 だが、九段さんが中学三年生の頃に、自動車事故で亡くなっていた。

 九段さんがさっと振り向くと、お姉さんの姿はなかった。

 グラウンドの脇の、ガードレールの内側の長い歩道で、隠れられる場所はないはずなのに、煙のように消え失せていたという。

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