第十話 ザリガニ
中学生時代に仲の良かった丸井くんはカニやエビが大の苦手だった。
ある時、嫌いな食べ物の話になり、理由を訊ねるとこんな話を聞かせてくれた。
私たちが住んでいた町には公園として利用されている大きな緑地がある。
雑木林や原っぱ、貸しボート小屋のある大きな沼などがあり、私も小さい頃よく遊びに行ったことを覚えている。
丸井くんも同じで、彼は用水路や池で魚やザリガニを釣ったり、カメに悪戯したりするのが好きだった。
池は遊泳するには適さず、周囲にも草や木が生い茂り、立ち入り禁止になっている場所もあったが、丸井君はその立ち入り禁止の場所を穴場のスポットとして利用していた。
ある日曜日のことだ。
丸井くんは朝早くから釣竿を片手に高い鉄柵を乗り越えて、池のほとりでよさそうなポイントを探し始めた。
と、浅瀬に見慣れないものが浮いている。
それはオキアミみたいな酷い臭いを漂わせていたという。
好奇心旺盛な丸井くんは長い枝を拾ってきて、それを掻き寄せてみた。
近くに来て、それが人間の子供の死体だと分かったという。
うわ、死んでるやん。
のんきな彼はそう思いながら、うつぶせになっていた死体をひっくり返してみた。
紫色に変色し、ぐずぐずに腐って崩れた顔が見えた。
と、その口がもごもごと動いていた。
まだ生きてるのか?
そう思って覗きこむと、一匹のザリガニが這い出して、ハサミを振り上げた。
口からだけではなく、目玉のなくなった目の穴からも。
湧き出すようにザリガニが這い出して来る。
そのあまりの気持ち悪さに、耐え切れず丸井くんは吐いてしまったという。
ザリガニは肉を好み、スルメでも仲間の肉でも食べる。
子供の死体は、きっとごちそうだったのだろう。
その後は警察が来るような事件になり、第一発見者として色々と聞かれたという。
子供は、数日前から行方不明になっていた男の子だったそうだ。
その日の酸鼻な光景を思い出してしまうため、エビやカニが苦手なのだという。
「でもそれザリガニだから違うよね」
そう茶々を入れると、似ているし同じようなモノだから、ダメなのだと言う。
そのくせ丸井くんは遠出して他の川や池で釣りが出来るようになるまで、緑地での釣りは続けていたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます