第26話 雪山の上で


<ちっ、あのラファールついて来るぞ>


<ラファール……何処からそんなものを?>


(グリペンか……。

 速い……流石は北欧のグリフォン)


 シュワルツは思わず舌を巻く。

 中々、敵機をとらえきれない。


 敵の使用する機体はグリペンCタイプ、ハイルランド軍の虎の子だということだが、最高の機体と言える機体ではない。

 制空戦闘ならラプター、対地攻撃ならサンダーボルトⅡ、それらのようなとある専門任務に特化した機体には敵わない。


 だが、グリペンは良い機体だ。


 小さな戦闘機だがその分敵に捕捉されづらく、加えてパワフルなエンジンを搭載することにより高い空中戦能力を誇る。優れた内蔵コンピュターは対空対地、並びに高度な偵察能力を有する。


 それに加え、敵パイロットも中々のものだ。


 別の問題もある。

 シュワルツ、スワロー隊の三人はまだいい。


「どうしてです!

 どうして我々が争わなければならないんです!」


<……っ>


<聞くな、我々には責務がある>


 だが、同胞……ましてや祖国の英雄と戦わねばならないルーキーの彼らにとってその空は地獄だった。


「醜い戦いだ……!

 連邦に踊らされているというのが、何故わからないんだ!?」


「エリシア、戦いに集中しろ」


<パルクフェルメ空軍……今更何を正義の味方面を……!

 部外者は黙っていろ。私は任務の為に飛んでいる。

 既に、国民は勝利よりも平穏を願っている。

 諦めろ、fox2ミサイル発射


「本当に撃ってきたッ」


 クレイン隊隊長機の一機のグリペンが、下向きの円錐を描きながら急降下を行い、アルバス隊のグリコにミサイルを放った。

 幸い撃墜には至らなかったもの、白い尾を吐き出した。


 間髪を入れず、もう一機のグリペンがとどめを刺そうとするも――そこに隙があった。

 シュワルツはスライドさせるようにラファールを駆り、その背後をとった。


「……fox2」


 熱を追う赤外線シーカーは、グリペンの心臓エンジンを追った。

 グリペンはバラバラになって、雪山へと堕ちていった。


<ちっ、よくも隊一番の若手を!>


「先に仕掛けて来たのはそっちの方だ!」


<容赦するな、パルクフェルメと組んだ奴らはれっきとした敵だ>


「今はもうお前達が敵だ! 裏切り者め! 」


 無線を通して滲み出る憎悪。

 同胞の絆など無い。ここまで来たら、もう取り返しは付かない。

 そんな中でも、シュワルツだけは空戦の本質を見逃すことは無かった。


「俺は一番機を堕とす、堕とせれば連携が崩れる筈だ。

 スワロー2、3は他の機体を引きはがせ。


 その後はこの場を保持しろ。アルバスのルーキー相手じゃきつい相手だ」


「ラジャー……恐ろしいほど冷静だな。

 味方で助かったよ」


 シュワルツは短く返答を返すと、一気に隊長機に迫る。

 雪山の中、白い塗装のグリペンは何度も姿をかき消そうと急旋回をするも、シュワルツには通用しない。

 逆に旋回の隙を突き、一気に距離を詰めて来る。


 敵も母国のエース。だが、シュワルツとて元連邦のエース、それに既にこの雪山の空でエースとして認識されているパイロットなのだ。


 それでも簡単に仕留められる相手ではない。

 互いの友軍の無線が届きにくい位置まで、空戦は続く。


<ここまで追い詰められるのか、私を?

 貴様が赤翼か……。

 連邦が警戒するわけだ>


<Target in sight SHOOT>


「……FOX2。

 外したか……」


 淡々と追い詰めていくシュワルツ。

 だが、追い詰められている敵は予想外なことを言いだした。


<赤翼。悪いことは言わない、投降しろ>



「……この状況が分からない程の三流パイロットには見えないが?

 どういうつもりだ?」


<多くの空を飛んできたはずだ。

 それならわかる筈だ。


 ……今はうまくかみ合っているだけだ。

 どの国も、すぐに連邦の手に堕ちる。

 その抵抗は無意味だ。

 国民はもう勝利なんて望んでいない、平穏を望んでいるんだ。

 パルクフェルメ人たちも長引けば、熱も過ぎ去っていく。

 分かっている筈だ、このままでは俺達は不要になる。

 お前もすぐに不要な存在になる>


「だから、連邦の犬になり下がったと?」


<誰かの命令に従って飛ぶしかないんだ、今の戦闘機パイロットは。

 今ならまだ間に合う、連邦も我々という戦力を捨てる気はない。

 連邦の犬になれば、戦闘機パイロットとして生きていける


 命を粗末にするな。

 戦う必然性が必要なんだ、その先の勝利に利益が必要なんだ。

 ――夢で飛ぶ時代なんて終わったんだ>


 敵と長々と喋る気なんてなかった。

 そんなものは二流がする事。淡々とやることをやるだけ。

 だが、何故だか、彼の感情が激しく動いていた。

 本当にいつ以来か、強い怒りを感じていた。



 一方、その頃。

 ハイルランド上空に彼が居た。


「……祖国も恐ろしい兵器を考えるものだ。

  空対空核弾頭か……。

  祖国の新兵器で敵国のエースパイロットを撃ち落とすか。

  ふっ……悪くない」


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