第24話 英雄の条件
スワロー隊はハース市の防空任務に当たる為、そのまま着陸した。
だが、エースとしての働きが労われ、彼らは直ぐに自由の身となり、別の意味でだが、同じく自由の身となった市民達から熱烈な歓迎を受けた。
招待された酒屋では、文字通りの美酒に御馳走が出された。
いつ再占領が行われてもおかしくはない。不用心だ。次の戦いに備え食料を温存すべきだ……確かにそうだが、それ以上に彼らは抑圧からの解放を喜びたかった。
「……だが、俺はこうしてくるりと奴らの後ろに回り込み、見事連邦の戦闘機を堕としたわけだ。
ただの戦闘機じゃない、最新鋭のライトニングⅡをだ! それもたった一人で返り討ちに!」
「す、すごい。他にも聞かせてください!」
「付き合っている女性とかいらっしゃるんですか!?」
「あっははははは! モテる男はつらいねぇ!」
「全く……嘘ばかり並べて。
あの男にはプライドがないのか?
えっ……?
私のサインが欲しい?
ふふ……止せ、私は有名人じゃない……そこまで言うのなら、し、仕方がない描いてやろう」
大勢に囲まれ、酒に酔い、すっかりと英雄気分を満喫している二人とは対照的にシュワルツは店の隅で、目立たないように静かに酒を煽っていた。
頭の中に思い浮かべているのは、あのフィッシュベッドのこと。
(あの機体……最後以外は凄まじいものだった
何かが引っかかる、何かが……)
「……あのちょっといいですか?」
なんとなく声をかけづらいオーラを出しているシュワルツに、恐々と話しかけて来たのは、おさげの可愛らしい少女だった。
「……なんだ?」
「あ、あの三角形のが二つ並んだような……前が小さくて、後ろが小さい戦闘機です。
あれのパイロットはあなたですよね?」
「三角が二つ……カナードとデルタ翼のことか。
ああ、俺の機体だな。用件はそれだけか?」
「い、いや……。
その変な話なんですけど……あなたの眼には空はどう映っているんですか!?」
「は?」
「え、えっと……第一次大戦でパイロットだったひいおじいちゃんがよく言っていったんです。
いつの時代にも、空にはエースという名の英雄がいる。
凄く目が良くて、空のことは何でも知っている、誰かを導いてくれる……渡り鳥の群れを率いる英雄がいるって!
教えてください、エースパイロットには何が見えているんですか!?」
目を輝かせながら、問いかける彼女。
だが、シュワルツはただただ淡々とこう答えただけであった。
「俺の見えているものは爆風ともがれる敵の翼だけだ。
勘違いするな、俺は英雄じゃない。
あっちの席にいるのが英雄だ。
見ろ、皆が寄ってたかって褒めたたえている。あっちが本物だ。
あんたらを救うことなんて考えてない、好きに飛んでただけだ」
冷たくあしらったつもりだった。
しかし、まだ幼さの残る少女は意味を理解したのか、してないのか、きょとんと首をかしげてこう言った。
「褒めたたえられたら英雄なら……
私が褒めているのに、貴方は英雄じゃないんですか?」
たった一人だけだ。そう反論しようとした時、シュワルツにとって最悪なタイミングで彼の足元に花束を抱えた幼児たちがやってきた。
「おにいさん、助けてくれてありがとう!」
押し付けられたので、シュワルツは思わず受け取ってしまう。
そして、ふと視線を感じ店内を見渡した。
全員がにこやかな笑み、人によっては涙を浮かべながら、彼に向けて拍手をしていた。
その後ろでは、ジャックとエリシアが少し意地の悪い笑みを浮かべていた。……きっと、自分の価値を決 して認めようとしない隊長に対する、彼らの入れ知恵なのだろう。
「……ね?」
同じくそんな笑みで問いかけてくる少女に対し、シュワルツは無言でそっぽを向き酒を飲む。
そんな悪あがきで、誤魔化すしかなかった。
◇
アルタイル連邦空軍、本土防空指揮本部
連邦空軍の最高本部、円卓に座るのは将官以上の男達。
アルフレッドは唐突にそこに呼び出された。
上層部と接点を持っていている彼ですら、思わずしり込みしてしまうような光景だ。
「アルフレッド、よく来てくれた」
「は、はっ!
何故、自分をお呼びに……何か自分が粗相を……?」
「ふふふ、組織に忠実で謙虚な男だ。
なぁに、今日君を此処に呼び出したのは、些細なことだ。
これを見たまえ」
係りの兵がプロジェクターを操作する。
画面に映し出されたのは、とある迎撃戦闘機と、連邦技術本部が新たに開発した新型ミサイル。
さらに次の画面へ、そこに映し出されたのはガンカメラに映し出された短い映像だった。
映し出されていたのは、赤い翼端のラファールだった。
「少々厄介者でね、この機体を撃ち落として欲しい……。
とはいっても、我々が行った下準備とその新型兵装、失敗はあり得ない。
約束された勝利だ。
我々に忠実でいた褒美だ。次世代の英雄の名誉を君に与えよう。
ハイルランドに飛びたまえ」
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