反逆の翼―祖国に見捨てられたエースパイロットは空を求め、敵国の英雄へ
@flanked1911
第1話 翼を失った日
2024/09現在連載中の戦闘機ものの小説です。https://kakuyomu.jp/works/16818093084267831881
◇
「スラッシュ1より、各機、着陸態勢に入れ」
その男は戦闘機のコックピットの中に居た。
軍事大国、アルタイル連邦の首都防空任務という重要な任務を若き飛行隊長として背負っておいたのが、彼、シュワルツ・アンダーセンだった。
「スラッシュ2、了解。
寂しくなるな、今日で最後か、シュワルツ」
「……ああ、そうだな。
アルフレッド、次の隊長は君だ、しっかりと頼むぞ」
6機編隊の2番機もパイロット、アルフレッドと彼は士官学校からの良きライバルだった。
主席を争い、いがみ合っていた時期もあったが、卒業時には潔く互いを認め合い、今では何の縁か、同じ飛行隊の一番機、二番機だ。
今日で最後と言うのは、シュワルツが別の飛行隊に異動することになったからだ。
いや、正確に言うと、異動ではなく、彼が上層部に必死に訴えていたあるアイディアがようやく承認されたのだ。
(長かった……曲芸飛行隊アクロバットチーム設立まで。
だが、ようやく夢がかなうんだ)
シュワルツが少年だった頃。
彼は孤児だった。
親はいなく、裕福とはいえない孤児院で育った彼が唯一憧れを持ったのは空を縦横無尽に駆けていく戦闘機だった。
経済的にも、心理的にも寂しかった彼は、空を自由に飛ぶそれが、なによりも美しく見えた。
エリート集団が蔓延る士官学校中で、彼が首席で卒業できたのも、その憧れを忘れなかった為であった。
次は自分が子供達に憧れと希望を与える番だ。
彼はそう思い、アルタイルには存在しなかったアクロバット飛行隊の必要性を強く訴え、難色を示したお偉いさんを説き伏せ、ようやくそれが承認され、明日から本格的な準備に移るのだ。
<高度 30>
着陸シーケンスを順調にこなしながら、彼は物思いにふけっていた。
「本当に頼むよ、アルフレッド。
俺が今日で最後だからって……」
「ああ、いや、違うんだ」
アルフレッドの無線機越しの声には明確な悪意が含まれていた。
「お前が戦闘機パイロットでいられるのは、今日で最後なんだ」
「……アルフレッド?」
<タッチダウン>
自機の後部車輪が滑走路に触れる。
一体どういうことだろう、降りてから聞かなければ、そう思いつつもいつもこなしている着陸に集中する。
やや、減速したところで、次は前輪を地面に降ろした。
その時だった。
激しい衝撃と共に、コックピットが滑走路へと叩きつけられた。
<――前輪破損>
(……なんだ!?
前輪が折れたのか!?
何故? オーバースピードではない、適性速度だった筈だ!)
「……着陸失敗、着陸失敗だ! 消火班急げ!」
前輪を失い地べたを擦る嫌な音、管制官の慌てた声。
「隊長、緊急脱出ベイルアウトを!」
シュワルツは部下の声を聴く前から、座席下の脱出レーバーを引こうとしていた。
だが、眼前を見る。
前輪を失った自機はまるで減速していない、このままでは基地の外の市街地に突っ込む。
しかし、激しく音を立てながら滑走する機体がどこまで持つかは分からない。
(……っ!)
彼は一瞬悩み、結論を出した。
後輪のブレーキを調整し、機体をドリフトさせるようにして緊急停止させたのだ。
結果的に、彼の機体は基地のフェンスすれすれで止まった。
だが、代償は大きかった。
完全に止まる寸前、機体が耐えきれなくなり、片方の車輪が折れ、地面に突き刺さり、その衝撃で機体は爆発炎上した。
シュワルツが激しい衝撃と共に意識を失う寸前、誰かの嘲るような声が頭を木霊した。
「シュワルツ、お終いだ」
シュワルツが次に目を開けた時は誰もいない暗い病室のベッドの上だった。
そして、彼は絶望した。
サイドテーブルに重大事故の責任を審議する為の、軍法会議に招集命令書が置かれていた。
いや、それだけならば良かった。
右足が無くなっていたのだ。
彼は自分の戦闘機パイロット人生が終わりを告げたことを知った。
◇
<journalist report>
軍事大国、アルタイル連邦。
ユーラシア大陸最強の航空勢力部隊として知られるアルタイル空軍を始めとする、アルタイル連邦軍は世界に名をとどろかせていた。
その膨大な軍事力を以って、次々と中小国を併合していた巨大軍事国家。
多くの人々はかの国を恐れた、だが、健気に立ち向かったところで圧倒されるだけだ。
皆、諦めていた。
ある時まで。
その大国で後のエースパイロットとして、周囲の期待を背負っていたパイロット。
しかし、翼をもがれた青年、シュワルツ・アンダーセン。
いつまでも続くと思われていたアルタイルの輝かしい歴史、それと翼を失ったたった一人のパイロット。
それらが交錯した時、まさか、歴史が動くことになるとは。
誰も思わなかった。
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