体操着の下のラブコメ

11_チクチクアタック覚悟して?



 この年になって運動なんて一生懸命やらないもんだから、ついつい熱が入ってしまった。

 現在、月曜二限、体育の時間。

 入社して二年目の時に、入ったは良いものの三ヶ月で行かなくなったジム以来の有酸素運動だった。


「うっへ、やっぱ腕立てはつれえ」


 今思えば結構ハードだなと実感させられる準備体操の時間とウォームアップを年甲斐もなく頑張って終えて、床に揃って座る。

 すっかりご無沙汰となったここは学校の体育館。うちのクラスは四月一杯の体育は全て体育館でやる事になるらしい。


「このクラスは男女混合で一つの競技をやる事になる。えーと種目は……」


 体操服姿の逢瀬まなつをチラ見しつつ、体育教員が手元のシラバスを確認し終えるのを待つ。残念ながら逢瀬の髪型はポニテでないが、この体操服もなかなかどうして、いいものである。お金払いたい。


「えー種目は、バドミントンだ」


 と、体育教員の言葉にビクッとなった。なんやって、男女でバドミントンだと。確か男子はバスケで女子はバドミントン、みたいなのだった気がするが、なんで変わった? もしやこれも俺がクラス委員になったゆえのバタフライエフェクト……すげえ地味。

 ともかく! これは千差一遇のチャンスだ。何故ならバドミントンは必ず


「じゃ、二人ペアを作ってくれ」


 ペアになる必要がある……! そうつまり、ここでワンチャン逢瀬まなつと組んで仲を深めたり出来るんじゃないか作戦。普通なら同性同士で組むものだが、構わん行ったれ。何せ俺はクラス委員の役回りだ。委員同士なら、誰も不審には思わないさ。

 ガヤガヤと騒がしくなった生徒諸君を掻き分けて、体操服姿の女神を探す。ああ、クラスメイトとニコニコ話す逢瀬、超可愛い。


「ちょうどいいところにいるじゃない」


 が、グッと肩を掴まれた。振り向く。デコ出し女がいた。無視。


「なんでよ! なんで逃げようとすんの!」

「バカこの……! ここでお前と組んだら俺の運命は同じ未来にリバイバルするんだよ! ぜってーそうだ! この流れは大抵未来に影響を及ぼす選択肢!」

「はぁ? 意味分からないんだけど……! ってほら待ちなさい」

「はーなーせー! ……あ」


 聞き分けの無い子供のように逃げようとする俺の目に衝撃の光景が映った。一言で言うならば、時すでにIt's Too Late。俺が声を掛けるより前、先に同じバド部の男子とペアを組んでいた。くっそう! 同じ部活だとしても、これ完全に嫉妬の渦に巻き込まれてる案件や。はあ、でもこればかりは仕方ない。俺は渋々、というか泣き崩し的にあざみとのペアを了承した。


「……つうか、こういうのって普通、同性でペア組むもんじゃね?」

「私ら以外にも男女ペアいるから大丈夫よ。それに、変にがっついて逢瀬まなつとペア組むよりかは、私相手でちょうど良かったんじゃない」

「ちぇ……まあ、同じ部活相手で組むよなぁ、普通」


 残念ねーとか胸を張って腕組みをする幼馴染みに、ああもうどうでもなれだと腹を決めラケットとシャトルを二人分取りに行く。ちょうど選び終わって戻って行く逢瀬を見てため息を吐きながら、あざみに持ってきたそれを渡そうと姿を探すが……なんか逢瀬の隣に移動してた。俺に取りに行かせたのはそのためかよ。確信犯は今日も健在だ。


「ふふん、せっかくだし、逢瀬まなつのペアの隣にしてあげたの。喜びなさい」


 こっそり話すあざみ。ドヤ顔やめろ。


「おいこら、冷やかしは無しにしてくれって言ったの早速忘れてんだろ」

「やあねぇ、本人に何も言ってないんだから冷やかしじゃないでしょ。ほらほら、さっさと始めましょう、私たちの戦争(バドミントン)を」

「そんなルビねぇよ。いやルビってなんだよ」


 ちょっと何言ってるか分からないけども、こうして俺はまたショッピングモールの時と同様、逢瀬に勘違いされそうなファクターを増やしてしまってる訳で、ああ悶々。幼馴染みとはいえここまでゴーイングマイウェイってな具合だと困るな。大人しくしてくれる方法は無いものか。


「あ、宮田くん。隣なんだね。うん、よろしく」


 ま、間近で女神を拝めるは嬉しいけど。


 と、ここで。


「せんせー、コートに人入りきらないかもー。ついでにラケットもちょっと足らないかもー。困ったかもー」


 体育係の生徒が、空になった備品箱の前で教員へ呼びかける。

 確かに、体育祭の大きさは3コート分の大きさなので、一斉にやるにはちとキツイ感じ。大きくラケットを振ったら周りの人に当たりそうだ。

 体育教員は、生徒名簿をしばし眺めてから手を叩き、全員を注目させた。


「ペア組んでもらって悪い! バドミントン部の生徒は、三人ペアにして組んでくれ。ペア組んだ生徒が交代でバドミントン部と打ち合うようにしたいんだ。あと、人数上、バドミントン部同士で組まないように頼む」


 その言葉を聞いて、声が出そうになった。そう。バド部同士で組んでる逢瀬はペア解体の対象である。つまりこれからペア探しを行いどこかのペアに混ぜてもらわないといけない。となると、物理的に距離が隣という近さである俺とあざみのペアと組む流れに持ってける可能性大いにあり。

 チャンスだぞおい。


「えー、バド部同士ダメなのかぁ。タケアキくーん、誘ってくれたのにごめんねー。ペアダメみたいでさ――」


 ちょうど逢瀬も組んでいた男子生徒とその話をしている。へへ、悪いのうタケアキくんよ。お前は二組の永井と結婚して九州の離島で暮らす運命なんだ。逢瀬と仲良くしても意味ねぇぜ。

 名前呼びされてちょっとイラッとしたが、今回は身を引いてくれたまえ。

 俺は逢瀬に声を掛けようと顔を向けた。フワッとバニラの香りが漂ってきて心地よかった。


「ん?」

「あ」


 と思ったら、声掛けるより前に逢瀬が俺の方を見た。目が合って数秒、照れたような笑みをされた。


「えへへ。組む?」

「い、いいのか」

「美浜さんに怒られないならねー」

「おお……」


 OMG。

 声掛けようとしたとはいえ、まさか、逢瀬から誘ってきてくれるとは。

 やばい。なんかドキドキする。実は俺の事好きなんじゃね? あ、違う。そうですかすいません。彼女出来た事ないもんで、つい。(27歳です)


「つう事であざみさん。隣の逢瀬とペアになったわ――って、いってえ!」


 競技用ネット越しにいるあざみに手を振ってみたら弾丸スマッシュが顔に飛んできた。テニスじゃねえんだぞおい。目に入ったらどうすんだ。


「っち、ボコボコにして情けない姿を晒してやろうと思ったのに」

「おい、なんか不穏な言葉もスマッシュされてきたんだけど」


 寒気がした。怖いあの子。


「ともかく逢瀬、よろしくな」

「うん、アタシもボコボコするね!」

「ガ、ガチじゃないですか! やめてやめて!」


 変な方向に行きかけている状況に戦々恐々としつつも、三人でのちゃんとした対面に、俺は雲行きの悪さを覚えながら、時計を見上げた。

 授業はあと、三十分。

 願うのは、たった一つの事。

 ああ、どうか。

 どうか神様。

 お願いですから、どうか。


 ……痛いのだけは勘弁してください。


 その矢先


「じゃあまず、スマッシュ五十本! 行くよー!」


 溌剌とした元気な女神の目が、妙に輝き出した。


 マジっすか……











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