4_お前、ツンデレだろ

「バカじゃないの」


 って事で、現在俺は幼馴染みに怒られていた。

 その理由は、頼まれたいちごオレを依頼主に持って帰る事ができなかった……のはまあ、物が売り切れてたんだから仕方ないのだが、なんだかご機嫌斜めに更に拍車が掛かっていた。

 どうしろってんだよ、もう。


「そんな事言ったって、俺が買おうとした時には、既に」

「ふん。アンタ、なんで頼まれた物が買えなかった本当に分かってる?」


 きつーい目つきがこちらを睨む。俺の机に座って足を組み、パンツが見え


「おい」


 すんません。


「アンタが下駄箱あたりに着いた頃はまだ売ってたのよ。けど、楽しそうに鼻の下を伸ばしながら逢瀬まなつとお話してた間に、別の生徒が買ってちゃったの」

「……お前見てたのか」

「文句ある?」


 開き直ってやがるが、そうとしか考えられなかった。

 多分、窓からでも見てたんだろう。確かに三階のここからだと、生徒玄関がちょうど見易い位置がある。ってか、わざわざそこまでして監視するのかよ。俺をなんだと思ってるんだこの女は。

 あざみは、不服そうに俺の買ってきた代わりのヨーグルト風味のジュースを飲みながら机から降りた。


「……アンタにあの逢瀬まなつは合わないわ。立場をわきまえなさい」

「は、はあ? おめえにそんな事言われる筋合いないだろ」

「…………っ」


 少しばかりの反感を込めた俺の口調に、あざみはどこか驚いたような、困ったかのような表現を一瞬挟んで、勢いよくジュースを吸った。


「……なんでそんな事言うのよ」


 そっぽを向く。俺はそのまま言ってやった。


「なんでって……これは俺の人生だ。俺の青春だ。だから、お前の意思で俺の青春する相手を決めるな。合うとか、合わないとか、その言葉で後悔する選択をしたくねぇんだよ」

「……ふうん」


 こちらの思いをそのままは吐き出す。恋人が出来なかった学生時代。それは社会人になっても引きずり、将来への気力を喪失させた。俺は気持ちの切り替えが下手だ。ダメだったら次の女へ、ってのができない。だからそれは、すぐに治るものじゃないから――なるべくなら、後悔しない選択をしていきたい。

 その選択が、例えばたった一か月くらいしか持たなくても、恥ずかしいとかそんなので後悔はしたくないんだ。

 俺の言葉に、あざみは窺うような視線を送ってきた。なんだ?


「……まさかとは思うけど、アンタ逢瀬まなつが好きなの?」

「え?」


 俺があざみの方へ向くと、持っていたジュース顔を隠した。こんな反応する女だっけかこいつ?


「ど、どうなのよ」

「さあな」

「なによそれ。なんで誤魔化すの」

「お前には関係ないさ」

「な……」


 が、なんだかあんまり見ない顔だったので俺はさらに追い討ちを掛けてみた。


「良いよなぁ、逢瀬」

「は?」

「溌剌として、元気で、可愛くて」

「ちょっと」

「それでいて優しくて」

「アンタ、わざと言って……!」

「素敵だよなぁ」

「な、この……!」

「同じクラスになれてよかったわマジで」

「むかつくなあぁぁぁー!」


 爆発したあざみ。クラスの目線がこっちを向いてるがお構いなし、顔を赤くして、紙パックのジュースを力任せに潰した。まだ中身が入ってたけどお構いなし、思いっきりそれをこっちへ――っておい!


「なによ、なんなのよ! 急に別の女にヘラヘラしだして! 発情期の犬かアンタは!」

「おいおいあざみん、いつからお前、俺のご主人なったの? 初耳なんですけど?」

「べ、別に主人になったつもりはないわよ! た、ただの幼馴染、そう、それだけよ! あとあざみんって言うな!」

「あざみん」

「くっ……!」

「ご主人サマー」

「むかつく!」

「俺、別に誰を好きなっても良いよな?」

「ニヤニヤして訊いてくんなバカぁ!」


 怒鳴り散らすと、周りの視線にちょっと気まずそうにして、荷物を持って教室を出て行ってしまうあざみ。一気に騒めく教室内。何してんのあの子。こんなんじゃ、余計に皆に弄られるパターン確定やぞ。俺は俺で逢瀬の事言っちゃったし、あざみはあざみであんなんだし……はぁ、初日から何やってんの俺ら。

 疲れて床に座り込んだ俺に、近くにいたクラスメイトが話しかけてくる「宮田、楽しそうやったな」「うっせえ」。そんなやり取りをして、時計を見て、あーあと部活まで一時間あるよとため息を吐いて、うなだれた。


 ああ、そういやまだ昼飯食ってねえや……。

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