森の洋館の噂

布団カバー

森の洋館の噂

私が赴任した小学校では生徒たちによって長い間、町はずれの洋館の噂が流れている。

住んでいた夫婦を惨殺した殺人鬼が住み着いている。

夫婦には子供がいたが、醜かったため監禁されていてまだそこにいる。

死んだはずの夫婦が幽霊として漂っているなどだ。

だが、実際にはそんな事実はなく小金持ちの夫婦が見栄を張って風変わりな洋館を建てただけの話。

その夫婦はすでに亡くなっており洋館には引き取りもおらず解体にも費用がかかるため放置されている。

だが、そんなつまらない現実は好奇心が溢れでる子供たちにとっては関係ない話だ。

おかげで洋館に忍び込む子供は後を絶たない。

そのため夏休みなどの長期の休み期間には交代で先生たちが見回りを行っている。

蒸し蒸しとした夜、洋館から少し離れた場所にある小屋にいる私はラジオを聞いて暇を潰している。

半分眠りながらラジオを聞いていると雑音がひどくなり挙句の果てには沈黙してしまった。

ラジオないので、本を読もうかと思ったが蒸し暑い空気しか回さない扇風機しかない小屋では読めたものじゃないので、洋館を暇つぶしに見て回ることにした。

洋館に近づくにつれ不気味さを感じ帰ってしまおうかと思っていると。

「キャーー」

子供の叫び声が聞こえた。

帰る気は消し飛び急いで洋館に入った。

勢いよく入ったが、中は外で見えている以上にボロボロだった。

床を踏みぬかないよう気を付けながら歩く。

一歩一歩進むたびギシギシと軋み、割れた窓からの月明かりと懐中電灯を頼りに進んでいく。

あちこち穴が空いている階段を登り終えて一息ついていると角からバッと人影が現れた。

思わず後ろに下がりバランスを崩すところを生暖かい手に掴まれる。

背筋が冷たくなり心臓がバクバクしつつもなんとかバランスを保つ。

「あぶないよ先生。落ちちゃうところじゃん」

手の主はのんきにそう言った。

荒い息を整えて見てみると見覚えのある生徒だった。

「だれのせいだと思ってるだ。叫び声があったから駆けつけてきたのにまったく」

さっきまでビビりまくっていたことを悟られないようにわざと大声で怒鳴った。

「ごめんなさい。でも叫び声ってなに?僕は聞いてないよ」

「嘘を言うな。どうせ先生を脅かそうとしたんだろうがもう騙されないぞ」

彼の手を掴み階段を降りようとしていると

奥からドスドスとなにかが走ってこっちに来ている。

「ひいいいいい」

さっきまでの虚勢が消え恐怖で思わず逃げようとするが、生徒が手すりに掴まったためバランスを崩し階段を背に倒れる。

派手な音と痛みと恐怖と混乱の中、気を失った。

翌朝、匿名の通報でやってきた救急隊員によって救出された。

洋館の中で生徒を見たと話したが、洋館で会ったはずの生徒は家で両親と一緒にいたと言う。

結局、出会った子供は正体は分からずただの臆病な男の不運の事故として処理された。

もちろんこの話は小学校でも話題となり森の洋館の噂に新しく加わることになった。

人に化けて洋館に入るものを脅かす怪物の話。

そして森の洋館は今もある。

終わり

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