ダンスホールレイニー

 雨が降っていなかった。でも傘をさして立っていた。

「夕立の予報がありましたかね」

「いいえ、好きだから傘をさしています」

 少女である。傘で顔が半分隠れているが、雰囲気が多分少女である。

「傘が好きなのですか」

「いいえ、なんでも好きです」

 首肯しながら上を見る。雲ひとつない青空がずっと奥まで伸びていた。

「晴れも曇りも雨も嵐も雪も好きです。雨傘も日傘も長靴もサンダルも素足も好きです。素敵なものはどこまでも素敵だと思います」

「素敵じゃないものは?」

「素敵じゃないです」

 少女は傘をくるくる回す。くるくる回して、くるりと背を向け踊るように走り出す。美しいステップで角を曲がり、あとには私だけが残される。

 ぼうっと立っていると雨が降ってきて驚いた。傘を持たない主義なのでしとどに濡れた。まったく素敵じゃなくて落ち込んだ。

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