屋上から見える風景
寮には屋上があった。
勉強や慣れない生活に疲れた時、夜中に一人でよく訪れ、ボーっと空を見ていた。
屋上は侵入禁止のため、誰にも邪魔されない、僕だけのプライベートスポットだった。
大阪の空に星は見えないが、風が気持ちよかった。
ある日、一人の時間を満喫しようと屋上に向かうと、人影を見つけた。
「まさか泥棒か!?」と驚いたが、よくよく見ると、果たしてそれは宮崎くんであった。
身を潜め、何か観察している様子だ。
「宮崎くん何してんの?」
「シッ!」と宮崎くんは素早い動きでこちらにくると、僕を黙らせ、忍者のように軽やかな動きで、また持ち場に戻っていった。
怪しい……怪しすぎるではないか。
僕は身をかがめて宮崎くんに近づき、もう一度「なにしてるの?」と小声で聞いてみた。
宮崎くんは僕の方を向くことなく、寮の向かいを凝視したまま、そっと答えた。
「あっこ、女子寮やねん」
なんと、宮崎くんはのぞきをしていたのである。
僕はゲンコツで殴られたようなショックを受けた。
宮崎くんは常識を持ち合わせた好青年という印象で、のぞきなどというゲスいことをする人には見えなかったからである。
同じエロでもオープンでクリーンな方だと思っていた。
それがまさか……。
暗闇に身を潜め女子寮をのぞき、鼻息を荒くしているなどとは夢にも思わなかった。
あまりにもマヌケ過ぎる姿ではないか。
「人間は見かけによらない」と、また一つ生きる知恵を実体験で学ぶことができた。
昔読んだ「ちびまる子ちゃん」で、友蔵が「人間は一人になると色んなことをするもんじゃよ」とまる子に言っていたのを思い出した。
全くその通りだ。
肝に銘じておこう。
ところで、僕は宮崎くんを軽く軽蔑しつつも、ぶっちゃけ女子寮に興味津々だった。
うら若き乙女たちの私生活を丸裸にできる、こんな千載一遇のチャンス、人生でそうあるものではない。
その興奮たるや、エロ本なんかの比ではない。
そんな刺激的な体験を福知山では終ぞすることがなかった。
目の前に好機がぶら下がっているにも関わらず、おめおめと見逃す奴がいるだろうか。
あとは触るだけのごっつぁんゴールを敢えてスルーする奴がいるだろうか。
そんな奴は偽善者だ。
偽善など久留米くんの鼻くそと同じレベルだ。
罪悪感が0.001秒ほど頭を過ったが、僕は心静かにやさしくボールにタッチすることにした。
宮崎くんの横に静かに腰を下ろすと、彼はこちらを見て「そうこなくっちゃ」という感じで親指を立てた。
目の前の秘密の花園に僕の心臓は張り裂けそうだ。
「さあ、どこだ、どこにいる、僕の小池栄子!」
しかし、いくら凝視しても窓の明かりが見える程度である。
考えてみると当たり前であった。
物騒な大阪で窓を開け、部屋を外から丸見えの状態にしているギャルがいるだろうか。
きっと寮長からもきつく窓の戸締りを言われているに違いない。
ましてや向かいは野獣ばかりの男子寮である。
当然の結果ではないか。
僕の胸の高鳴りを返せ。
「宮崎くん、ここから女子の姿とか見えたことあるん?」
「いや、ないな」と、ガハハと宮崎くんは笑った。
「いつかは見えるかも知れん、ていうのがロマンやん。 伊澤はまだまだ若いな。 ありそうで無いってのが一番興奮すんねん」
「そういうもんなんかな……」僕はいまいち納得できなかった。期待した分、落胆は大きい。
「のぞくっていうこの背徳感、これ自身を楽しめるようにならんとあかんで」
「全然意味わからんです……」
僕らは二人顔を見合わせて笑った。
さて、潮時だということで、僕らは部屋に引き上げることにした。
ところで、屋上からは寮の三階の各部屋が丸見えであった。
特に高山の部屋がよく見える。
屋上から部屋へ戻る途中、高山の部屋を何気なく見ると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
なんと高山がエロ本を見ながら必死にピストン運動をしているのである。
宮崎くんはそれには気づかず、すたこらと屋上から消えていった。
僕は屋上で一人、爆笑した。
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