徳島すだちボーイ
同じ階の住人に、徳島県出身の久留米という男がいた。
顔はじゃがいものような輪郭で、頭は坊主、服はいつも黒のスウェットに裾のほつれたダボダボのジーズンズという出で立ちであった。
破戒僧のような禍々しいオーラを垂れ流し、「絶対に近寄りたくない」と要注意人物としてマークしていた。
寡黙で、常に仏頂面をしていて気軽に話しかけられない雰囲気で、すれ違っても目を合わせようともしない、完全に絡み辛いタイプだった。
しかし、彼とは予備校では同じクラスで、寮の部屋も近いということで、「何かと仲良くしておいた方が良いだろう」と思い、ある日、思い切って寮の廊下で彼に話しかけてみることにした。
「久留米くん! 僕ら同じクラスみたいやね」
「あぁ、そうみたいやな。学校でもどっかで見た顔だなぁと思ってたんよ」
笑顔を初めて見た。そして、話してみると割と普通である。
「理系って何学部志望なの?」
「ここという大学は無いんだけれど、獣医学部を目指してる。そっちは?」
「マジか! 僕も獣医学部を目指してるで。同じやん」
なんと久留米くんも同じ学部を目指していることが判明した。高校時代には同じ学部を目指している友人は一人もいなかったので、同士を見つけた喜びでテンションは急上昇。
思いがけず、身近なところに友あり。嬉しからずや。
獣医学部、獣医学科を設置している大学は数えるほどしかなく、また募集人数が少ないため、医学部並みに狭き門だ。
「伊澤さんは何で獣医を目指しているの?」
「競馬が好きで、獣医として牧場とかで働いてみたいなぁと」
「あら、伊澤さんも競馬好きなのか。 僕も競馬はよく見てるで」
「おー! テイエムオペラオーめちゃくちゃ強いなぁ」
「そやけど、天皇賞春はどうかな。 距離がしんどいんじゃなかろうか」
「重馬場になると、俄然有利やろうね」
同じ趣味を持つ人に出会う。亦楽しからずや。
廊下で立ち話もなんだということで、久留米くんの部屋に行って、話すことにした。
男は一つか二つ共通の話題があれば、すぐに仲良くなれるものなのである。
特にここは親元を離れて誰も知らない環境に飛び込んできた孤独者が集まる場であり、話せる人が見つかることがどれほど嬉しいことか。
僕は「とても良い知り合いを得た」と、この時は考えていたが、彼のおかげで何かと苦労することになるのだが、それはまた後のことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます