第27話 看病なはるか

…はるか、大丈夫?」

「ごめん、ありがと……なんとか……けほっ」


 結局、あれからはるかの体調は一晩じゃ持たなかった。


「それに隆弘だってすごく眠そう……ごめんなさい。私のせいで」


 確かに徹夜で看病こそしていたが、僕がフラフラになっているのはもっと別のところに理由がある。あと、二日間持てばいいんだけど……。


「大丈夫だよ、これくらい。はるかこそ無理しないでね」

「うん……うぅ……」


 それでも、テストに臨む。流石の僕としても止められなかった。

 フラフラになりながら通学路を歩いて、歯を食いしばってテスト受ける。

 見ている方が辛かった。


「ねぇ、優木さん。大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないかな……本来なら寝てないといけないはずだし」


 今のはるかの様子を見てクラスメイト達もすごく心配していた。テストは今日から三日間もある。はるかにだって相当負担があるはずだ。


「隆弘、明日のテストってグラマーかしら?」

「さっき受けたのがグラマーだよ。明日は社会と数学」


 不調のままだったらまともにできるわけない。頭だってまともに回るはずがない。

 それでも、はるかは根性で三日間に渡って全教科を受けた。


「うぅ……」


 受けきったはるかは精根尽き果てたかのようにへたり込んだ。

 それから、タクシーを呼んではるかと一緒にすぐに帰宅した。


「もう少しでベットで休めれるからもうちょっと待っててね」

「うん……ありがとう……」


 はるかをおぶって、部屋に連れていく。流石にしんどさがピークだったのかこの日はすぐに寝てくれた。僕もすぐに、ドラッグストアに薬、スーパーに食料品を買いに行った。


    ※


 テストが終わった翌日の木曜日。風邪のはるかを休ませた。


「はい、すいません熱が引かなくて……よろしくお願いします」

「初めてよぉ……休んだのって」

「そっかそっか。今まで皆勤賞だったもんね。今日は僕もずっとはるかの傍で看病してるからしっかり休んでてよ」


 僕も風邪が移ったという体で、学校を休んだ。もちろん、はるかの看病をするのが目的だ。


「でも、私だいぶ良くなってるわよ? 隆弘にだって学校休ませちゃったし……」


 はるかは申し訳なさそうな表情をしている。正直、その気持ちが分からないわけじゃないけど、僕が一番優先するべきははるかだ。


「そうかもしれないけど、心配なんだよ。はるかは僕がいると落ち着かない?」

「そ、そんなことないっ!」

「うん、ありがと……じゃあ寝てて」

「……うん」


 弱々しくも頷いて、はるかはもそもそと布団にもぐる。だが、すぐに体を起こしてきた。


「どうしたの……?」

「い……いてくれるんだよね……? 隆弘ぉ……」

「もちろん。ずっと傍にいるよ」


 はるかの頭を撫でながら伝える。


「うっ……うぅうう……」

「ちょ、ちょっと、泣くことじゃないって。大丈夫大丈夫……」


 いきなり目尻に涙を浮かべ始めたので、慌てて胸に抱き寄せて背中をさすってあげる。

 すると、はるかは、子供のように僕にしがみついてきた。まるで絶体に離さないぞ、といわんばかりだ。


「うれしぃ……ありがとぉ……」


 しゃくりを上げるはるか。どうしても風邪の時って言うのは、心細くなるもんね。


「じゃあ今日は、はるかの部屋にずっといるね? 何かしてほしいことあったらすぐに言ってよ」

「ありがとう……すき」

「うん。僕も大好きだよ」


「知ってる……ずっと傍にいてね……ずっとだからね?」

「ずっと傍にいるよ。最近だってずっと一緒にいたじゃん」


 はるかを寝かせながら頭を撫でる。


「ねぇ、隆弘……手を握って?」

「はいはい、それくらいいくらでも」


 はるかは僕の手を握ると、ようやく安心したように寝息を立て始めてくれた。

 それから数時間後。


「……隆弘?」

「どうしたの?」


 はるかの声が聞こえてきたけど、どうやら目を覚ましたようだ。


「うん、目が覚めちゃって」

「食欲はどう? バナナとか買ってあるけど」

「今はやめてく」

「分かった。じゃあ、熱だけ測っとこうか……」


 はるかに体温計を渡す。あとは買ってきた冷えピタも張り直して……。

 体温計を受けると、はるかはほとんど無防備に掛け布団をめくった。そして、パジャマの胸元をグイッと開けると、体温計をわきに挟んだ。


「…………っ!」


 急いで目をそらした。さすがに目のやり場に困る。

 そんな僕の葛藤を知らず、


「あ、冷えピタだ。貼って」


 おでこを差し出すのだが、必然的に胸元を見下ろすような形になってしまう。


「あ、ああ……」


 できるだけ見ないように注意しつつ何とか冷えおいた冷えピタは貼れた。


「きもちいい……」

「…………」


 朱色に染まった頬、潤んだ瞳、開いた胸元、数え役満だ。


(風邪のせい……風邪のせい……風邪のせい……)


 頭の中で必死にそう念じていると、はるかが体温計を差し出してきた。


「……三十七・二度か」


 明日には治りそうかな? 気を取り直して掛け布団をかぶせてあげた。


「ねぇ……」


 呼ばれたはるかの方向を見ると手を差し出してきた。


「あいあい」


 僕が手を握ると嬉しそうに頬を緩め、再び寝息を立て始めた。

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