第21話 約束と離れたくないはるか
優木さんに告白された後の帰り道。
二人して終始無言だった。さっきのキスを思い返しては恥ずかしくなって仕方なかった。多分、優木さんも同じ気持ちだったと思う。それでもというか、隣を歩く優木さんとの距離をはすごく近かった。
肩と肩はほとんど触れあってたし、手だってぶつかることもあった。そのたびに僕らは顔を見合わせるとお互いに顔を赤くしてしまう。その繰り返しの連続だった。僕と優木さんの考えることが同じだったらって思った。だから僕は勇気を出して優木さんの手を握ってみた。
「あ……」
「えーと……嫌だった?」
「そんなことない。私も同じこと考えてたから嬉しい」
そう言って、二人して同じタイミングで笑ってしまった。不思議なことに、それだけのことで、さっきまでの沈黙が嘘のように話せれるようになった。
「私、あなたの彼女なのよね?」
「うん、そうだよ」
改めて言うとすごく照れくさかった。すると、優木さんはその嬉しさを握った手から教えてくれた。喜びをかみしめるように、指先にくっと力を入れてくれる。それだけで、まるで甘く噛まれているようなゾクゾク感が、電流のように体を駆け抜ける。
「私、あなたを愛してる……あなたに愛してほしい……」
「優木さん……」
その言葉に背筋が、ムズムズッとしてしまった。
「その呼び方は嫌いよ……」
甘えるように、気持ちを訴えるように、指先が再び強く握られた。
「えっ?」
「だから、告白してくれた時は下の名前で……」
そう言って、優木さんは照れくさそうに顔を俯けてしまう。
優木さんの言いたいことが分かった。僕の気持ちを伝えるように手を強く握り返す。
「はるか」
「あ……! うん、隆弘」
「……はるか」
「隆弘。隆弘。隆弘」
「うん」
「~~っ……! いっぱい名前で呼び合ってるわね、わたしたち……嬉しい」
繋いだ手をニギニギさせながら、はるかは顔をほころばせている。
「もうわたし、隆弘の彼女なんだぁ……隆弘にとっての特別なんだぁ……」
「うん……僕にとっても、はるかは特別だよ。はるかの彼氏なんだから……」
子供のように嬉しさを隠しきれてない彼女を見てると僕も言わずにはいられなかった。
「うん! うん……知ってる! ううん、知ってた」
「そうなの?」
「うん。キスしたら私があなたのものなんだっていう自覚が出たから……キスを重ねるごとにその気持ちが強くなって嬉しくって……」
そう言いながら、幸せそうにはるかはつないだ手とは反対側で大事そうに唇を抑えている。そんな姿を見せられたらはるかが何を考えているのなんてすぐにわかる。僕ははるかの手を少し強く引いて、近くの自販機の裏に隠れた。
「隆弘……私の考えていること分かるんだ……」
「だって彼氏なんだから」
「嬉しい……」
お互いにハニかんで見つめ合うと、優しい気持ちが溢れ出した。
そして、こっそりと僕たちはまた唇を重ねた。
※
「手、繋ぐのってすごくいいわね」
「どうしたの突然?」
あれから僕たちは家に帰って、ソファに座りながら手をつないで話していた。僕もはるかも手を離すのがなんかもったいなく感じて握りっぱなしだった。
「だって、隆弘の手を握ってるだけですごく安心するんだもの。恥ずかしいんだけど、それが隆弘だから嬉しくって……そりゃあ、みんなしたがるわよね」
「そうだね。僕もはるかの気持ちが伝わってくるみたいで嬉しいよ」
今日、何度目だろうか? も一度、はるかの手をくっと握った。すると、はるかにも伝わったようで、くっと握り返してくれた。
「えへへ……私たちカップルだから通じ合ってるんだもんね」
喜びをぶつけるように、はるかは僕の肩に頭をぐりぐりとこすりつけてくる。
「私たち、カップルじゃない? 付き合い始めた男女って最初に、なにをするものなのかしら?」
「うーん……なんだろ……やっぱりデートかな? はるかは何かしてみたいことある?」
僕のレベルだと思いつくのはこれくらいだ。一緒にご飯も食べたし、手も繋いで、キスもしたし。
「そうね……」
はるかは、顎に手を当てながら思案していたが、すぐに思いついたようだ。
「あ、デートもだけどしてみたいこと一つあったわ。」
「なになに?」
なんだろうか。僕にできることなら、なんだってかなえてあげたい。
「あとで教えてあげるから今は内緒。それよりもデートって初めてなんだけど……」
「僕も初めてかな」
悲しいかな。経験があればリードできただろうに。
「それじゃ不安で任せれないわね」
イタズラめいた口調で、はるかは僕のことをからかってくる。なら僕も……
「けどまぁ……妹と二人で出かけた、って言うのを数に入れたら初めてって訳じゃないのかも……」
「だっ、ダメ、絶対にヤダ! 隆弘との初めてのデートはわたしがするのっ……!」
「うん、はるかの初めてのデート相手は僕がいいかな」
僕はパッとはるかから手を離した。その瞬間、はるかは少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になってくれた。なぜなら、僕がはるかに向かって小指を差し出したから。
「じゃあ、デートの約束しよ?」
「うんっ!」
二人で指切りしてデートの約束をした。
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