第12話 一緒が好きな相手と告白される優木さん

クラス委員に決まった翌日。


「準備はできてるか?」

「ああ、スコップもロープある」

「車は?」

「兄貴に事情話したら快諾してくたよ」

「じゃ、授業終わったらみんな頑張ろうな!」

「「「おーっ!」」」



 本日、何度目になるか分からないやり取りに、僕も何度目になるか分からないため息をつく。

 クラス委員に先生から指名された後、それはもうすごかった。

 周囲からの「こいつ誰だよ」的な視線もそうだが、つい先ほどまで優木さんと話題になっていた相手が同じクラス委員になる。これで話題にならない方が難しいだろう。


 そのせいで、男子からの嫉妬が凄かった。本格的に同性の友人をあきらめた方がいいレベルで。

 今のやり取りもクラスメイト達からだ。

 いや、ポジティブに考えよう。うん。僕がいることでクラスが団結してるんだから……と思ったけど、代償がでかすぎやしないだろうか……。


「今、大丈夫かな? ちょっと早いかもしれないけど、クラス委員会あるから一緒に行こ?」


 そんなことを考えていると、天使のような笑み(偽物)で、優木さんは僕に声を掛けてきた。


「さすがに早くない? まだ20分以上あるけど?」


 時刻は4限が終わった直後。昼食を食べてからだと思ってたんだけど。


「うん、そうなんだけど。私、去年もクラス委員やってたから真島君にいろいろと教えられるかなって。お昼ごはん一緒に食べながらどうかな?」

「そういうことなら──」


 僕が返事しようとしたところで、周囲からの視線が急激にきつくなった。視線だけで殺せそうな勢いだ。


「やっぱりだめかもしれない」


 殺されるかもしれないし。


「そ、そっか……迷惑だっかな……」


 優木さんは、僕の返事を聞いてシュンとする。


「おい、あいつ。断ろうとしているぞ。何様のつもりだ?」

「あんな悲しい顔させて。轢くか?」

「いや、刺すべきだろ」


「いやーやっぱり大丈夫だったかな、うん」


 殺されるかもしれないし。


「ほんとに! よかった……」


 ホッと、安心したように胸を撫です優木さん。


「スコップの数足りたっけ?」

「いや、他クラスも参加したいって言ってたから、追加でいるわ」

「わかった。じゃあ、放課後に」

「「「おっしゃーっ!」」」


(僕は一体、どうしたらいいんだよ!)

 

         ※


 優木さんと昼食を食べ、クラス委員会が終わった後。


 僕たちは学生会室で今日の議事録をまとめていた。優木さんにお願いされ、部屋の鍵をかけた直後だった。


「全く……3組のクラス委員ったら何も考えてないんだからっ! 全部こっちに丸投げして、もーう!」


 部屋の鍵がスイッチであるかのように、優木さん(優等生バージョン)の仮面が崩れ去った。


「あはは……そうだったね」


 僕としては苦笑いするしかない。


「でしょ! いくら私が頼りになるからって、丸投げするのは間違ってるわ! あームカツク! こうなったら、黒魔術の書で呪いをかけてやろうかしら……」


 いかん、優木さんが何かやばいことをブツブツと言い始めた。というか、黒魔術の書って効果あるのかな……。


「まぁ、優木さんがみんなから頼られている証拠だし、誇っていいことじゃないかな? それに、今日優木さんがいただけで、僕も随分と助けられたしね。ありがとう優木さん」

「…………」

「どうしたの?」


 優木さんはなぜか、僕の顔をじっと見つめたまま黙ってしまった。しかし、それも数秒のことで、諦めたようにため息をついた。


「はぁ……まぁ、そうよね。あなたのそういうところ、素直にうらやましいと思うわ。それに私だってあなたに感謝してるのよ?」

「そうなんだ」


 ちょっとびっくりだ。


「ええ、相方があなただと気兼ねせずに会話できるし、私も随分と楽だわ」

「そっか、それはよかった」

「まぁ、たまに余計な一言が多いけどね」


 そう茶目っ気たっぷりに、優木さんは話す。


「き、気を付けます……」

「ええ、気を付けてちょうだい。私はあなたと一緒にいるのが大好きなんだから」

「……! そ、そっか……」


 『好き』という言葉に一瞬、反応してしまった。決して、優木さんがそういう意味で言ったんじゃないのは分かっている。だけど、そこまでストレートに言われると照れくさくなってしまう。


「どうしたのよ? 私、何か変な事言った?」

「いや、変じゃないんだけどさ……」


 僕がどう答えようか考えていると、


「…………ん?」


 優木さんにも気づいたらしい。


「んん~~~ッッ!?」 


 優木さの顔が一瞬で真っ赤に染まる。


「か、勘違いしないでよねっ! 素の自分で話できるのが楽だからってだけだから!」

「分かってる! 分かってるから!」


 それから、優木さんをなんとかなだめ教室に戻った。



       ※


 放課後。

 裏門で待ち合わせをして、買い物をして帰る予定だったのだが、優木さんがなかなか来なかった。職員室にクラス日誌を渡してくるだけだというのに来ないのだ。

 少し不安になって職員室に向かう途中、


「えぇ!? どうしてだよ!?」


 僕も耳に軽薄そうな声が届いてきた。

 だた、冗談めかしてはいるが、不満タラタラなのは声のトーンで明らかだった。


「今度、俺の試合を見に来てくれたら絶対に気が変わるって! な? 俺もはるかちゃんのために頑張るからさ!」


 多分だけど、告白のことでモメているんだろう。巻き込まれるのも嫌だったので、退散しようとしたのだが、非常に聞き覚えのある名前が耳に入った。


(まさか……)


 おそるおそる、廊下の隅から様子を伺うと予想通りだった。


「ごめんなさい。あなたの気持ちは嬉しいんだけど、今は誰とも付き合う気がなくて……」


 天使のような仮面をつけて申し訳なさそうな顔をするのは──優木さんだったからだ。

 またしても、トラブルが起きそうな予感に僕は頭を抱えずにはいられなかった。

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