第6話 中二病と暴走する優木さん
優木さんとルール決めをした翌日、朝一番に優木さんの引っ越し荷物が届いた。
ただ、引っ越し業者が持ってきたのではなく、宅急便だったので僕らで荷物を運び込まないといけない。大きめの段ボールが10箱前後くらいに、本棚といった家具が数点。
中でも一際目を引いたのが、青と黄色で彩られた傘のようなもので白字で文字が刻んである。プチプチで厳重に梱包しているけど何だあれ……。
なお、優木さんの部屋は二階なので、なかなかの重労働になりそうだ。
「それで、優木さん。僕は荷物を運ぶだけで大丈夫? 荷解きも手伝おうか?」
「いいえ、大丈夫よ。ありがとう。運び込みだけよろしく頼むわ」
「あいあい」
「あと、どの段ボールか分からないけど私のお気に入りグッズが入ってるのがあるんだけど、重いから気を付けてね」
「……お気に入りグッズ?」
一瞬、何のことかわからなかったけど、優木さんの顔をみたらすぐに分かった。中二病グッズだろうなぁ。
「……何か文句あるわけ?」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら睨みつけている。というか、僕にはバレているんだから恥ずかしがらなくてもいいだろうに。
「何もないよ。さぁ、頑張ろうか」
優木さんがえらく子供っぽく見えて、思わず苦笑してしまった。
こうして、一階と二階を往復して荷物を運ぶ作業が始まった。
家具類は二人で慎重に運びながら、段ボールは各自で運んでいく。二人で作業していることもあってすぐに終わりが見えてきた時、アクシデントが発生した。
「これが最後の段ボールか。よいしょっと……」
他の段ボールに比べて一際重たかった。優木さんが言ってたように、中二病グッズが入ってるんだろう。大切な物だろうし、慎重に運ばなければ。そう思ってたのだが、グッズの重さに段ボールが耐え切れなかっただろう。
優木さんの部屋に入った途端、底が抜けてグッズがドサドサと落ち始める。
「うわぁっっと! ごめん優木さん」
「ちょっと大丈夫。真島君!?」
優木さんは慌てて僕に近づいてくる。
「うん、大丈夫だけど荷物が……」
二人して視線を落とすと、段ボールだらけの部屋にグッズが散乱する。
「構わないわ、仕方ないわよ」
「それにしてもいろいろとあるね……」
銃にマント、目玉が描かれた絆創膏、やたら長いマフラー、人形など様々なものがある。
「まぁ、中学生の時から集めてたらね。ほら、これとか真島君でもカッコいいと思うんじゃない?」
そう言って優木さんが僕に見せてきたのは、星の模様が描かれている白い銃だ。
「……これは?」
やばい、ちょっとカッコイイかもしれない。思わずゾクッと来てしまった。
「狂気じみた白の存在理由─ルナティック・ヴァイス・レゾンデートルよ」
そう言って、優木さんは手慣れた動作で僕の眉間に銃を構えてくる。
「白の弾丸に貫かれて己の罪を償うがいい、ククク、月を見るたびに思い出すんだな」
何かのスイッチが入ったかのように、優木さんはノリノリになっている。
僕がどうしようかと迷っていると、何を勘違いしたのか、優木さんのグッズ紹介が続く。
「……こうなったらあの召喚魔法を使うしかないのか。間に合ってくれ!」
優木さんの中でどのような設定があるのか知らないが、僕の目の前には円形のワイヤレス充電器がある。見た目は普通の黒い充電器。ただ大きさは普通の何倍もある。それこそ、ピザ一枚分くらいの大きさだ。
「冥界に存在し地獄の番犬ケルベロスよ、我に力を貸したまえ!」
掛け声とともに、優木さんがワイヤレス充電器にスマホを置く。すると、円形の充電器に白字の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の模様が光っているだろう。
「す、すげぇええええええ!」
興奮して思わず叫んでしまった。これで心をくすぐられない男はいないだろう、いやマジで!
僕の反応に気をよくしたのか優木さんの中二病グッズシリーズは止まらない。
「これが私の一番のお気に入りよ! 目に焼き付けなさい、聖剣エクスカリバー!」
次に、ドヤ顔の優木さんが見せてきたのは、黄色と青で縁取られた鞘と剣だった。
「す、すげぇ……」
クオリティーの高さに思わず息を呑んでしまう。腕一本ぐらいの長さからくるズッシリとした重量感に、眼を見張る鮮やかな色彩。
気が付くと、僕は無我夢中で剣を振るっていた。
だってさぁ、男なら誰でも剣一本で冒険することに憧れるじゃん。これは仕方ないよ。
「ふふ、カッコいいでしょ!」
「うん!」
久しぶりに僕もテンションが上がってしまい、注意力が散漫になっていた。荷解きの途中で、この部屋の足場が狭かったことにだ。
そのせいで、僕は段ボールに足を引っかけてこけてしまったのだ。
「うわっ──」
「真島君!?」
そんな僕を受け止めようとしたのか、慌てて優木さんが僕に近づいてくる。
「イテテ……ごめんね。大丈夫、優木さん?」
「ええ、もう少し注意す──」
そこで優木さんの声が途切れる。やけに近くで声が聞こえるような……。
目を開けると優木さんの顔が僕の目の前にあった。その整った鼻筋も、桜色の綺麗な唇も、滑らかな肌もすべて僕の目の前にある。僕が押し倒した体勢になってしまった。
「う、うわっ! ご、ごめん!」
僕は慌てて優木さんから離れる。
「も、もーう! 真島君のバカっ! びっくりしたじゃない!」
そう言いながら、首まで赤くなった優木さんがポカポカと僕を叩いてくる。加減してくれているんだろう、痛くはなかったけど。
「あはは……ごめんね」
「わざとじゃないとはいえ、次似たようなことあったら潰すから覚悟しときなさい」
「……潰すって何を?」
「え? そんなの決まってるじゃない。もちろん──」
その瞬間、優木さんは言いよどむ。
「~~~ッッ! バカ! 真島君の本当にバカ!」
「ごめん、ごめんってば! 僕は少しでもこの空気を和らげるため──」
「それで毎回、私のこと怒らせてるじゃない! いい加減、学びなさいよ!」
限りなく僕の会話術はレベルが低いらしい。もう二度と言うのはやめよう、うん。
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